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『正反対な君と僕』とかいう、ラブコメの皮を被った精神救済マンガについて

みんな、『正反対な君と僕』ってマンガ、知ってる?読んでる?

この絵柄が目印、色味カワイイ…

阿賀沢紅茶先生がジャンプ+で連載しているマンガなんだけど、コレ

・次にくるマンガ大賞
・このマンガがすごい!

などの数々のランキングにノミネートされている、
いま話題沸騰中の作品なんだよね。

実は一年くらい前からずっと追ってるんだけど、これがまあ面白い!!

※この記事は当該マンガのネタバレを含みます!
※作者様の意見ではなく、あくまで自分なりの捉え方と考察です!


ざっくりあらすじ解説


主人公は
明るいクラスのムードメーカー女子、鈴木

クールで物怖じしない、ちょっと孤高の男子、谷くん

左:谷くん 右:鈴木

鈴木はいわゆる「陽キャ」で、友達に囲まれていつもクラスの中心。

一方の谷くんは、寡黙で孤高な一匹狼気質…。
言ってしまえば「隠キャ」なわけですよ。

ま、勘の良い人だったらこの設定を見て


「あーハイハイ、この凸凹コンビがなんやかんやあって恋に落ちる訳ね」

「最初はお互い苦手意識を持っていたけど、ふとした優しさにキュン…みたいなノリだ」


なんてこの先のストーリーが予測できちゃうよね。



俺も最初はそうでした。

ラブコメと見せかけて

大声で告る鈴木さん…、行動力パネエっす…

5巻くらいで、ついに想いを伝えることに成功したシーン

…に見えるでしょ?


1話目なんだぜ、コレ。

ラブコメで言ったらクライマックスになるはずの告白シーンが、まさかの1話目でブッ込まれるテンポ感。

しかもこれ、「聞き間違い」とか「友達として…って意味だよネ?」
みたいな野暮な展開にはなりません。

ふっつーに恋が実ります。

はい、
一話目にして主人公たちのカップル成立です。

めでたしめでたし。完。



------で、終わる訳もなく。


明るい子だって、悩んでるに決まってるよな


ここが作者の技が光るところというか、「上手い」部分なんだけど…
キャラクター性の作り込み方がすごく丁寧なんだよね。

鈴木の内心


鈴木に友達が多くて、明るくて、誰にでも分け隔てない「良いヤツ」なのは間違いなく事実なんだけど、それってきっと

他人から見たときの鈴木

なんだよね。

うーん、断りづらいシチュエーション…

「宿題写させて〜」って頼まれれば、茶化しながらも見せてあげるし、

バイト先のおばちゃんにインスタのフォローをお願いされれば、
ちょっとイヤでも明るくOKするし、

早く帰りたい時でも友達から誘われたら遊びに付き合うし、


で、それは全部周りの人に気を使っているから-----

ではなく、そうするのが"鈴木なりの処世術"であって

生きていくのに必要だったからなんだよね。


そう考えるとけっこー暗いとこあるんじゃない?この子…


本人もそのことには自覚的で、そんな自分をダサい人間だって思う事もある。

ただ誤解して欲しくないポイントとしては、そんな悩みを抱えながらも結局鈴木は明るい性格がベースにあって、

こういう言動をいつも無理してやってる訳じゃないってところ。

キャラを演じてるっていうよりは、
自身の持つコミュニケーションスキルの副作用みたいなものなんだと思う。

まあなかなかね、自分の意見を言うのって
このくらいの年代だと難しいよね。

谷くんに対しての想い


そんな鈴木だからこそ、
空気に流されず自分の意見をハッキリ言える、
自分と真逆の谷くんは憧れの対象であって。

こういう人、カッコいいよね…大人になると分かる…

とはいえ周りの目が気になる鈴木は、
隠キャにダル絡みする陽キャ

みたいな形でしかこれまで関われなかったし、

ガチの恋愛感情を持っていることがいつものメンバーにバレたら、どんな反応をされるか気になって
全くそういう雰囲気を見せないようにしてたんだろうなあ、と。

人間は、相互作用で変わっていく


ハイ、ここでこの作品の「核」となる部分が見えてきます。

一話目の中盤で、いつメンの山田(根っから明るい陽キャ男子)から、
谷くんとの関係を茶化されたことでまた思い悩むことに。

どう考えてもキャラじゃない。
どう考えてもお似合いではない。
いつもの自分のコミュニティからしたら、明らかに「異質」な関係。

そんな中、鈴木は-----

ついに正直に自分の気持ちを打ち明けます。

谷くんが普段動作もなくやっている「自分の意見をハッキリ言う」を、
ここで鈴木が初めて実行するんだよね。

当然周りはドン引き…

「スズキ!行ってこい!!」なんてセリフ、
めちゃくちゃ勇気づけられるでしょコレ。

なんてことはなく、全力で応援!!!

