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【ホラー短編小説】因果の呼び声 第四夜

第四夜

一睡もできなかった。

ただ、夜が明けると私は町で一番大きな神社へ連絡を取り、お祓いを頼んだ。

このままでは、人形に何をされるか分からない。

もっとも、人形の祟りではなく、人為的ないたずらだとしてもこれ以上エスカレートされては危険だ。

神社でのお祓いを済ませたら、警察署に「不法侵入と人形を置くいたずらをされる」ということで相談にいくつもりだ。

私が遊んでいた神社よりはるかにきれいで、売店も充実した神社だった。

形式的にお祓いを済ませ、帰ろうとしたところ神主に声を掛けられた。

おそらく、私が「人形の恨みが恐ろしい」と事前予約の時に言ったせいだ。

神主は事情を聴いてくれた。
そして、菩薩のような顔で言った。
「不思議ですな、しかし、そのような事情ですと安心していいのではないですか?」

「どうしてですか」

「あなたは手を出さなかった」と神主「本当に人形の恨みがあるとすれば、手を出した人間にしか不幸が起こっていない」

「ではなぜ、人形が来るんでしょう。もし…その…人形が自分で来ているとしたら」

「長い年月が経っている。人形も、あなたは無害だったということを確認したかったのではないでしょうか」
神主は私を安心させようとしてくれているのかもしれない。

「当時の遊んでいた神社の名前を憶えていますか?」

「はい。T神社です。」

「ふむ・・・」神主はそういって、考え込むような顔をした「T神社の系列は主に、○○神をまつるものですが・・・地元でいらっしゃる○○県には何十年も前から神社があることも聞きませんね」

神主は顔をあげて言った。
「ひょっとして廃神社ということはありませんか」

「廃神社…ですか」考えたこともなかった。だが、社が全く開いてなかったこと、誰もいなかったこと、草生していたことを考えると十分あり得る。

「廃神社はご神体がいないのです」深刻な顔で神主が言った「そこには何もいない。その地を守っていた神はいなくなる。だから、いてはいけないものが棲みつくこともある」

私は自分でも顔が引きつったのがはっきりとわかった。

「いやすみません」神主は少し冗談めかす作り笑いをした「あなたがお祓いに来られたのは、賢明だったと思いますよ」

私の表情を見て取ったのか神主は小さな紙垂を取り出した。
「これを気になるところに置いて祀ってください。魔除けです」と神主は言った。「この紙垂には悪いものは近づけないでしょう」

神主からの話で気がまぎれるどころか、いよいよ深刻に考えるようになった。

私は廃神社で遊んでいた。

廃神社は神を失った異界。
そこに棲みつくものの存在すら知らず、私と友達は薄気味悪い人形を苛めたのだ。

もし、その人形が異形のものだとしたら?

私は、馬鹿馬鹿しいオカルトだ。
信じるに値しないと必死に気持ちを抑えた。

そして、警察署へ赴いた。
警察署ではやはり適当に相手をされ、「パトロールを増やしておく」ということで終わった。

帰宅して、神主からもらった紙垂を神棚に置いた。

そして二度と開けないと誓い、腰高窓を施錠した。

夜、私は全く仕事をせず、強い酒を限界まであおり直ぐに寝た。

疲れと酒で何もかも麻痺させ、寝てしまおうとした。
聞こえなければいい話なのだ。

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