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【着物コラム】振袖のカジュアル化に見る、着物の用途と定義の変化



こんにちは、着物コーディネーターさとです。

先日、Twitterでこんな広告を見つけました。


呉服チェーン店の「きものやまと」の若年層向け展開なんですが、
「こんなの待ってた!」みたいなコメントが多数で正直びっくりしました。

確かにすごく可愛いですけど、
これを「振袖」と呼んでしまうのに抵抗がある人も結構いるのでは?
なんて思いました。
でも実際にSNS広告でこれだけのリアクションがあったので、
本当にこれを求めている人も少なくないのでしょうね。

(※私は呉服チェーン店でのお買い物はあんまりオススメしないです。
理由は今回は割愛しますが、行く前にお店のレビューを必ず検索して見てくださいね。)


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「小紋のような振袖」の台頭


ここ10年くらいでしょうか、豪華な振袖ではなく、
「小紋のような振袖」を目にする機会が、ぐっと増えたように感じます。

間違いなくその傾向を牽引してきたブランドは、
「豆千代モダン」や三松グループの「ふりふ」あたりですよね。
どちらも振袖に限らず、レトロなテイストの着物を売り出しています。


どちらのブランドでも扱っているのが、
「小紋のような柄付けで袖だけが長い」
というスタイルのポリエステルの振袖です。

でも、古典的な柄でかなりカラフルで、
絵羽柄という柄付けの存在を知らない人から見たら、差が分からないかもしれません。
私は20代の時に「ハタチになる前に知ってたらこれが着たかった!」って思いました。笑

そして、こんな振袖も存在しています。


大胆な柄ですよね!
普通の着物の概念だと「縞の着物=カジュアルな普段着の着物」なので、
「振袖=成人式に着ていく式典のための着物」
という概念は完全に無視しているんですよね。笑
完全にファッション性を重視している振袖だと思います。

冒頭の無地の振袖も同じです。
特に白っぽい色の無地の振袖は、私は花嫁衣装を連想してしまいます。
つまり、人様の結婚式には着ていけませんよね。
振袖は「未婚女性の第一礼装」という側面もあるので、
これらの着物は「振袖として販売しているけど、振袖と同じ用途では着用できない」という事になります。

通常の振袖は、「未婚女性の第一礼装」なので、
成人式や卒業式などの「自分が主役の場」以外での着用も視野に入れられています。


こんな感じですね。
ご存知の方も多いとは思いますが、一応説明しますと、
総柄の着物とは違い、絵羽柄という柄が施されています。
「未婚女性の第一礼装」と定義されるのは、こういった絵羽柄の振袖である、と私は認識しています。

つまり、振袖の用途が、
「どこに着て行っても恥ずかしくない第一礼装」から
「ファッション性を重要視した自分主体の服」に変化している
とも捉えられると思いませんか?


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こういった振袖の定義の変化には、色々な原因があります。

着物の売上のピークは1980年前後です。
(参考:fashionsnap.com「着物が売れない」市場縮小が続く呉服業界に未来はあるか?)

厚生労働省 の人口動態統計によると、1980年の女性の初婚年齢の平均が25歳前後で、
最新データもちょっと古いのですが、2011年の平均は29.4歳でした。
着物の売上のピークの時代と現代では、そのへんの事情にも変化がありますよね。

29歳前後になって、自身が未婚だったとしても、
同級生の結婚式に20歳の時に購入した振袖を着るのは…
ちょっと勇気がいるな、と私は思います。
コーディネート次第!と仰る方も勿論いますが、コーディネートも限界はありますからね。
個人の経験ですが、
シックな着物を豪華にするのは解決しやすいのですが、
派手な色や柄付けの着物をシックにまとめるのは凄く難しいです。

こういった背景から、
「未婚女性の第一礼装」としての着用機会も減少していると考えるのが自然です。
となると、成人式の1回だけに照準を合わせた営業展開をするのも、自然な流れなのではないでしょうか。

とは言え、若いお嬢さんが自力で着物を買うわけではなく、
親御さんが購入するケースもまだまだ多いです。
「未婚女性の第一礼装」としての側面と、「成人式にのみ着用する記念のファッション」としての側面、
どちらも振袖の一面だと捉えるのが、今後のスタンダートになっていくのではないでしょうか。


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着用する女性達の目線で、かつ現代の都合に合わせて振袖がデザインされるのは、
本当に素晴らしい取り組みだと思います。

しかし、こういった変化の際にいつも感じるのですが、
現代の和装のルール、着付けや季節感、着用する生地などのルールって、
「分かる人にだけ分かるトクベツ感」という、
言ってしまえば販売する側の都合で設定した営業用ルールです。
それをまたマーケティングの都合で捻じ曲げているわけですよね。

そこには一切触れずに、
これを「振袖です!」と販売するのは、ちょっと不誠実なんじゃないかな…と私は思います。

未婚女性の第一礼装としてデザインした振袖、
ファッション性重視で、成人式の1回だけの着用を前提にデザインした振袖、
どちらも一律で「振袖」ではあるのですが、
用途の違いは、今まで呉服屋さんが提示した「格」というモノの違いでもあるのではないでしょうか。
消費者側が情報収集をせずとも、こういった「前提」の事が共有できる健全なブランド展開がされるのが、
普通なら当たり前だと思うんですけどね。