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【小説】下等動物取扱規則【ショートショート】

男は宇宙人に捕らえられていた。

排水道の付いた検視台の上で手足を縛られ寝かされ、サイバーな無影灯に照らされている。

それを取り囲む小柄な宇宙人が3人。
周りには残虐な電子ノコギリ、カッター、標本瓶などが準備されている。

「それでは、地球人の解剖を行います」宇宙人の一人が言った。「被検体はオス、壮年体、体長は…」

地球人の男は絶叫した。
「やめろ!まて!何でこんな酷い事をする」

宇宙人は応えた。
「ご安心下さい。オリオン腕下等動物取扱規則に則り、あなたを人道的に死亡させます。つまり、安楽死をさせた上解剖を実施します。苦痛はありません」

男は首を振った。
「そういう問題じゃない!人の命を奪うのがだめだと言ってる。解放しろ!いつか問題になるぞ」

虚勢と言える。なぜなら、現在の地球に宇宙人と渡り合う科学技術などない。

宇宙人は落ち着いて言った。
「オリオン腕下等動物法によると、地球人は惑星間交易文化のない第三種下等動物です。我々が命を奪う事は法に則って正当であると言えます。学問的意義がある」

男は震えて言った。
「狂ってる!なんだその法は!俺はこうして話せるし知能もある。下等動物じゃない」

宇宙人は肩をすくめた。
「言葉を話すのは関係ありませんよ。人間が支配する家畜も人語を理解しても、話せない生物はいます」

男は言い返す。
「死を拒否する者を無理やり殺すのか?許されるのか?そんなことが」

宇宙人の一人は笑い声なのか「キキキ」という金属音を発して答えた。
「あなた方は、食事に使う家畜を殺害するのに同意を得ていますか?そういう事です」

宇宙人達はゴーグルをつけ、準備し始めた。
電子ノコギリの電源を入れる。聞いたことのない薄気味悪い起動音が響く。

男は土壇場に絶叫した。
「待てー!」

宇宙人達はため息をつく。
「暴れては抑えつけないといけなくなりますよ」

男は考えた。
何とか脱出するために時間を稼がないといけない。

台の上に縛られる前、窓の外を見た。まだ地球にいるし、地上だ。
軍隊が心配そうにこちらを取り囲んでいた。

軍隊も、技術の進んだ宇宙人を敵に回したくないだろう。
だが、自国民が解剖されるとなれば話は別だろう。

台の上からは窓が見えない。

この台から逃げて、窓から思い切り助けを求めて叫び、わめくのだ。

先進国では、弱者の人権に目を向けられる傾向にある。
宇宙人もきっとそうだ…

男は思いついた。

すかさず口を開く。

「ねえ、宇宙人さん達。あなた方は我々地球人が家畜や下等動物をどのように扱っているか…知ってるのか?」

それを指摘され、宇宙人達は顔を見合わせた。

男は「しめた!」と思い続けた。

「それこそ、こちらの家畜に対する扱いも知らずに俺を殺したとなっては…その宇宙の法律的にもまずいんじゃないのか?未開人を侵略していいのかい?」
 
宇宙人達はうろたえて、互いに話し始めた。
そして、驚くべきことに謝罪した。

「申し訳ありません。おっしゃるとおりです」と宇宙人「下等動物法上、瑕疵はありません。しかし、下等動物権尊重の観点から見ると、確かにあなた方の文化を知らずこちらの手続きを押し付けるのはいけません。非礼をお許し下さい」

男は内心安堵した。
「そうでしょう。そうでしょう」

続けて宇宙人が言った。
「ご指摘を受け、24時間以内に地球における下等動物の扱いをリサーチして参ります。あなたの扱いは、我々がリサーチした地球上の下等動物に準じた扱いで処理させて頂きます」

男は青ざめた。
「いやちょっとまて…」

宇宙人は続ける。
「誠に非礼をお許し下さい。それではリサーチに行ってまいります。保安のためこの台の上で過ごして頂きますが、栄養剤と抗ストレス剤が機械で投与されますので、ご安心下さい」

男は緊張でうまく口が回らない
「いや、違う…ちょっと」

宇宙人達はいそいそとテレポートを始めた。
「それでは24時間後、お会いしましょう」

宇宙人は消えた。

宇宙船の銀色一色の解剖室で、男は取り残された。

男は家畜の研究者だった。

地球上の家畜の扱い、動物実験、人間の下等動物に対する行いの数々を誰よりも熟知していた。

男は絶望から叫びわめいた。

だが、狂うこともできない。

抗ストレス注射が適切に投与され、常に正気を保たせてくれるからだ。

男ができることは、秒針が進むごとに、今から我が身に降りかかる不幸を想像する事だけだった。



【おわり】

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