谷くんに憧れた鈴木が、それに倣って自分の意見を言う流れ。

でもそのやり方は谷くんとは少し違って、
鈴木らしい明るくポップなテイストになっている…

このように、人間関係で生まれる相互作用というか、
互いが互いに少しずつ影響しあって、行動や思考が変わる様子。

これがこの作品の妙というか、味わい深い部分だと思う。

漫画なのに「高校の時こんなことあった〜」と妙にリアルに感じさせられるのは、きっと主人公達の心の動きが丁寧に描かれているからなんだろうな。たぶん。


あと、何が良いって鈴木周りの友達たちがみんな本当に「根が良いヤツ」なんだよね。

谷くんと鈴木の関係をからかった山田(金髪の男子)も、
本当に悪意なくいつもの調子で話を振っただけのつもりなんだろうなぁ、と。

ここから前半に紹介した、告白シーンへとストーリーは進んでいきます。

ここまででまだ一話目。
なんて濃い作品なんだ…


もう一つの主人公:タイラとアズマ


この漫画のメインはやっぱり鈴木と谷くんなんだけど、
他にも魅力的なキャラは沢山いて、

そんな中で個人的に裏主人公として推したいのが、
こちらの平(タイラ)と東(アズマ)のコンビ。

左:アズマ 右;タイラ
「タイラズマ」コンビと呼ばれている(命名:鈴木)

