【検察求刑死刑相当】16歳17歳強盗殺人まとめ

近頃は若年者による闇バイトの事件が多発し、強盗殺人にまで手を染めてしまう者も出てきている。令和6年12月に法務省が公表した無期懲役仮釈放の運用状況では犯行時16歳の者が在所期間41年以上で未だに許可が下りない現状も見受けられる。該当する事件は強盗殺人婦女暴行未遂の罪だ(リンク先の入間の事件)裁判でも反省の態度が見受けれずに仮釈放の望みはほぼないであろう。
戦後80年で少年法も時代と共に変化している。18歳未満による強盗殺人死者1名は旧少年法なら死刑か無期、2001年の法改正後なら無期懲役相当での無期懲役判決も言い渡せる(２例あり)
今回はその狭間で起きて検察から「死刑相当の事件」と少年としての最高刑の無期懲役を求刑され有期刑の判決が下された16歳と17歳の事件を紹介する。
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東灘区タクシー運転手強殺のN本(17)

事件の経緯

兵庫県東灘区、昭和26年9月15日夜11時半。アサヒタクシーの運転手のNさんが客を送迎し終えた時に自社の車両が猛スピードで走り去るのを目撃し不審に思い追跡。2キロほど追った所で走り去った車両は電柱にぶつかりそのまま一回転し歩道に乗り上げ民家の塀に激突した。
「これは大変だ!」とすぐに救助に向かい運転席を見ると頭から出血した若い男が降りようとしていた。
「病院にいこう」と腕を掴んだが若い男は振り払い南へ走り去ってしまった。
車内を見ると血だらけの男性が横たわっていて既に絶命していた。通報で駆けつけた警察官が確認するとこの男性は刃物で十数か所も切られた傷があり、単独事故から殺人事件へと発展した。
亡くなったのはNさんの同僚のAさんで直ぐに非常線が張られた。スボンのポケットには現金が残っていたことから遺恨の可能性もあると思われた。
しかし翌日に犯人の若い男が自ら出頭し事件はあっけなく解決した。胸ポケットの四千八百円は抜き取ったがズボンの金には気が付かなかったという。
出頭してきたのはN本で17歳の少年だった。
ことごとく非常線をくぐり抜けた点で警察の配置の遅れなとが問題視された。
N本は16日は留置所で弁当をペロリとたいらげ17日朝までぐっすりと眠りにつき、その日の昼から本格的な取り調べが行われた。

N本の生い立ちや動機

17歳の少年が何故こんなことをしでかしたのか？
N本は父と兄を戦災で長田区にあった家と共に失い、母と弟と三人で兵庫県印南郡に移り住んでいた。
N本は小学校卒業後すぐに肉屋に奉公に出ていたが、母は心臓が悪く病気がちで貧しい生活だった。更には不運にも事件の三年前に母が足を悪くし医療保護を受け床に伏せる状態。
N本は大人しく謙虚な存在として店の主人からの評判もよかったが、この店が転業するとN本も別の店に移ったが店の売上金を盗むなどの素行不良が見受けられるようになった。盗んだ金は女遊びで浪費していたが、N本がまだ少年ということで店の店主が都度大目にみていた事でエスカレートし、「もっと金がほしい。女遊びがしたい」とタクシー強盗まで計画するようになってしまった。
この時大人がしっかりと叱っていたら…
N本は母からの手紙をお守り代わりにポケットに入れ、一番最初に店の金を盗んだ時には自殺まで考えた程の純粋さだったが、それ以降の盗みの罪を大目にみられた事で世の中を甘くみてしまったのだろう。

裁判の結果

N本は事件の二ヶ月前に精肉店に侵入し売上金５千円を盗んだ罪でも起訴された。
昭和27年7月24日神戸地裁
精神鑑定の結果は多少異常性が見られるが病的ではなくこれが起因しない。いきなり背後から肉切り包丁で背中を刺し頭部も切り付けた犯行は残忍で情状酌量の余地はなく18歳未満には最高刑の無期懲役が相応しい。
同年8月7日同地裁
①精神鑑定の結果軽度の異常は見られるが道徳的判断を誤るほどではない。
②罪もない運転手を殺害した凶悪行為は許されず責任を追うべき。
③被告人は17歳と若年のため更生の余地があり将来を考慮する。
N本に懲役15年の判決が言い渡された。
【神戸51.9.17〜18】【神戸52.7.25】
【神戸52.8.7夕】

東淀川区タクシー運転手強殺のY(16)

事件発生

東淀川区で昭和28年11月20日夜10時半ごろライトを付けたままのタクシーが停車しているのを通りがかった近所の人が発見。不審に思い中をのぞき込むと運転席で男性が胸から血を流してぐったりしていてびっくりして急報。
駆けつけた大阪市警視庁の本部長らが現場を検証すると運転席の男性はすでに死亡していて、このタクシー会社の運転手Sさんはギアは入ったまま、ペダルに足をかけたままで走行中に背後から拳銃で三発撃たれた状況で左背中から貫通した一発が致命傷となった。売上金と免許証が奪われていて犯行に使われた弾丸は車内に２個、車外に1個転がっていて、車内には新聞紙があり指紋が検出され後部座席のドアノブからも同じ指紋が検出。これが犯人の指紋と断定し指紋照会したが一致するものがなく全国に指紋手配がされたが1ヶ月が経ち捜査は難航した。

