引っ越した街はいい加減だった
大都市の外れ、多摩川のほとりに越して来ていつの間にか3ヶ月が経った。
この街はどうやらかなりいい加減だ。
暑い日は多摩川沿いを歩くと3人は上半身裸の人を見かける。ベンチには誰かのマックの食べ殻が散乱しているし、案の定カラスがやたら電柱に止まっている。その根元には嘔吐のかすれた模様を見ることも少なくない。
過疎高齢化が極まっている地元や、今まで住んでいた郊外の街とは違って、昼間からふらふらと歩いている謎の大人が多い。
そんな街に出ると、私はちょっとほっとするのだ。私の人生に、外に出てちょっとほっとすることがあるとは思わなかった。引きこもりが性分の私は、外に出るときはちゃんとしないといけないという強迫観念を持っていた。まともな格好、まともな言動、まともな仕事にまともな生活、私には難しいそれらを、外に出る時は必死に装わないといけない。外に出るためのハードルは上がりに上がっていた。
ここはいい加減な街だ。
まともになりたかった自分をあそこに捨てて来た私がたどり着いた街としては相当妥当であり、よかった、そう思う。昼間からふらふらしているよく分からない人たちに紛れて歩いていると、ここには私が生きていく隙間くらいならあるんじゃないかと、錯覚が起きる。そんな街は初めてだった。