タイラは中学時代はイケてなかったけど、進学してからイメチェンして鈴木たち陽キャグループに所属している、
いわゆる「高校デビュー」男子。

対するアズマは美人なお姉さんって感じ。
昔から「一軍グループ」にいるような、
酸いも甘いも経験豊富な大人な女子。

この二人、なんと中学時代からの同級生なんすよ。

元々は全然違うコミュニティにいたはずが、高校に上がってから一緒につるむようになった…という歪な関係性。

タイラからすると、過去の自分を知っているアズマに対して若干の気まずさを感じる事もしばしば。

一方のアズマはあんまり気にしていない様子。

なんならタイラが中学のメンツと関わるのを嫌がっていることを察してか、さりげなく気遣いをする余裕すらある。

この辺、ホントに高校生?ってなるくらいお姉さんなんだよな…

「アズマだけがすり減ってんじゃん…」

元カレからの白々しい連絡も、鼻で笑って流せるアズマ姉さん


そんなアズマもたまに人間関係で、「なんでこうなっちゃってんだろー?」くらいには悩むんだけど、

そのあとすぐ「ま、いっか(そーゆーもんだし)」って許容できちゃうんだよね。

アズマと鈴木の似ているところは、二人とも周りの空気を読んで行動する処世術を持っていること。

異なるところとしては、
鈴木が谷くんを通してそんな自分の気質を変えていくところに対して、

アズマはもうとっくにその辺達観していて、鈴木ほど深く思い悩むことがないところ。

一瞬モヤッとしても「ま、いっか。」と流せる精神性

まあある意味大人ではあるけど、コレは一種の「諦め」であって、
根本的な問題解決ではないと思う。

冒頭のセリフは、そんなアズマを見かねたタイラがついつい口にした言葉なんだよね。

さらっとこんなこと言えるなんてフツーに良いヤツじゃん…
なんで中学時代に孤立してたんだ…

タイラ:「元・冴えないヤツ」が故の解像度


ここでキーマンとなるのがタイラですよ。

今は違うとはいえ、中学時代までめちゃくちゃ内向的で、クラスに馴染めなかったであろうタイラだからこそ、

人間関係に対する解像度や言語化能力は作中でも群を抜いてる。

なんというか、「全体を俯瞰してみること」に長けてるんだよね。

ちょっと卑屈すぎるのだけ玉にキズ…


これは人付き合い上手なはずのアズマが、何故かどこかみんなに一線引いてしまうことを気にしていた時にかけたセリフ。

アズマがなんとなーくモヤモヤしていた部分を紐解くように、タイラはいつも客観的な意見をくれます。

結果としてスクールカースト永久上位層だったアズマは、

かつてカースト下位だったはずのタイラの言葉で、
悩みの原因を咀嚼することができて、一歩前に進めるようになるという。

アズマ、覚醒!!!
吹き出しの中にさりげなく高校の友達が描かれてるのかわいい。

これこそまさに相互作用で人間が変わっていく瞬間!!

一見真逆のような二人が、ふとしたきっかけで影響しあう様子。

この漫画全体に通底するテーマが色濃く出ているのは、実は主人公達ではなくこの二人なんじゃないかと思う。


普通に"青春ラブコメ"として面白い!


と、これまでちょっと小難しい話ばかりになっちゃったけど、
普通に青春モノのラブコメとして読んでも十分すぎるくらい面白い!

修学旅行編は神回やで

人間の心理描写が上手い作品って、どうしてもドロドロしてたり負の感情の部分を対比で持ってきたりと、”重い”作品になりがちなんだけど、

「正反対な君と僕」に関しては作中全体が明るくポップなテイストなので、
割とサクッと読めちゃうところもいい!

このバランス感は本当にお見事としか言いようがない…!

もし今十代の子とかが読むなら、細かいことは気にせず鈴木達の青春感を存分に楽しんでOKだと思う。

高校生らしい真っ直ぐな感情表現に、きっと共感できるんじゃないかなーと。


学生時代を終えてから読むと、また見え方が変わる


ちょっと自分語りにはなってしまうんだけど、
学生時代は友達のことをそこまで深く見てなかったなー
ってこの漫画を読むと思うんだよね。

ちょっとずつ変わっていく登場人物たち

乱暴な言い方をしてしまえば、周りのみんなをキャラクター的な捉え方しかできてなかったというか。

・いつでも元気な1組のアイツ
・ちょっとおバカなギャルのあの子
・皮肉屋で喧嘩っ早い、5組のアイツ

ぐらいの解像度で捉えちゃってたんだよな。

だから卒業した後に、

「あの子が海外ボランティア!?マジ?」
「え、アイツが鬱で学校辞める…?」

みたいな、

自分の考えていたキャラクターと異なる言動に直面した時に、すごい面食らっちゃう時もあったりして。

裏を返せば周りから見た自分だってそうで。
特に変わったつもりがなくても、
久々に会った友達にびっくりされる事も多いんだけど、

それって当時の俺がそういう内面を見せてなかったって事なんだろうなー

きっとそれは、
学校で見えていたその人の性格がほんの一部分でしかなかったってことだと思う。

この作品で描かれているように、実際はみんな見えてない部分ですごくいろいろ考えていて、

いつでも自然体で人気者だった人が、本当は周りのみんなに全力で気を遣ってくれてたりした事が後になって分かったり。

複雑な背景を抱えながら、それを見せないように振る舞ってくれていた事に気付いたり。

いつの間にか成人男性となってしまった自分は、
「当時、そういう内心の葛藤に気付けてたらなあ」なんて思う事がたまにあるんだけど、

この漫画はまさにそういう内心の葛藤を描いてくれているから、
作品内に含まれた心理描写から、いろいろ感じとるものが多いんですよ。


まとめ:ガチでおすすめだから是非


今まで読んだ作品の中でも群を抜いて、キャラクターの心理描写が等身大!

音楽制作をやっている身としては、言葉選びとかもめちゃくちゃ刺激になります。


ラブコメ定番の王子様キャラも、お姫様みたいに可憐なヒロインも出てこないけど、だからこそ「自分ごと」的に捉えられる作品だと思う。

人間関係に疲れた時とか、なんだか上手くいかない時、
この漫画の言葉に答えがあるかもしれない。

ってわけで、あえてこれは「精神救済マンガ」と紹介させてもらいました!


↑ジャンプ+で連載中だから、興味あったら読んでみてね。
5月末まで全話無料らしいから是非ー!!

おしまい。



(いつかアニメ化したら主題歌やらせてもらいたいなあ…)


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