Make in India 政策が特許出願に及ぼす影響
■ Make in India とは
この言葉を耳にした方も多いかと思います。モディ首相が就任した2014年から掲げる、インドの製造業振興を目指したスローガンです。
製造業を発展させるためには、製造の最終組み立て工程をインド国内で実施するだけではなく、製造の源流段階である研究・開発をインド国内に根付かせる必要があります。
この政策がインド経済に与えた現状についてはJETROサイト「メイク・イン・インディアの成果に夜明け?(インド)」をご覧いただくとして、ここでは Make in India 政策がインドの特許出願に及ぼした影響をご紹介します。
■ 出願ルート
各年に公開された案件数を、PCT国内移行・パリルート・第一国出願の3種に色分けし棒グラフで表示。さらに第一国出願比率を折れ線グラフで表示しました。
2016年頃までに公開された案件は、PCT国内移行・パリルート案件が8割ほどを占めていましたが、その後第一国出願比率を表すグラフの折れ線が単調増加していることがわかります。2023年には第一国出願された案件が65%を超えるほとの伸びを示しています。
Make in India 政策の影響とは観点が外れてしまいますが、特許調査における注意点をひとつ。以前は、PCT特許やIP5の特許さえ調査していれば、仮にインド特許について完全な調査ができていなくても8割程度のクリアランスは確保されると言われていましたが、今やそんな時代ではなくなっているようです。ご注意を。
ちなみに2016年の公開件数が異常な伸びを示しているのは、公開バックログ(出願受け付け後、公開処理されずに知財庁内で眠っていた案件)の大量処理が行われたことが原因です。
■ 出願人国籍
左は過去20年間の全出願を母集団とした出願人国籍ランキング。右は上位10か国の出願年ごとの推移グラフです。
2017年にはインドが米国の単年度出願数を上回り、2021年には20年間の累積件数も逆転しました。Make in India 政策が製造業源流に及ぼした影響を感じます。
■ 出願人
2018~2022年出願された全案件についての出願人ランキング上位10社を表に記しました。色を付けたセルがインド国籍の出願人を表しています。同じ出願人には同じ色を付けました。
2022年にはインド国籍出願人が、トップ10のうち5社(出願人)を占めるところまで躍進しました。2021年までは常にランクインしていたTATAグループが2022年には32位にまで落ちてしまいました。「新顔」の躍進が著しいと言えます。
続いてインド国籍出願人だけに限定したランキング上位10社です。2022年にランクインした出願人であって、過去にもランクインしている場合にセルに色を付けました。
少々気になるのは2022年にランクインした出願人の全てが大学であることです。ものづくりを生業とする製造業の企業が上位に入ってこない間は、まだまだ Make in India 政策は地に足が付いていないと感じてしまいます。単に筆者がメーカーの開発者の立場で40年ほどを過ごしたという、個人的な経験から感じる違和感なのかもしれませんが・・・。
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以上、特許情報から感じられる Make in India 政策の状況についてご紹介しました。
アジア特許情報研究会/アイ・ピー・ファイン 中西 昌弘