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ASEAN商標統計情報:シンガポール編


0. はじめに

今回はシンガポール商標の統計情報をお届けします。

1. 出願件数

1.1. 全出願件数

この項では2020年~2024年に出願された件数を紹介します。

この投稿文を書いているのは2024年12月なのですが、グラフで見るように2024年の出願件数は例年の半数程度です。2024年とグラフ化した集合には2024年8月以降に出願された案件が含まれていません。

図のようにASEAN IP REGISTER(AIR)には、出願を受け付けながらも発行されていない案件も収録されています。

2024年出願案件が少ないのは、出願から発行までのタイムラグが原因ではなく、出願受け付けからASEAN IP REGISTERへの収録までのタイムラグが原因になっていると推測されます。

1.2. 出願ルート

シンガポールも2000年からマドリッドプロトコルに加盟しており、次のいずれかのルートで出願されます。
(1) パリ条約や二国間条約に基づいて各国別に出願する方法(直接出願)
(2) マドリッド協定議定書に基づいて複数国に一括して手続を行う方法(マドプロによる国際出願)

シンガポール案件の場合には、1件ごとの詳細画面に表示される「Application Type」フィールドの値により、出願ルートを把握することができます。

このフィールドには下表に記した6種類の情報が登録されるようです。この報告書では「Madrid」の文字が含まれた3種をマドリッド経由案件と扱っています。

2020年~2024年に出願された案件を出願ルート別に集計すると次のようになります。

グローバルな貿易要所のシンガポールであり、マドプロ経由の出願比率が90%程度と非常に高い値を示している。2024年にはマドプロ比率が大きく低下している。マドリッド経由の案件がシンガポール知財庁まで届き、情報がAIRに収録されるまでには相応の時間が必要なため、新しい出願のマドプロ比率が低下するのは他国でもよくある傾向です。しかしグラフで見る限りでは2024年の直接出願案件が、2023年から倍増しています。

前項で推測したように2024年の出願数が2023年と同数程度でありながら、マドプロ比率がこれだけ大きく低下しているとなると、何となくAIRへの収録情報の異常も疑われます。2024年出願案件が出揃ったら、もう少し詳しく分析してみたいと思います。

1.3. 産業分野別

各案件に付与されたニース分類コードを、「特許行政年次報告書2023年版/特許庁」で使用されている規則に則って6つの「産業分野」に分類し、「産業分野」別の出願件数推移をグラフ化しました。

シンガポールでも2020年~2024年の間に、産業分野比率の大きな変化は見られません。

1.4. 内国出願・外国出願

出願人名の住所文字列に含まれる国名記号をもとに「出願人国籍」を判定し、シンガポール国籍の出願人が含まれる案件を内国出願案件とし、同国以外の国籍の出願人が含まれる案件を外国出願案件として計数しました。シンガポール国籍出願人と非シンガポール国籍出願人による共同出願案件は、内国出願・外国出願の双方に集計されています。

ASEANの他国に比べるとマドプロ比率が非常に高いシンガポールです。外国比率も同様に高い値を示しています。

2024年出願のマドプロ比率が大きく低下しながら、同じ2024年の外国比率にさほどの低下が見られないことからも、出願ルート情報に何らかの異常が含まれている可能性が疑われます

2. 出願人

2.1. 出願人国籍

2020年~2024年の全出願における出願人国籍上位10か国について、2020年~2024年の各年の比率をグラフ化しました。

中国以外の外国籍出願件数の比率が、年を追って低下しています。そんな中で中国だけはシンガポールでも事業を拡大させていることがわかります。

2.2. 出願件数ランキング

2020年~2024年に出願された案件について、出願年ごとの件数上位出願人を名寄せし、一覧表にまとめました。

2.2.1 すべて

AIRに収録された全ての案件を母集団とし、2020年~2022年の各年に出願された件数が多い出願人をリストアップしました。

各年で10位までにランキングされる出願人の大多数は外国籍企業です。日本企業も3社ほどがランクインしています。

2.2.2. 産業分野:化学

化学分野に対応するニース分類が付与された案件だけを母集団として、前項同様に2020年~2022年の出願数上位をリストアップしました。

名だたる化粧品会社や医薬系会社がランクインしています。詳細な分析は実施していませんが、化学分野における化粧品の比率が、ASEANの他国より高いように思えます。

2.2.3. 産業分野:食品

食品分野に対応するニース分類が付与された案件を集計しました。

ほぼ全てが民間企業からの出願の中で、山梨県からの出願が2022年にはトップ10にランクインしています。山梨県産の農畜水産物をPRするためのキャッチフレーズやブランド名である「おいしい未来へ やまなし」のロゴマークや、山梨県産のブドウ品種を商標出願しています。

2.2.4. 産業分野:機械

続いて機械分野の出願数ランキングです。

2.2.5. 産業分野:繊維雑貨

繊維雑貨分野の出願数ランキングです。

ゲーム機器・スポーツ用品の会社が名を連ねているようです。

2.2.6. 産業分野:産業役務

産業役務分野の出願数ランキングを紹介します。

2.2.7. 産業分野:一般役務

6つの産業分野の最後に一般役務分野のランキングです。

2.2.8. 日本国籍出願人

産業分野を離れて、日本国籍出願人を母集団としたランキングです。

3. 審査期間

2020年~2024年に登録された商標案件について、出願日から登録日までの経過期間をバブルグラフで表しました。

若干審査期間が延びつつありますが、9~11か月程度の期間で登録まで至っています。

4. 登録率

4.1. すべて

2020年~2024年に出願されたすべての案件が、現時点でどの程度登録されているかの比率を調べてみました。

平均審査期間が1年未満であり、2023年に出願された案件までは、ほぼ審査が終わっているものと考えられます。80~90%程度の登録率です。

4.2. 日本国籍

続いて日本国籍の出願人による案件だけを母集団として、登録率を調べてみました。

特許や実用新案では、日本案件は他国より高い比率で登録されていますが、商標の世界では国による差は、ほとんどなさそうです。


以上、シンガポールにおける商標の統計情報のご紹介でした。

アジア特許情報研究会/アイ・ピー・ファイン 中西 昌弘