【着物コラム】伝統文様は誰のもの?出版社の商標登録出願を通して考える「伝統文様と権利の関係」
こんにちは、着物コーディネーターさとです。
少し時間が経ってしまったのですが、
先日こんなニュースが私の周囲で話題になりました。
このアニメのキャラクターの着用している「市松」や「麻の葉」は「伝統文様」と呼ばれる文様に分類されているのですが、
この「伝統文様」って定義がとても曖昧なんですよね。
今日はこの「伝統文様の商標出願」というニュースを通して考えた、
伝統文様と権利の関係性について書きたいと思います。
伝統文様とは何か?
一般的に「伝統文様」と呼ばれている文様は、
奈良時代~平安時代に中国から伝来し、貴族や武士の間に定着し、
江戸時代以降に民間に定着した文様が多いように思います。
「この伝統文様には、かくかくしかじかこんな有り難い意味がある」
というような解説の記事は、よくネットにもあります。
日本の場合はシルクロード経由で中国から伝来したケースが多いようです。
江戸時代以降に民間に定着した、というのは、
戦争がなくて平和だった→民間人の文化が発達した、という背景があるからです。
特に上記のニュースでも取り上げられていた「市松」や「麻の葉」は、
歌舞伎がきっかけで庶民に流行した柄としても有名です。
とても簡単に解説させていただきましたが、
要するに、伝統文様の著作権保有者は誰なのか?という話になると、
「今現在は誰も著作権を所有していない」という事になります。
商標とは何か?
さて、今回のニュースを読んで私が個人的に感じたのは、
「商標」と「著作権」がごっちゃになっている人が案外多いな、という事です。
これもすごく簡単に説明すると、
著作権:創作した人が保有する権利
商標:商品につける標識(トレードマーク)
です。つまり全然別のものなんですよね。
私は法律の専門家ではなく、至極当たり前の事しか解説できないので、
細かい事が知りたい方は各自で調べてみて下さい。
親切な方が、かなり細かく書いてくださっています。
既にご存知の方も多いかもしれませんが、
商標は既存の創作物であっても登録ができます。
戦国武将の家紋が商標登録されている例もありますし、
「柄」が特定の企業や商品のトレードマークとして機能していれば認められるようです。
百貨店の「伊勢丹」の紙袋の柄や、
バーバリーのチャック模様、ルイ・ヴィトンのダミエなんかも商標登録されています。
実はこのニュースが話題だった時に知人と話していて、
エイベックスの「のまネコ」商標登録の時の事を思い出すね!
という話に発展したんです。
ちょっと古いお話で恐縮ですが、対比として分かり易いので概要のwikiを張っておきますね。
当時2ちゃんねるで広く使われていた「モナー」というキャラクター真似たと思しき「のまネコ」を、
エイベックスが商標登録しようとして殺害予告や自作自演疑惑にまで発展した事件です。
後々の展開の方が過激でクローズアップされやすかったのですが、
インターネットで広く使用されていたキャラクターを、特定の企業が利益のために使用する事に対して非難の声が上がったのがきっかけです。
古のネット民の方は、覚えてる方も多いのではないでしょうか…
著作権保有者と商標登録をした事業者の関係性がよく分かりますよね。
両者は必ずしも一致はしません。
むしろ、一致するケースの方が少ないのかもしれませんね。
商標登録を申請するに至った背景
そもそも、なぜ出版社が商標登録を申請するに至ったのでしょうか?
これは私の個人的な考察ですが、
これまで「二次創作」と称して、所謂コミケや同人活動、コスプレを好む所謂「オタク」の皆さんに、
出版社も「盛り立てて頂いている」という関係性があったわけですよね。
コミケなどで「頒布」という単語を使っているのも、二次創作で利益を出してしまうと権利侵害に当たるので、
「原価以上の金額はつけていない」「私たちは利益を得ていません」
というポーズのために使用されていたわけです。
しかし、作品があまりにも人気になってしまい、
「個人のお楽しみ」の範囲を超えた権利侵害が目立つようになってきたのだと思います。
対策として「伝統文様の商標登録」という結論になったのでしょう。
もともとの「グレーゾーン」を享受していた方々は
「今後はどの程度が個人のお楽しみの範囲内認定なのか」が気になるわけで、ネットの記事もそちらに寄った記事が多いですね。
商標登録された場合の影響
さて、今回、商標が申請されている指定商品は、
・9類 電子機器関連
・14類 アクセサリ関連
・16類 文房具関連
・18類 かばん関連
・25類 被服関連
・28類 おもちゃ関連
だそうです。
(私が例に挙げた「市松」と「麻の葉」以外の柄も同様だそうです。)
この「25類 被服関連」、当然の事ですが和服も対象になりますよね。
さっき私が対比として挙げたバーバリーチェックやダミエなんかも、
あの柄の着物が別のブランドで存在していたら、法的措置を取られても不思議ではないと思います。
伝統文様が特定の企業に商標登録されるという事は、
その伝統文様が特定の企業の象徴として使用されるという事なんです。
「第24類の織物(布地)は出願されていない」
というネット記事も見かけたのですが、
和服の場合は反物だけ生産して販売して終わり、という事はないでしょう。
商標権の侵害と判断されるポイントは「類似性があるか」になると私は考えているのですが、
「どの程度でアウトの判定なのかな?」と思って少し調べてみました。
分かり易そうな記事を見つけたのでリンクを貼りましたが、
個人的には「判断が難しそう」以上の感想が持てませんでした。
つまり、裁判やって判例を作る、を積み重ねながら「アウト」の線引きを作っていて、
裁判しないなら示談して折り合いつけましょう!っていうのが前提なんですよね。きっと。
こういうネット記事や判例を見る限り、
「配色が違う」「柄の大きさや比率が違う」程度でも、
商標権の侵害に当たるとジャッジされる可能性もあるのでは?と私は思います。
今回の件、私が見た限りでは、気にしている和装産業の方はとても少ない印象です。
「市松や麻の葉柄の着物、販売できなくなっても困らないのかな…?」
というのが私の正直な感想なのですが、ネットで発言していないだけで対処して下さっていることを願います。
少なくともニュースは見ていて欲しいですね。
ちなみに、商標が登録されるまでには長期間かかるケースも多いようです。
続報が数年後、なんていう事もあるのかもしれませんね。