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托卵は「優秀な遺伝子を遺す」???

 托卵行為、つまり配偶者との間ではなく別の男の間にもうけた子を、配偶者の子だと偽り育てる行為だが、その言い訳として「より良い遺伝子を遺す」という、驚愕の言葉を拝見した。
 こういう、救いも無いほど知恵が足りない女(失礼)は数少ないとは思うが、しかしこの優生学にも似た「優秀な遺伝子」という概念を今でもたまに見かけるので、今回はそれがどれほどおかしな考え方なのかを語ってみたい。

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 「優秀な遺伝子」とは何か。

 世間で喧伝されるそれは、その多くが他人よりも成功している人々や、多くの人から好意を寄せられる人々のそれを指しているように思われる。自身で巨大な財を成した大富豪であるウォーレン・バフェットの遺伝子はきっと優秀な素質があるのだろうし、現在メジャーリーグで大活躍をしている大谷翔平の遺伝子も優秀な素質があるのだろう。

 もし、この見方が正しいとするなら、成功していない人や好意を寄せられない人の遺伝子は優秀ではない、ということに繋がるが、では圧倒的に男性の成功者が多いこの社会では、比較して女性の遺伝子は優秀ではない、ということにならないか。女性は、優秀な遺伝子に寄生するしかない、愚かな遺伝子の持ち主だということか。

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 ヒトは、ミーム(情報)の処理能力が極めて高い生物だ。

 生まれた瞬間から身の回りに存在するミームの摂取を開始し、ミームが為す様々なルールを理解し、自身にとり都合の良いミームの活用を行い、そして新たなミームを他のヒトに伝播する。ほかの生物もミームの処理ができるが、ヒトのそれは処理可能な量が桁違いだ。それにより、ヒトは他の生物とは比べ物にならないほどの、巨大かつ精巧な社会を構築できたと考えられる。

 だが、それが仇となることもあった。例えば少子化だ。
 少子化は、ミームがふんだんに溢れる中で未来予測とリスク回避の能力が過剰に発揮された結果発生する。子供が、持つだけでコストが膨大にかかる資産と同等になった社会では、子供を持たない選択が強く働くが、そのコストや資産自体が実態はミームに過ぎないことをヒトは忘れている。

 それと同様なのが、「優秀な遺伝子」という考え方だ。
 お金持ちである、野球がうまい、イケメンである……これら全てがミームに過ぎず、ミーム社会の中で成功しているというだけだ。どんな大金持ちでも心臓を潰されたら死ぬし、素晴らしい野球選手であっても怒り狂った熊に襲われたらひとたまりもない。イケメンだってスズメバチに刺される。

 今の僕たちは、宇宙規模でみればたまたま生きていられているだけに過ぎない。
 いま巨大隕石が地球に衝突したら、バフェットも大谷もみな死ぬ。そして隕石衝突というイベントは、宇宙の中ではごくありふれたものだ。そのスケールでは、優秀な遺伝子もクソもない。ごくミクロな視点、ミクロなスケールの中にしか「優秀な遺伝子」に値するそれは存在せず、それだって何かのはずみでいくらでも死に、遺伝子の継承は絶たれる。

 優秀な遺伝子という捉え方自体が、ミームに過ぎないということだ。そして逆に云えば、死ぬまで生を全うできればそれだけで、生物としては十分に優秀で、その上遺伝子を継承できればほぼ完ぺきだ。

 ミームに溺れ「優秀な遺伝子」などという虚構に一喜一憂する暇はない。
 僕も死ぬまで生き延びる。だからお前も、死ぬまで生き延びろ。

 その意思こそが、優秀の証なのだから。

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