ひょんなことから3Dプリンターでマスク制作をお手伝いすることになって思ったこと
きっかけはあるツイッターからでした。
想像以上にマスク依頼が来はじめて、驚いています。病院の方だったり、本当に様々な方々連絡を下さいます。
— なるき@3D職人 価値ある物を作る (@naruki1220) April 9, 2020
大学生がもつ機材の量では、最早追いつかない…。身近に3Dプリンターがある方、マスク作りに協力して頂けないでしょうか…?
どうか、よろしくお願いいたします🙇🙇🙇🙇🙇🙇🙇🙇🙇🙇
大学生の なるきさんという方のツイートです。
なるきさんは大学生ながら、僕なんかが及ばないほどに多方面で活躍されていて、いつもその行動力に頭が下がる思いで見ている方です。
なるきさんが、少し前から3Dプリントでマスクを作り始めたことは知っていました。さらに作ったマスクを希望者には無償で届ける、ということをやられています。
コロナの影響でマスクが足りなくて世界が殺伐とするなか、なんとまあ控えめに言って天使のような方ではありませんか。
ただ、当初の想定以上にマスク作成の依頼が来ているらしく、個人では製造が追いつかない、とお困りのようで、冒頭のツイートに繋がったわけです。
僕は協力を申し出ました。そこからこの話はスタートします。
まずはマスクデータのダウンロード
マスクの3Dデータは、イグアスという会社のWEBページにあるようなので、ダウンロードさせて頂きました。
ただ、この時点では、うまく作れるかどうかまったく自信はありませんでした。
これまでに僕は3Dプリンターを使ってあまり生産性のない自作モノを展開してきたものの、そもそも自分用なので細部は気にしないし、最近は3Dプリンター自体、使っていなかったので、ホコリかぶってるしで不安だらけでした。
過去の造形物(ダウンロード可)
まずはやってみよう
こういった時に「できるか・できないか」を考える必要はないと思います。
できないことは考えない。なぜなら「できるまでやるから」です。
まずは挑戦することです。考える前にやります。それがスピード感に繋がるのです。なるきさんの動画を見てマスクの大まかな概要を確認します。
まずは手持ちのフィラメント(PLA)でひとつサンプル品を作ってみて、そこから問題点を抽出してみようか。そこからはじめよう。
思考錯誤してみて、印刷に成功すれば、あとはそのデータと印刷設定を使って量産するだけです。問題点は1枚の印刷に5時間半かかるということでした。
この時間の制約は、後に僕を苦しめることになります。
第1作目:失敗
マスクデータは男性用、女性用、子供用と計3種類あります。
いきなり成功するとは思っていないので、まずは一番小さい子供用のマスク(厚い)を印刷してみます。印刷方向とかもよくわからないので、横に寝かせた形で印刷してみました。
試作品第1号。もはや嫌な予感しかしない出来です。サポートがびっしりついており、これまでの経験上、見た目に「これ剥がすの無理」と思いました。
空力良さそうなマスクです(プラス思考) https://t.co/tVWlLbOiDN
— かたおかさとし (@sato001) April 10, 2020
北斗の拳に出てくる人がしてそうなマスク。
1時間格闘して頑固なサポートを剥がしましたが、実際に出来たものは「触ると自分が怪我をする」という、マスクの概念とは対極に位置する物体でした。指切った。
第2作目:初の成功
寝かせるとどうしてもサポートがついてしまうので、今度は立てて印刷することにしました。これで少なくともマスク表面にサポートがガチガチにつくことは無いはずです。
おお。いい感じ。
印刷中は近くでずっと見守っているのですが、今度はサポートも最低限なので、良さげです。ただ、マスク裏側には多少のサポートがついており、ここは口や鼻が触れる部分なので、そのへんがどうなるか気になりました。
まあ、サポートがうまく剥がせれば、あとはペーパーがけでなんとかできる、とは思っていましたが。裏側は何気にダースベイダーみたいになってました。
裏側のサポートはキレイに難なく剥がすことができました。やった。成功です。
サポートを剥がし、ルーターで細部を削り、全体的に400番のペーパーがけして完成です。まあまあ良い出来になりました。
第3作目:PETGフィラメントで作成
第2作目にして成功したので気分もよくなり、ふいに実験してみたい気持ちになりました。急いでいるというのにすいません。
いちど成功すると、もっと良いものができないかな?と変な功名心が湧いてきます。
3作目は素材を変えてPETGで作ってみました。
PETGはPLAとABSの中間くらいの性質で、柔軟で丈夫な素材です。これならしなやかで、割れにくいマスクができるのではないか、と思い、試しに作ってみた次第です。
悪くはない。悪くはないが…。
PETG特有の謎の光沢あり。妙にキラキラしていてちょっと痛いですが、これもまあ悪くはないと思いました、が。
PETGは温度設定が難しいのが難点(経験不足)です。上げすぎると素材が焦げてしまって、下げすぎると大量に糸を引いたり、ノズルが詰まったりしました。
