昭和30年以降 死刑求刑→判決無期の少年16人

当サイトでは既に戦後の犯罪で死刑判決を下された72人(＋2名)に関しては発生から逮捕日、判決(訂正申し立て)までの情報を一部の不明を除き全て紹介させていただいた。

一章 少年確定死刑囚事典
二章 死刑を免れた少年 死刑判決破棄

残りは死刑を求刑されて判決が無期懲役となった少年死刑事件という事になるが、昭和20年代前半に関しては裁判資料も残っておらず無期懲役判決事件は記事にすらならないケースが多いため全てを網羅するのは不可能に近い。
なので今回は昭和30年以降に死刑を求刑された(判決無期懲役)16人を深堀して紹介したい。
今回も16人の逮捕日を全て記したが事件の一連の流れで逮捕日まで記してる書籍やサイトは意外と少ないので今後もここはこだわりたいと思う。
全ての事件の罪名を追記したが、強姦に関しては当時の婉曲表現そのまま婦女暴行で記した。
今回も折原臨也リサーチエージェンシー様にご協力をいただいた。

①荒尾市菓子商強殺のM山(18)

昭和31年8月8日深夜、荒尾市万田西区の煙草菓子商のTさん方で主人が何者かに胸や肩や腕などをナイフで刺され犯人は逃走。主人は出血多量で死亡した。
聞き込み捜査から14日にM山(18)が指名手配され、翌日に火葬場の裏山に隠れていた所を山狩りで発見され逮捕された。
M山の家庭は継母で夫とは別居。4人兄弟は仲が悪く家を出ていくための旅費目当ての犯行だったが、主人を刺した際に血だらけで怯まずに追いかけて来たので怖くなって何も捕らずに逃走していた。
強盗殺人1、窃盗、業務上横領
昭和32年2月28日熊本地裁で無期懲役判決(求刑死刑)
【熊日56.8.16】【朝日熊本57.3.1】

②防空壕2女性殺害のK島(19)

昭和30年7月8日に磐田郡田原村の元タクシー運転手のK島(19)が詐欺容疑で逮捕された。K島は先月14日から行方がわからなくなっていたYさん(17)の交際相手で、追求した所「先月14日から19日の間に防空壕内で絞殺した」と自供した。
更には前年12月初め頃から行方不明のKさん(18)とも関係があった事が判明し、同じように防空壕内で殺害した事も自供。少年による連続女性殺害事件となった。
Kさんは交際でのトラブルから12月10日に首を絞められ殺害され遺体は防空壕内に隠してあったが、翌年6月14日に家出したYさんとその防空壕内で寝泊まりしていた。ここでも些細な事から揉めての凶行だった。
殺人2、死体遺棄
昭和32年4月12日静岡地裁で無期懲役判決(求刑死刑)
K島はただちに控訴した。(控訴審日付不明)
昭和33年6月6日 上告棄却(申立てせず確定)
【読売55.7.10夕】【静岡57.4.12夕】【集刑126】

③ふとん包み駅送事件のS本(19)

昭和32年5月2日福岡県吉塚駅にて駅送で送られてきた荷物の中の布団から男性の遺体が発見されるという猟奇的事件が発覚した。
荷札から3月10日に汐留駅から名古屋駅止めで前田宛(偽名)で発送し、到着後に自分で受け取り更にそこから博多へと送る手配がされていた。
被害者は豊島区のTさんで残された荷札一枚とふとんを包むビニールカバーを手がかりに捜査20日後にS本(19)の犯行と断定し指名手配。
5月21日に岡山の叔父の所に潜伏中を逮捕された。
犯行日は3月5日で同じ下宿先のTさんと金の事で口論となり、こん棒で殺害し50万円を奪った。この際に遺体をふとんで包み運び出す所を見られていた事も手配の決め手だった。
S本には中学時代に狂言強盗の過去があり、大阪には内妻(20)と9ヶ月の男児がいる。
強盗殺人1、死体遺棄
昭和32年8月13日東京地裁初公判(罪状認める)
同年11月2日 死刑求刑
同月18日 無期懲役判決
昭和33年3月25日 東京高裁 控訴棄却
【読売57.5.21】【読売57.8.13夕】【読売57.11.2夕】
【読売57.11.18夕】【読売58.3.25夕】

④益田農家夫婦強殺のS市(19)

強盗殺人2
※リンク先の松江地裁の例を参照

⑤富士川アベック殺害の河西(18)

