【音楽と街】旅にキセル。
妻と海外放浪旅の日記、第二弾。
※第一弾はこちら↓
8/11、タイ滞在11日目。
早朝からバスでトーンブリ駅へ向かう。
この日は鉄道旅。
バンコクからカーンチャナブリーという街へ、鉄道で行くことに。
カーンチャナブリーは、「エラワンの滝」という全長1500mに及ぶ七段の滝が有名な街。
タイで最も美しい滝と言われるエラワン。
これは是非とも見たい。
バンコクから行くにはずいぶん距離があり、ミニバンやタクシーを旅行会社で手配してもらって行くのがベター。
ただし。
旅行会社では手数料もかかるのでお金が結構かかる。長距離移動というのは総じてそういうものだが、こういう時こそ費用を安く抑えるべく、なるべく自力で行くのが我々の旅。
なんとか旅行会社を介さずに行けないものか。
ということで調べてみると、カーンチャナブリーまで鉄道が出てるとのこと…!
でも、時間はかかるし、タイの鉄道は時間通りに来ないこともあって大変だよ、と現地の人からの忠告が。
それでも僕らは自力でチケットを入手して鉄道で行くことを選んだ。
もちろん安く抑えられるというのもあるんだけど、やっぱり旅は鉄道が好き。
鉄道ってなんか旅情があるじゃないですか。
バスやタクシーだとどこか旅情に欠けるし、何より車全般に酔いやすい僕らは、鉄道なら酔うこともない。
だから、例えタクシーより時間がかかっても、
身体も気持ちも楽なのである。
というわけで、自力でエラワンまでレッツゴー!
「チケットカウンターは混むから大変だよ」
と現地の人に言われていたので、駅には出発の1時間前には到着するように早起きを頑張った。
ただ、駅までのバスがなかなか来ず、結局駅に着いたのは30分前。
大丈夫かな、チケット取れるかな。
内心大焦りでカウンターに向かうと、混むどころか、誰も並んでいない。
ここでいいんだよな…と思いながら
「カンチャナブリー、ツー」とカウンターに向かって言うと、料金を告げられる。
言われた通りの額を渡すと、すっ…と音もなく2枚のチケットが。
「……さ、さんきゅー」
あまりにもスムーズに買えてしまった。
昔、インドを旅したときにはチケットカウンターでスタッフと喧嘩した記憶もあるので、こうもすんなりいくと逆に不安になる。。笑
ホームには「Cafe Amazon」というコーヒー屋さんがあり、アイスコーヒーを買って電車を待つ。
早起きした上に、炎天下の中ずっとバスを待っていてすっかりクタクタだったので、アイスコーヒーが身体にキンと染み渡る。
ようやく列車が到着。
いざ長旅の始まり。
車内には観光客もいれば地元の人もいる。
みんなで同じように揺られる鉄道旅。
車窓からは、のんびりした草っ原の風景が続く。
妻は嬉しそうに「世界の車窓から」のテーマソングを口ずさんでいる。
延々と流れる車窓の景色を見ながら、ふと思う。
数ヶ月前まで死にものぐるいで働いていた僕は、
気が付けば異国の鉄道に揺られながら、穏やかな風景を見つめている。
日本では友人知人がみんな一生懸命働いている。
自分だけこんなにのんびりしていいのかな…。
なんとなく罪悪感と焦燥感に駆られる。
でも、目の前で鼻歌を歌う妻を見て、
それでいい、と思った。
毎日上司の叱責と激務に追われ、
夜中に何度も目が覚め、
朝になれば頭痛と動悸に襲われながら、
それでも這いつくばって仕事に行っていたあの日々。
ある日突然何かが弾けたように身体が動かなくなった。病院に行くと直ちに診断書が出され、会社に提出すると、すべての仕事を中途半端にしたまま、あれよあれよという間に休職が決まった。
それからはしばらくは何もせず、寝てばかりいた。
頭の中は、自分がほっぽり出した仕事のことで頭がいっぱいで、今にも上司からの電話が鳴り、いつまで休んでいるんだと怒鳴られそうな気がして、怖くて泣いていた。
このまま退職したとして、次はどうすれば、という不安もあった。
これまで職を転々としてきたけど、結婚を機にここらで定職に就き、お金を稼ごう、せっかくなら昔憧れていた業界にもう一回挑戦してみよう。
そう思って頑張って転職活動をしてきたのに、こんな形で終わるなんて。もう同じようなモチベーションで就活なんてできる気がしない…。もう30なのに。
不安で不安で仕方なかった。
夫として情け無かった。
いよいよ結論を出す時期になり、思い悩んだ末、同じ職場に復帰はしたくないと伝えると、妻は、
「えっ、まじ!じゃあ一緒に旅に行こうよ!」
と言った。
そして気が付けば、僕は有り金を握りしめて飛行機に飛び乗り、妻と一緒にタイにいる。
人生ってどうなるか本当にわからないな……。
でも思うのは、
辛かったあの日々があったからこそ、この旅がある。
目の前を流れていくこの景色を、心の底から美しいと思える。
ということ。
例えば僕が平穏に会社員を続けて、有給でも使ってちょろっとタイに行っていたとしたら、この車窓の風景にここまで感動できていただろうか。
辛いのがいいわけじゃないけど、
辛い思いをした人には、それなりの見返りがあっていいんだと思う。
だから、胸を張って僕は、
この景色を美しいと言おう。
「世界の車窓から」を口ずさむ妻の向かいの席で、僕はキセルをこっそり歌う。
悲しい朝はもう乗り越えられたかなぁ。
電車に乗って「キセル」(無賃乗車のスラング)に感動するなんてちょっと笑っちゃうけど、
僕が学生時代から愛してきたキセルの歌が、いま一番心に染みている。
のんびり行こう。
きっとこの旅は、ビューティフルデイだ。
鉄道はやがてカーンチャナブリーへ到着。
自力で辿り着けた。
やればできると自分たちを褒める。
旅はまだ、続く。
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