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和菓子屋が創る地域交流の場【長春堂本舗】
岐阜県可児郡御嵩(みたけ)町、路線バスを利用するには前日の17時までに予約しないと迎えに来てくれない。そんな閑散とした山奥に、地域の人々の交流を支える戦後創業75年の和菓子屋さんがある。
その名は、「御菓子処 長春堂本舗」。栗きんとんを羽二重餅で包んだ棒状の和菓子、“栗すだれ[1本1296円(税込)]”を年間1万本以上も売る。今回、このお店を守りたい!和菓子をもっと広めたい!という強い意志を持つ和菓子屋の娘さんにインタビューをしてきた。
和菓子屋が持つ地域との意外な関係とは。和菓子が時代の流れに乗るにはどうすれば良いのか。想いを存分に取材してきたのでご覧いただきたい。
手作りでしか生み出せない安定した味
長春堂名物である栗すだれ[1本1296円(税込)]は、「所さん お届け物です!(毎日放送[MBSテレビ])」でも紹介されたことがあり、所さん、アンガールズの田中、土田 晃之らもスタジオ内で食べて絶賛する商品。栗を完全に潰しているわけではなく、あえて固形を残すことにより、栗本来の食感も堪能できるようになっている。
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栗の固形が残っている理由、それはほぼ全工程手作りというこだわりがあるからだ。栗を掘る工程から手掘り。機械に任せてしまうと作業効率は向上するが、栗の大粒が無くなってしまう。大粒で取るためには手掘りしかないのだという。1日に数十kg、2代目店主である山田家のお父様が一人で地道に剥いていく。
手作りにここまでこだわる理由がまたもう一つ。栗は粒によって甘さが違うため、お父様が手で感じた栗の感触から甘さを予想し、それに伴って水あめの分量も変えるという。ベストな味を保つために、手作りという方法以外は無い。まさに職人技だ。機械化をしてしまうと味にムラが出てしまうため安定せず、温かさや愛情も損なってしまうそうだ。
戦後創業75年の老舗和菓子屋が現代まで地域に和菓子を提供し続けられたのは、ほぼ全行程手作りというこだわりがあったからなのではないか。
”栗すだれ”以外の商品ももちろん手作り。今回はメロン大福もいただいたのだが、一口入れた瞬間に頬っぺたが落っこちそうになった(脱力感を感じるくらい)。メロンあん、メロンソース、大粒のメロン果肉、ホイップクリームをメロン味の餅で包んだ”メロン大福”。大福一つでこんなにも感動したのは久しぶりだった。
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和菓子文化よ戻ってこい
そもそも和菓子は、日本を代表する食文化のうちの一つ。季節毎に店舗独自の色鮮やかな和菓子が並び、洋菓子のように味覚だけではなく、視覚でも楽しませることができる。
今回取材に答えてくださったのは、長春堂本舗の娘であり、現在は大学3年生の山田真由さん(21)。小さい頃から和菓子と共に生活してきたと言っても過言ではない。現代の日本の子どもは洋菓子を多く食べるが、真由さんは違った。昼の3時に出されるおやつはお父さんが作り損ねた和菓子。頬っぺたが落っこちそうになるほど美味しい和菓子を毎日のように食べられると考えると、甘党である筆者はうらやましくて仕方ない。
現代の子ども達が和菓子ではなく洋菓子を好むようになったのは、和菓子が不味いからではなく、”和菓子に触れる機会が無いためそもそも選択肢に入れてもらえない”からだそうだ。例えば友達の家に遊びに行くときは、スナック菓子が定番、少し豪華なお土産だとしてもケーキが選択肢に入るはず。和菓子は選択肢に寄せてもらえない。
しかし、和菓子は健康や美容にも良いと言われているため、体のことを考えると圧倒的に和菓子の方が良い。
具体的な数字でいうと、大福1個のカロリーが150~200kcalなのに対し、コンビニ等に打っているシュークリームは300~400kcal。
ヘルシーである上、脂質が少ないので肥満対策にもなるという。
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長春堂がある御嵩町の子どもたちはかつて、お小遣いを握りしめて和菓子を買いに来ていたのだとか。
また、地域の交流の場としての役割も果たす。人口1万8千人の小さな町にある長春堂近辺は、地域の人々との交流が他のどの地域よりも強い。真由さんが成人式のために実家に帰省すると「長春堂の娘さんが成人したんですって!」と集落中で大騒ぎ。
和菓子を買いに来ることで起こる、日常の新たな微笑みの発生源にもなっている。そんな人との密接な関わりがある長春堂だが、後継ぎ相手が見つかっていないという。2代目店主は続けたい想いがあるそうだが、和菓子文化の衰退に目をつぶり切れなくなる日がくることも、ある程度は考えているという。
この記事がどのくらいの人の元へ届くかは分からないが、もし和菓子で修業をしたい読者の方、地域の交流の場を守りたい方がいたら良いなあという想いで執筆している。
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伝統も時には大切 守るべき伝統もある
筆者である私がこの世で一番嫌いな言葉、それは「伝統」である。しかし今回は例外であることに気づいた。
「守るべき伝統もあるなぁ」
と。
私の今まで考えていた“伝統”というイメージは、「意味もなく昔から続いていくもの」だった。
例えば毎年負傷者や怪我人が出る地域のお祭り。最悪死者が出ることもあるという。怪我人や死人を出してまでやる必要はないので、私はこれを“意味のない伝統”と呼ぶ。
ただ、今回の和菓子屋さんは違う。健康にも美容にも良い、優しくて愛情がこもっていて美味しい和菓子を売るお店は出来る限り続いてほしいと感じた。地域の方々の交流の場を守る、という和菓子屋を営む意味というものがはっきりとあるため、これは守るべき伝統なのではないかと。
和菓子が広まる日がまた来てほしいという願いが、どこかの誰かに届きますに…。