殺人1、殺人未遂、死体遺棄、婦女暴行
※リンク先を参照

⑥設楽町母子三人殺害のF見(19)

殺人3
※リンク先を参照

⑦東成姉妹殺害のN(19)

昭和32年3月29日東大阪市足代の派出所に若い男が「女二人を殺した」と自首してきた。
男の供述どおりに東成区の鉄工所Yさん方を調べたら二女(26)は包丁で胸を刺され、四女(22)は電気コードで首を絞められた状態の遺体が発見され、この男を緊急逮捕した。
男はN(19)で数年前からこの鉄工所で働いていたが、酒癖が悪いことなどを理由に解雇されていて、逆恨みで鉄工所を襲撃したという。
犯行前に酒2合を飲んで勢いづけての凶行で、金品を奪い逃走し、自殺を図ったが死にきれずに自首をした。
強盗殺人2、婦女暴行
昭和33年11月5日 大阪地裁 無期懲役(求刑死刑)
昭和34年3月27日 大阪高裁 破棄差戻し
一審の判決文に判決を下した裁判所名が記載されていなかった事が刑事訴訟規則五十五条に違反するとという珍しいケース
同年11月2日 大阪地裁 再び無期懲役(求刑死刑)
【大阪57.3.30】【大阪58.11.6】
【大阪59.3.27夕】【大阪59.11.2夕】

⑧相模原精肉店夫婦強殺のS(19)

昭和33年9月1日相模原市橋本の商店街のど真ん中の精肉店で夫婦が鈍器のようなもので頭部を滅多打ちにされ死んでいるのが発見された。
金品を奪われている事から強盗殺人事件として捜査が開始され地元の不良などを中心にあたったが事件から27日後にこの精肉店で働いていたS(19)が森本正夫(21)と犯行に及んだと自供した。
森本は夫婦とは折り合いが悪く、恨みをもっていた所に同じように待遇面に不満があったSから犯行を持ちかけられて互いに同意のもと凶行に及んだ。
事件後も何食わぬ顔で葬儀に参列したり、事件後は普段肉を捌いて服に血がついていても違和感がないだろうと返り血を浴びた服をそのまま着ていた。
強盗殺人2
昭和34年9月30日 横浜地裁 二人に死刑を求刑
同年11月30日 森本に死刑判決、Sに無期懲役判決
昭和35年8月24日 東京高裁 二名とも控訴棄却
昭和36年9月8日 上告していた森本が棄却された
【読売神奈川58.9.2~3】【読売神奈川58.9.28】
【読売59.9.30夕】【読売61.9.8夕】
【昭和34年(う)第2783号】

⑨碧海郡タクシー強盗殺人のH(19)

昭和34年7月29日夜、愛知県碧海郡にてタクシーがライトをつけたまま停車していて不審に思った通行人が中をのぞきこむと運転手のHさんが血まみれで亡くなっていて驚いて警察に急報した。
現場に向かう途中の警察官が不審な男を発見し職務質問したところH(19)がタクシー強盗をしたことをあっさりと白状し緊急逮捕された。
自首しようと近くの川でズボンを洗い道路に出たところでの発見だった。旅費ほしさの犯行で二千六百円を奪っていた。
強盗殺人1
昭和35年2月3日 名古屋地裁岡崎支部 無期懲役(死刑求刑)
検察は下記理由で控訴した。
①殺意を認めなかった一審は事実誤認
②自動車強盗が増えていて社会的影響も大きい
③悪質な少年犯罪が増えている背景
昭和35年10月4日 名古屋高裁 無期懲役(破棄自判)
一審の殺意がなかった点を事実誤認とし、破棄し改めて無期懲役の判決を下した。
判決理由は過去に犯罪歴がなく事件も偶発的というもの
【朝日名古屋59.7.30】【読売60.2.4】
【朝日名古屋60.10.5】

⑩弘明寺主婦強殺の少年(19)