さらに、印刷後の修正加工に予想外に時間がかかり、こちらは完成するのに7時間ほどかかりました。しかも時間をかけた割に期待していたしなやかさはありませんでした。
印刷後の修正に時間を取られるのは現実的ではないので、これは泣く泣く却下しました。この光沢がむしろたまらんわ、という方がいれば頑張って作りますが需要をみて決めたいと思います。
第4作目:2枚印刷を試みるも失敗
今度は2枚同時印刷を試してみました。
1枚の印刷が5時間半かかるのですが、2枚同時に印刷すると8時間くらいで終わります。これははっきりいってお得です。
配置してみると、僕の3Dプリンターでは2枚が限界でした。X-Smart付属のスライサーソフトは、物理的には離れていても、影(上の画像参照)の重複も許されない仕様なので、2枚が限界です。
ただ、これは印刷も失敗に終わりました。
原因は2枚目から1枚目へノズルが動く時に、1枚目の印刷物にノズル先端が引っかかって印刷物が途中で倒れてしまうのです。もしかしたら水平軸が狂っているのかもしれませんが、ゆっくり原因を究明している暇がありません。
2回やってみて、2回とも同じ失敗をしたので、この時点で2日のロス。この方法は泣く泣く諦めました。結果的に以前成功した方法で地道に1枚ずつ印刷する方が早かった、というわけです。
第5作目~第7作目:地道に印刷し続ける
平日、仕事から帰って、夜7時半頃にに3Dプリンターをセットして、深夜1時までプリントを見守る、という日々が続きました。1日1枚制作。写真はプリントを見守っている天使のような僕です。
3Dプリンターのフィラメントが高い頻度で絡まるので、プリンターのそばについて見ていないと、3時間くらい印刷したデータが、サクッと台無しになるなんて理不尽なことが普通に起こります。
余談ですけど、不良部分の修正ができる3Dプリンターがあれば良いなと思いました。データと実物のスキャンと比較して、足りない部分を肉付けしてくれるような3Dプリンターとかね、そのうち開発されないかな。
X-Smartはフィラメントの供給が止まっても、残念ながら印刷は止まってくれません。フィラメントがなくてもノズルは最後まで健気にエア印刷してくれます。
なんとも憎めないカワイイ3Dプリンターなのです。(親心)
このフィラメントの供給部分とノズルの関係は、隣の席なのに微妙に連携の取れていない仲悪い公務員みたいなものです。
第8、第9作目:連チャンで失敗
プリント方法はすでに確立したものの、どういうわけか、たまにプリントを失敗してしまいます。
以前に2枚同時印刷したときのように、プリント中に自らがプリントした部分にノズル引っかかってしまって壊してしまう、という悲劇がおこります。
赤矢印の部分、マスクのゴムひもを通す用の細い通路のような部分ですが、ここを印刷している時に、上に積層されて固定される前に、ここをノズルが小突いてしまって浮いて壊れる、という失敗をよくします。
ただ、毎回失敗するわけではないので、原因がわかりませんが、とにかく数打つしかない、ということで神に祈りながら作り続けました。
第10作目:ようやくすべてのマスクが成功
遅くなってごめんなさい。
— かたおかさとし (@sato001) April 16, 2020
やっとマスクが5枚完成です。 pic.twitter.com/qOc2jMvTwq
アベノマスクより時間かかった。
毎日印刷し続けて、ようやくご依頼分の5枚のマスクが完成しました。このマスクは僕の責任で、ご指定の住所へと直接お届けさせていただきます。
ゴムひもを通す部分(画像の下側の穴)が弱く、どうしても心もとない作りになっていますが、この部分は僕の力ではどうしようもありませんでした。すいません。
お金を払って貴重な経験を買いました
誰かのためにマスクを作る、という経験はなかなかできるものではありません。
見たこともない、自分とまったく接点のない、誰がつけるのかわからないマスクを僕はこの1週間、ただただ作り続けました。それにはどんな意味があったのでしょう。
必要としてくれてることだけは確か
どなたが使ってくれるのか、わかりませんが、日本のどこかでこのマスクを求め、待っている人がいる。
これだけは事実なので、僕はその気持に応えるために、精一杯頑張れたのかもしれません。
5枚のマスクを今朝、発送しました。とてもすがすがしい気持ちになりました。
感謝は必要ありません。僕は苦労のかわりに3Dプリンターで誰かのためにマスクをつくった経験、という価値を手に入れたからです。
この経験はいつかどこかで、未来の僕を助けるでしょう。
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![Satoshi Kataoka](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/20650051/profile_0a820a567b6f02480533fa46db8710a0.jpg?width=600&crop=1:1,smart)