高知で捕まった窃盗少年

事件から1ヶ月後の12月22日に高知市の衣料品店に盗みに入り検挙されていたパチンコ店店員の少年Y(16)が拳銃を所持していた事から厳しく追及した所、東淀川の運転手射殺事件を自供。
拳銃は高知の派出所から盗んだもので残りの三発は汽車の便所に捨てた。
中学卒業後は酒屋で住み込みで働いていたが店のものを盗んで辞めさせられ、その後は転々とし盗品を売っては遊ぶ金にしていたが金が尽き拳銃を手に入れて強盗しようと企て大阪に流れ着いていた。

裁判

昭和29年5月6日大阪地裁で無期懲役求刑
同年9月20日同地裁で懲役15年の判決
【大阪府警察史第3巻】【朝日大阪53.11.21】

美唄ハイヤー運転手強殺のH(17)

事件発生

北海道の美唄市で昭和30年5月19日朝7時半頃、国道沿いの畑に若い男の遺体があるのを登校中の学童が発見しびっくりして警察に届け出た。
調べたところ被害者はハイヤーの泊まり込みの運転手のNさんで背中や胸などにキリのようなもので刺された跡が8箇所あり首には絞められたと思われる手拭きが巻き付いていた。財布などがなく乗っていた車両も不明で警察は強盗殺人事件として捜査を開始。
Nさんは前日夜に空知郡の料理店からの電話で日付が変わる頃にこの店で飲んでいた男三人を乗せていた事がわかり有力情報として三人とハイヤーの行方を追った。料理店の話から男らは農家に出稼ぎに来ていたことも判明した。

函館で犯人三人を逮捕

千歳から札幌経由青森行きの切符が三枚出ていた事がわかり駅で張り込み、20日夜9時頃に函館駅前のマーケットに読み通り三人が現れて追及した所あっさりと罪を認めて逮捕となった。
車は千歳で乗り捨て、一度札幌に行き列車で函館まで行きマーケットで酒を飲んでいた。
男はN部(20)、I藤(26)、H(17)でトラック助手をしていたI藤がハイヤーを運転、N部の地元の青森に逃走を企てていた。
「ころしてまことにもうしわけありませんすみませんでした」すべて平仮名のこれはN部の謝罪の手記である。

裁判

昭和30年11月18日札幌地裁岩見沢支部
I藤とN部に無期懲役判決(求刑死刑)
少年Hには懲役15年の判決(求刑無期懲役)
【道新55.5.20朝夕】【道新55.11.19】

気仙沼女店員強殺のT(17)

※リンク先参照

保土ケ谷区主婦強殺の少年(17)

事件の内容

昭和36年7月27日夜10時すぎ、保土ケ谷区和田町のOさん方でタイピニストのOさんが侵入してきた男にナタで頭などを殴られ重傷を負った事件。
Oさんは日付けが変わった深夜2時半頃に亡くなり強盗殺人事件となった。その後犯人が親族と保土ケ谷署に自首してきた。自首したのは工業高校生(17)で興奮していて本格的な取り調べも出来なかったが、少年の話によると一度盗みに入り上手くいったので10分後に再び侵入。その際に風呂から上がったOさんと鉢合わせになり「顔を見られたから」とナタで滅多打ちにしたという。
動機については「ただ金がほしかった」という。

少年の環境

この少年は幼少期に父親と死別し母と兄二人と4人暮らしで母も兄も働いていたが、家計はそれほどの余裕もなかったが少年には高校くらいは行かせたいと母兄が捻出し、入学した高校では目立たない存在で成績は中の上くらい。親しい友人などはいなく一人でクラシックを聴くのが趣味で同級生や中学の担任は「信じられない」と口を揃えて話した。
就職試験に落ちてアルバイト先は見つかっていたが、近頃は不良グループに加わり保土ケ谷署から注意を受けていた。
家は三人とも朝から夜まで働き、学校でも一人でいることが多く、話し相手がいなかった事が原因の一つと思われた。
少年の家族は某宗教団体の信者で被害者宅にも度々訪れていたがOさんは拒否していたこともわかった。

裁判

少年は「予備校の学費が欲しかった」と動機を述べたがいまいちはっきりせずに求刑公判から判決公判まで3か月かかった。
昭和37年1月16日横浜地裁
「学生の犯行としては許せない」と最高刑となる無期懲役が求刑された。
同年4月28日同地裁
懲役15年の判決が言い渡された。
少年が主張する「予備校の学費目当て」は認められなかった。
【神奈川61.7.28〜29】【朝日62.1.17】
【神奈川62.4.29】

当note記事をお読みいただけれぱわかると思うが同年代の同種の事件でも判決はまちまちで結局は裁判官の裁量次第と感じた。
強盗殺人死者1名での少年の死刑確定は笹沼充男(昭和45年9月確定)以降出ていない。たぶん今後も出ないだろう。

※他に1件兵庫県で高校生(16)が運転手を強殺した事件で無期懲役が求刑された事件があるが判決の情報が未確認のため判明次第加筆します。