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ASEAN商標統計情報:タイ編


0. はじめに

今回はASEAN10か国の中でインドネシアに続いて商標出願件数の多い、タイの統計情報です。

1. 出願件数

1.1. 全出願件数

この項では2020年~2024年に出願された件数を紹介します。

同国では商標出願が受け付けられると、即刻ASEAN IP REGISTER(AIR)データベースに情報が収録されるようです。このため2024年出願のバーが、ほぼ2023年のバーの高さに近づいています。

下図は2024/12/06にAIRで表示させたものです。2024/12/01に出願された案件が既に収録されています。しかし、まだ正式には発行されていないようであり、Publication Dateは空白になっています。

1.2. 出願ルート

タイも2017年からマドリッドプロトコルに加盟しており、次のいずれかのルートで出願されます。
(1) パリ条約や二国間条約に基づいて各国別に出願する方法(直接出願)
(2) マドリッド協定議定書に基づいて複数国に一括して手続を行う方法(マドプロによる国際出願)

同国案件の場合には、1件ごとの詳細画面に表示される「Application SubType」フィールドの値により、出願ルートを把握することができます。

2020年~2024年に出願された案件を出願ルート別に集計すると次のようになります。

同国ではマドリッド経由の出願比率が非常に低く、およそ20%程度しかありません。2023年以降はマドプロ比率がさらに低下していますが、これはマドリッド経由の情報がタイの知財庁に届くまでのタイムラグが原因と思われます。

1.3. 産業分野別

各案件に付与されたニース分類コードを、「特許行政年次報告書2023年版/特許庁」で使用されている規則に則って6つの「産業分野」に分類し、「産業分野」別の出願件数推移をグラフ化しました。

同国でも2020年~2024年の間に、産業分野比率の大きな変化は見られません。

1.4. 内国出願・外国出願

出願人名の住所文字列に含まれる国名記号をもとに「出願人国籍」を判定し、タイ国籍の出願人が含まれる案件を内国出願案件とし、同国以外の国籍の出願人が含まれる案件を外国出願案件として計数しました。タイ国籍出願人と非タイ国籍出願人による共同出願案件は、内国出願・外国出願の双方に集計されています。

2020年以降の外国比率に大きな変動は見られません。ほぼ40%の比率を発っています。先に紹介したマドプロ比率が20%程度であったことから、同国では外国籍出願人による出願のうち、半数程度しかマドリッドプロトコルを使用していないことがわかります。

2. 出願人

2.1. 出願人国籍

2020年~2024年の全出願における出願人国籍上位10か国について、2020年~2024年の各年の比率をグラフ化しました。

先に紹介したようにタイでは内国(タイ国籍)出願人比率が60%ほどの高さ、そのあとをCN・US・JPが続き、ここまでで85%程度を占めています。距離が近いためか、中国のオレンジの扇が徐々に拡がってきています。4位の日本と5位の韓国との比率の差も、徐々に減少しているようです。

2.2. 出願件数ランキング

2020年~2024年に出願された案件について、出願年ごとの件数上位出願人を名寄せし、一覧表にまとめました。

2.2.1 すべて

AIRに収録された全ての案件を母集団とし、2020年~2022年の各年に出願された件数が多い出願人をリストアップしました。

タイでは企業名・法人名ではなく個人名で出願された案件が目立ちます。トップ10を集計しても毎年のように個人出願がランクインしています。

なおタイ国内の法人名出願案件については、タイ国のWEBサイトを使用して法人の英語名を調査し、英語(アルファベット)で表記しましたが、個人名の「นายจินแว็น หู」を「Mr. Jinwan Hu」と表記することに意味がないため、タイ語のまま集計しています。

2.2.2. 産業分野:化学

化学分野に対応するニース分類が付与された案件だけを母集団として、前項同様に2020年~2022年の出願数上位をリストアップしました。

「化学」分野では、日本企業の資生堂の出願数が、例年トップ10にランクインしています。

2.2.3. 産業分野:食品

食品分野に対応するニース分類が付与された案件を集計しました。

「食品」分野では他の分野よりタイ国籍の法人やタイ国個人名の出願が目立っている。

2.2.4. 産業分野:機械

続いて機械分野の出願数ランキングです。

「食品」分野とは一転して、外国籍企業からの出願が目立ちます。日中韓3国の企業が毎年のようにランクインしています。

2.2.5. 産業分野:繊維雑貨

繊維雑貨分野の出願数ランキングです。

商品単価が低いことが要因になるのか、タイ国籍個人名出願が目立ちます。

2.2.6. 産業分野:産業役務

産業役務分野の出願数ランキングを紹介します。

2.2.7. 産業分野:一般役務

最後の産業分野、一般役務分野のランキングです。

2.2.8. 日本国籍出願人

産業分野を離れて、日本国籍出願人を母集団としたランキングです。

このような日本法人がタイでのビジネスに注力しているようです。

3. 審査期間

2020年~2024年に登録された商標案件について、出願日から登録日までの経過期間をバブルグラフで表しました。

タイ国では商標案件が登録されるまでに1年半~2年程度の期間を要します。2022年ごろから出願から1年以下で登録される案件のバブルが拡大していますが、逆に2年以上を要する案件も増加し、平均値は低下していないようです。

4. 登録率

4.1. すべて

2020年~2024年に出願されたすべての案件が、現時点でどの程度登録されているかの比率を調べてみました。

2022年に出願された案件群はほぼ審査が終了し、50~55%程度の登録率に落ち着きました。ASEANの他の国に比較すると、タイでは登録に至らない案件の比率が高いようです。

4.2. 日本国籍

続いて日本国籍の出願人による案件だけを母集団として、登録率を調べてみました。

日本国籍案件の登録率は右肩下がりになっています。マドリッド比率が高いことから、出願された情報がタイ知財庁に届くまでのタイムラグが影響しているのか、2021年出願案件にはまだ審査中の案件が眠っている気配です。



以上、タイにおける商標の統計情報のご紹介でした。

アジア特許情報研究会/アイ・ピー・ファイン 中西 昌弘