【着物コラム】サイズが合わない着物を着るのは「みっともない」のか?
こんにちは、着物コーディネーターさとです。
6月も終わり、もうすぐ本格的に夏ですね。
まだまだ色々と油断はできない状況ですが、
私はまた家の中で浴衣や夏着物を楽しもうと思います。
さて、
先日、すらっと長身な友人から、こんな事を言われました。
「可愛い祖母の着物を見つけた。でも小さくて、私が着るとみっともないから、やめなさいと言われた」
そうそう、アンティーク着物って確かに小さいんですよね。
彼女はご家族からそう言われてしまったんだそうで、
結構ションボリしていて、私も悲しい気持ちになりました。
背の高さや体の形は生まれ持った物なので、
どんな形であれ、それが原因で「みっともない」と言われるのはやっぱり悲しいですよね。
でもこれ、結構あるあるなんじゃないかなぁと思います。
今日は「サイズの小さい着物を着るのはみっともない事なの?」という点について、少し掘り下げてみます。
古着の着物が小さい理由
①体格の変化
古い着物が小さい理由として、日本人の体格の変かがよく挙げられます。
理由としてよく聞くのは、第二次世界大戦後に食生活が激変した事ですね。
では、実際どのくらい変わったんでしょうか?
ちょっと調べてみました。
総務省によると、1950年の20歳の女性の平均身長は女性150.8cm
2000年には170.4cmに達しています。
しかし、最近では若者の身長は低下傾向にあるようですね。
2017年には154.9cmです。
(参考:統計で見る日本)
あくまでデータ上で比較すると、
現代と1950年(アンティーク着物の時代)で、平均身長が5cmも差が無い事になりますよね。
着物を着た事のある方なら分かると思うのですが、
着物のサイズってあまり厳密ではなく、結構ゆとりがあります。
所謂「標準体型」で、身長が5cmくらい差があっても、意外に着付けでカバーできてしまうんです。
体重の平均値は見ていないのであくまで身長だけです。
骨格の変化もあるのでこれだけでは断言できませんが、
「えっ、そんなに変わってないじゃん」と私は感じました。
②着物のサイズ計測の変化
これはあくまで私の個人的な経験なのですが、
身長が同じくらいの私の祖母の若い頃の着物を貰った際に、
着てみたら「え!?ちっちゃ!!」と驚いた事があります。
母と一緒に、祖母に話を聞いてみたところ、
「小さめに作って余り布でクッションとか作ったのよ~」
と言っていました。
布が貴重な物資だった時代なので、もしかしたら民間でそういった事が当たり前に行われていたのかもしれませんね。
子供の着物は大きく作って「揚げ」を取り、
何度も着物を仕立て直さなくても大丈夫なように作ったり、
着物と生活が密着していた時代は、現代とはそういうルールや知恵の方向性が違うのが当たり前なのかもしれません。
着物のサイズとしてよく重要視されるのが
「裄=腕の長さ」と「身丈=身長」です。
裄の長さを計測する際に、平成前半くらいまでは、手首の骨の出っ張りより短く作っていた、という話を聞いたこともあります。
ちなみに、現代では、3サイズから逆算してサイズを割り出すのが、割と普通に行われています。
あくまで個人間の伝承レベルのお話ですが、
サイズの計測にも流行や、その時代の社会的な背景が組み込まれていると考えるのが妥当だと思います。
あと、これも個人の感覚ですが、
最近の着物のサイズ展開、すごく大きいんですよね…
私は「ちょっと扱いづらいな」と感じることが多いです
小さい着物が「みっともない」理由
さて、冒頭のお話に戻るのですが、
私の友人と、彼女のご家族の認識にも少し差があるな、と私は感じました。
と言うのも、
彼女は恐らく、「ちょっとレトロな可愛い着物を普段着にしたい」
と感じて発言したのだと私は捉えたのですが、
彼女のご家族は果たしてそうだったでしょうか?
現代の日本では、着物を着る機会=人生の晴れ舞台、特別な日
だという認識の人が大半だと思います。
そういった日に「サイズが合わない着物」を着用するとなったら、
「みっともない」という認識になるのも、なんとなく理解できませんか?
サイズが合っていない着物は「お古」である事がひと目で分かります。
晴れの日に向けて、呉服店で着物を誂えるという文化も、
第二次世界大戦の後の「着物の礼装化」の時代に定着した習慣なので、
彼女のご家族と彼女自身の認識に齟齬がある可能性もありますよね。
「サイズが合っていない=みっともない」という感覚の正体は、これなんじゃないかな?と私は思います。
私はアンティーク着物が好きなのですが、
昔のお嬢さんの古写真や、大正時代のイラストレーターの作品を見ると、
着付けもすんごいテキトーで、袖口から長襦袢とか余裕でハミ出してるんですよね。
ゆるくて可愛いな~と私は思うのですが、
あれって、厳密にサイズを測定する事や、シワなくビシっと着物を着付ける習慣が無くて、
生活と着物の距離が現代よりもずっと近かったからだと思うんです。
現代とは事情がまったく違いますよね。
だから、サイズが合わない着物を無理やり着てみっともない!
という感覚もある意味では正解なのかもしれません。
でも、私自身はサイズが合わないけどアンティーク着物がとても好きです。
「サイズが合ってない服を着ていったら恥ずかしい」場所って、とても限られていると思うんです。
サイズが合っていない着物を着るのも着ないのも「個人の自由」です。
でも、サイズが合ってない着物は全てみっともない!と言い切れるでしょうか?
私は「そんな事ないんじゃないかなー」と思っています。
着付けで工夫したらOK!というラインにも勿論限界があるので、
一概に「大丈夫です!」と胸を張って言い切れないのですが。笑
そういう「グレーゾーン」も含めて、
自己選択の自由があると私は思います。
着物をファッションとして自己選択するの、楽しいですよ?