帰る場所
物心ついたときに住んでいた家は一軒借家で
1階に6畳ないくらいの部屋が一つ
2階は部屋と言っていいのか
屋根裏部屋みたいな
大人は立つことができないくらい天井の低い部屋が一つ
トイレは外にあって
お風呂は家の中にあったけど
扉も電気も無くて
隣にあった台所の明かりで入るような
とてもとても小さな家だった
次に住んだ家もやっぱり借家だったけど
市営住宅でトイレは家の中にあって
しかも洋式水洗で
お風呂には扉も電気もついていて
前の家に比べて部屋も3つあって
暮らしが一気に近代化になった
けれどその頃
周りの殆どが持ち家で
結婚したら家を買うのが当たり前
そんな地域だったこともあって
持ち家の憧れがすごかった
空地の地面に間取り図のようなものを描いて
妄想するのが好きだった
住宅販売のチラシを見ながら
妄想するのが好きだった
「部屋とYシャツと私」の世界に憧れた
あれから時は流れに流れて
私は今、引っ越しマニアだ
時々街中で分譲住宅やマンションのセールスを受けるが
私の答えは「興味ない」
それで引き下がってくれないセールスには
「飽き性なので」
と言うと諦めてくれる
数か月前、人生で何度目かの引っ越しをしたのに
もう新しいところへ引っ越したくなる
賃貸のいいところは
比較的簡単に自分の状況を変えることができること
幼いころに持ち続けていた持ち家願望は
ものの見事に全くない
結局のところ
自分には「安定」ということが合っていないだけなのだけど
帰る場所は一つじゃなくていい
その時その時で選んだっていいじゃない?