昭和38年5月16日横浜市南区弘明寺の公園参道にて同区に住む主婦Mさん（34）が何者かに襲われ頭から血を流し瀕死の重傷を負った。買い物カゴから現金が無くなっていた事やMさんにはトラブルなどから通り魔的な犯行と思われ、聞き込み捜査が開始され、不審な二人組の目撃情報などもあったが解決には至らなかった。
翌日にMさんは亡くなり、強盗殺人事件に発展。
事件から二ヶ月が過ぎ迷宮入りかと思われたが、6月20日に別件の西区の強盗事件で指紋から鶴見区に住む少年（19）が逮捕勾留されていたが、取り調べで7月になってから弘明寺の事件をほのめかすような話をした。なんと少年はこれらの他にも日の出町でも同様の強盗事件を起こしていた。
被害者に道を尋ねるふりをした際に地図を書いてもらった紙から指紋が検出
7月22日になり弘明寺の事件を細部まで自供したために少年の犯行と断定した。
強盗殺人1、強盗
昭和39年2月19日横浜地裁 死刑求刑
同年3月27日 同地裁 無期懲役判決
※検察が即日控訴した
同年10月28日 東京高裁 控訴棄却
少年には3件のひったくりなどで保護観察処分の過去があった。
【読売神奈川63.5.17】【読売神奈川63.5.20】
【読売神奈川63.7.21、23】
【読売神奈川64.2.19】【朝日神奈川64.3.28】
【読売神奈川64.10.29】

⑪三河島タクシー運転手強殺のY（19）

昭和38年11月27日荒川区新三河島駅の近くで血に染まったタクシーが乗り捨てられているのをこのタクシー会社の別の運転手が発見した。
前日に戻る予定のFさんの車両で、戻らずに連絡も取れないことから捜索願が出され、同僚の運転手も探していた所だったが肝心のFさんの姿が見えずに何か事件に巻き込まれているのではと捜査が開始された。
タイヤには雑草が付着していて別の場所で被害に遇いここで乗り捨てられたのでは？と手がかりを探したがが全く無く迷宮入りと思われたが、翌月の7日に東京湾晴海沖にFさんの遺体が浮かんでいるのが発見された。遺体の後頭部には5箇所も切り傷があり殺人事件と断定された。
犯人逮捕は約4ヶ月後でFさんから奪った腕時計を友人の名前で質屋に入れていた事から足がつき、任意で取り調べ中のY(犯行時19)が犯行の一部始終を自供し昭和39年3月24日に逮捕となった。
YはFさんと交通トラブルから喧嘩になりカッとなって殺したと自供したが死人に口なしである。実際の所はYが少しでも罪を軽くしようとしている可能性もあることを付け加えさせていただく。
強盗殺人1、死体遺棄
昭和40年2月11日 東京地裁 死刑求刑
同年2月23日 東京地裁 無期懲役
残忍な犯行だが計画性がない事が判決理由
昭和41年1月20日 東京高裁 控訴棄却
【読売63.11.27〜28】【読売63.12.7夕】
【朝日64.3.25】【朝日65.2.11夕】
【朝日65.2.23夕】

⑫千種区中華店強殺の韓国人（18）

昭和40年6月29日愛知県千種区の中華店で主人の内妻のHさん（21）が複数箇所刺され血まみれで亡くなっているのが発見され、すぐにこの店に数日前から住み込みで働いていた韓国人少年（18）が犯人と断定され手配された。
翌日には同店から盗んだ猟銃がパチンコ店のトイレで発見され、少年の両親が出頭するように呼びかけたりしたが、7月7日に香川県の民宿にいることがわかり逮捕された。遺書のような手紙が見つかり民宿の主人が警察に相談したことがきっかけだった。
盗みをしている所を見つかり騒がれたために近くにあった日本刀で刺殺し金品を奪い逃走するという残忍な犯行だった。少年には窃盗などで過去に三度の検挙歴がある。
強盗殺人1、銃刀法違反
昭和41年3月18日 名古屋地裁 無期懲役(求刑死刑)
犯行時は18歳、早くに父親を亡くすなど不遇な生い立ちが死刑を回避した理由
【中日65.6.30】【中日66.3.18夕】
【読売名古屋68.7.8】

⑬伊勢原アベックタクシー強殺のS（18）

強盗殺人1、強盗予備
※リンク先を参照

⑭広島、山口連続老女強殺のT（19）

強盗殺人2、強盗
※リンク先を参照

⑮大宮両親殺害のI（19）

尊属殺人2、死体遺棄
※リンク先を参照

⑯大阪、大分強殺強盗致死の中国人（19）

強盗殺人1、強盗致死1 、強盗致傷
※リンク先の14を参照

事件の発生が昭和30年以降の死刑求刑をまとめると
確定死刑囚20人
一審死刑判決破棄5人
一審無期懲役判決16人
となったが、罪名や殺害人数もバラバラで少年を裁くことの判断が難しいのがデータからも読み取れた。
この記事を書いている段階では甲府市殺人放火事件Eの初公判前ではあるがもし死刑を求刑された場合は千葉祐太郎以来(2016年6月16日上告棄却)のこととなる。