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神が存在する証明式

「またえらいものを見つけたんですね、博士」

「まあ、僕は天才だからしようがないよ
 諦めてくれたまえ」

「十年以上前に諦めてましたよ
 それで、この式は神の存在を証明しているんですか?」

「そう、定数Gを神と仮定し、それを背理法で証明した」

「ああつまり、Gがもし神でないなら式が不成立となるので、
 Gは神であり故に神が存在する、ということですか」

「そうそう、だから神は存在するのだよ」

「うーん……でもそもそも、Gに神を代入する、というあたりが、
 よくわからないんですが」

「そうだな、例えばインフレーション理論は、この宇宙が誕生した
 過程を説明する理論だが、なぜその現象が発生したかの説明は
 全くできていない」

「そうですね、無の空間に僅かな揺らぎが発生し突如爆発した、
 程度しか説明できてませんね」

「そこでだ、その左辺に定数Gを加える、これは空間に揺らぎを
 発生させ得るほどの力を持つ存在だ」

「エネルギーですか?」

「違う、確率だよ、あり得ない確率を発生させる力だ」

「つまり……えー、奇跡?

「俗にいえばそうなるね、神とは奇跡を操る力そのものだ」

「ああ、なるほど……奇跡が人為だとすれば」

「神だから神為だよ、カムイと言うとかっこいいかな」

「ポリコレ集団に狩られても知りませんよ……
 えっと、奇跡が全てカムイによるもの?という仮定ですか?」

「勿論、単なる偶然の方が世の中に満ち溢れているけどね、
 カムイが起こす奇跡もあるとすれば」

「宇宙の誕生はカムイによるものだと……?
 あれ、もしかして博士、地球に生命が誕生したのも……?」

「考え得るね、最新の理論では観測不可能な宇宙の領域まで含めて、
 やっと無生物から生命が誕生し得るのだから、そこにカムイが
 介在しても不思議ではない」

「もしかして、博士が考える"神"というのは、既存宗教のそれとは
 全く異なる、別の……?」

「通常では決して起こり得ない現象、たとえ数億、数兆以上の試行回数
 を重ねても、まず発生すると思えない現象……
 カムイはそこに宿っていると仮定すれば」

「……カムイとは、"何か"を起こす存在……ですか?」

「そう、カムイが在ったから、宇宙は誕生し地球に生命も発生した、
 そう考えると納得できる気がしないかね?」

「……まあ、なぜ奇跡が起こったのか、のひとつの見かただとは
 思いますが……ではカムイはどこから生まれたのか、という
 トートロジーに陥りませんか?」

「なんだ、君は、カムイが意思を持つと思ったのか?」

「え?宇宙にしろ生命にしろ、カムイが誕生させようと思って」

「違う違う、カムイは何も考えないんだよ」

「考えない???」

「カムイは何かを起こすだけだ、その結果がどうなろうと関与しないし
 そもそも結果なんてどうでもいいんだ」

「えーっと???」

「つまりだね、ありえない奇跡は必ず起きる、カムイが起こすからだ
 それが起きた時は、僕らは『カムイがやったか』と思えばいいし、
 それを起こして欲しいとカムイに祈っても無駄ということだ」

「……博士、この式は、その存在を証明した、ということですか?」

「うん」

「……それは、いてもいなくても僕たちには関係ないのでは?
 その証明は、何か意味があるんですか?」

「インシャ・アッラー」

「えっ?」

「神の思し召し、だよ
 イスラム教徒は図らずも、この世の真理に肉薄していたのさ
 ただ残念ながら、彼らも神に意思があるとしか想像できかった」

「うーん……?」

「人類が想像してきた姿とはだいぶ異なるが、神は存在する
 やっかいな問題を起こす時もあれば素晴らしい偶然を引き起こす
 こともある、しかし君の言うとおり、僕ら自身にとっては
 その存在は何の意味もないんだ」

「???」

「そうだな……この式が意味を成すとするなら、
 世の中に真に無駄なことは存在しない、と解釈すればいい
 なぜなら、カムイがいるからだ」

「博士???」

「カムイは、僕のような天才科学者を生み出したかもしれないが、
 助手の君だって、カムイが産み出した作品かもしれない……
 そう信じて、せいいっぱい生きていけば良いのさ」

「悪魔のような合理性と神のような明晰を信条とする博士から、
 そんな言葉を聞くとは思ってもみませんでした……」

「な、これだって、カムイが言わせたのかもしれないぞ?」

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