ASEAN商標統計情報:ベトナム編
0. はじめに
これまでカンボジア・フィリピンと、商標レコードの統計情報をご紹介してきました。今回はベトナムの統計情報です。
1. 出願件数
1.1. 全出願件数
この項では2020年~2024年に出願された件数を紹介します。
先回ご紹介したフィリピンでは、公報が発行されるのを待つことなく、出願受け付け後にはASEAN IP REGISTER(以降AIRと呼びます)で情報が公開されていました。このため2024年の出願件数も、2023年の3/4程度まで伸びていましたが、2024年出願のベトナム商標案件は、まだほとんどAIRには収録されていません。
1.2. 出願ルート
ベトナムでは2006年よりマドリッドプロトコルに加盟しておりマドリッド協定議定書が発効しています。AIRに収録された他国案件の多くでは、「Application Type」フィールド、あるいは「Application SubType」フィールドに登録された値により、直接出願とマドプロ出願を識別できます。しかしベトナム案件の場合には、僅か数十件に「Madrid Chỉ định VN」の文字列が収録されただけで、出願ルートを把握することができませんでした。
1.3. 産業分野別
各案件に付与されたニース分類コードを、「特許行政年次報告書2023年版/特許庁」で使用されている規則に則って6つの「産業分野」に分類し、「産業分野」別の出願件数推移をグラフ化しました。
ベトナムでも、2020年~2024年の間に産業分野比率の大きな変化は見られません。
1.4. 内国出願・外国出願
このASEAN商標統計情報の報告書では、出願人名の住所文字列に含まれる国名記号をもとに「出願人国籍」を判定し、内国出願・外国出願の傾向を分析しています。しかし2022年以前に出願されたベトナム商標案件のほぼ全ては、出願人住所文字列に国名記号が含まれていないことが多く、出願人国籍を判定できていません。また2024年に出願された案件は収録件数が非常に小さく、グラフ上で視認できるレベルに達していません。
前記したように2020年~2022年出願案件には出願人国籍を判別できない案件が多数含まれているのですが、国籍を判別できた僅かな案件だけで「外国比率」を計算しても、概略20%程度のレベルを保っているようです。2024年以降は正しい情報がAIRに収録されることを期待します。過去分の「遡及収録」もしてほしいところですが、ASEANにそこまで期待しても・・・。
2. 出願人
2.1. 出願人国籍
2023年~2024年の全出願における出願人国籍上位10か国について、2020年~2024年の各年の比率をグラフ化しました。前項に記したとおり、2020年~2022年に出願された案件では、出願人国籍を判定できない案件が多く、統計数字として意味があるのは2023年出願以降の案件に限られています。
ベトナムでも他のASEAN諸国と同様に、中国からの出願が増えています。
2.2. 出願件数ランキング
2020年~2022年に出願された案件について、出願年ごとの件数上位出願人を名寄せし一覧表にまとめました。
2.2.1 すべて
下表はAIRに収録された全ての案件を母集団とした集計結果です。
2.2.2. 産業分野:化学
化学分野に対応するニース分類が付与された案件を母集団として、前項同様に2020年~2022年の出願数上位をリストアップしました。
2.2.3. 産業分野:食品
食品分野に対応するニース分類が付与された案件を集計しました。
2.2.4. 産業分野:機械
続いて機械分野の出願数ランキングです。
2.2.5. 産業分野:繊維雑貨
繊維雑貨分野の出願数ランキングです。
この産業分野は件数規模もさほど大きくなく、個人出願が目立っています。
2.2.6. 産業分野:産業役務
産業役務分野の出願数ランキングを紹介します。
2.2.7. 産業分野:一般役務
産業分野の最後は一般役務分野です。
2.2.8. 日本国籍出願人
最後に日本国籍出願人を母集団としたランキングをご紹介します。
表に記したように2020年・2021年は件数規模も小さく、名を連ねる企業も極僅かです。これは前記のように、2021年以前に出願されたほとんどの案件で、出願人住所文字列から国名記号が欠落しており、日本国籍出願人案件を正確に把握できていないことが原因です。
3. 審査期間
2020年~2024年に登録された商標案件について、出願日から登録日までの経過期間をグラフ化しました。
フィリピンでは平均審査期間が1年未満という短期間でしたが、ベトナムでは2年半~3年弱と長めです。また登録までに5年を超える案件もグラフ上でバブルが視認できる程度には存在するようです。
4. 登録率
4.1. すべて
2020年~2024年に出願されたすべての案件が、現時点でどの程度登録されているかの比率を調べました。
平均審査期間が3年弱と長めのベトナムです。2020年に出願された案件で、まだ決着のついていない案件も多く、まだ飽和していない様子です。
4.2. 日本国籍
前期のように出願人国籍を判定できない案件が多数存在することから、日本国籍案件に限定した登録率の集計は割愛します。
以上、今回はベトナム商標の統計情報でした。残りのASEAN諸国についても、同様の分析を徐々に進めてご紹介する予定です。しばらくお付き合いください。
アジア特許情報研究会/アイ・ピー・ファイン 中西 昌弘