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ASEAN商標統計情報:ラオス編


0. はじめに

これまでカンボジアフィリピンベトナムと、ASEAN地域の商標レコードの統計情報をご紹介してきました。今回はラオスの統計情報です。

1. 出願件数

1.1. 全出願件数

この項では2020年~2024年に出願された件数を紹介します。

ASEAN6のフィリピンやベトナムに比べるとほぼ10%の出願規模です。

ラオスでもフィリピンと同様に、公報が発行されるのを待つことなく、出願受け付け後にはASEAN IP REGISTER(以降AIRと呼びます)で情報が公開されるようです。2024年8月31日に出願された案件が、下図のように2024年9月21日にはAIRで表示されていました。

1.2. 出願ルート

ラオスは2015年よりマドリッドプロトコルに加盟しており、概略60%程度の案件がマドリッドルートで出願されています。

ラオス商標レコードでは1件ごとの詳細画面に表示される「Application
Type」フィールドの値により、出願ルートを識別できます。

2020年~2024年に出願された案件を出願ルート別に集計しました。

2023年以降に出願された案件でマドプロ比率が低下しているのは、マドリッドルート案件の情報がAIRに収録されるまでのタイムラグが原因と思われます。

1.3. 産業分野別

各案件に付与されたニース分類コードを、「特許行政年次報告書2023年版/特許庁」で使用されている規則に則って6つの「産業分野」に分類し、「産業分野」別の出願件数推移をグラフ化しました。

ニース分類コードと産業分野との対応は次のとおりです。
化学:1類~5類
食品:29類~33類
機械:6類~13類、19類
雑貨繊維:14類~18類、20類~28類、34類
産業役務:35類~40類
一般役務:41類~45類

ラオスでも、産業分野比率は2020年~2024年の間に大きな変化がありません。

1.4. 内国出願・外国出願

出願人名の住所文字列に含まれる国名記号をもとに「出願人国籍」を判定し、ラオス国籍の出願人が含まれる案件を内国出願案件とし、ラオス以外の国籍の出願人が含まれる案件を外国出願案件として計数しました。ラオス国籍出願人と非ラオス国籍出願人による共同出願案件は、内国出願・外国出願の双方に集計されています。

商標出願は国内からの出願が多いのがよくある姿です。しかしラオスでは国内企業の経済的な発展が進行していないためか、外国比率が80%レベルという異常な高さになっています。

2. 出願人

2.1. 出願人国籍

2023年~2024年の全出願における出願人国籍上位10か国について、2020年~2024年の各年の比率をグラフ化しました。

前項で記したようにラオス商標の内国出願比率は20%程度であり、出願件数のランキングトップは中国が占めています。比率に若干の変動はあるものの、2020年以降中国籍出願人による案件は30~35%程度を占めています。ラオスも徐々に比率を伸ばし2024年は20%程度に達する見込みです。

2024年には韓国からの出願が一気に倍増しました。ただ243件のうち約半分の115件は、韓国の大型ディスカウントストアE MARTによる出願であり、今後も継続して韓国企業からの出願が伸びていくのかどうかは不明です。

2.2. 出願件数ランキング

2020年~2022年に出願された案件について、出願年ごとの件数上位出願人を名寄せし一覧表にまとめました。ただ世界のGoogleと言えども、インターネット上のラオス法人の情報が少ないようで、ラオス語(ラオ語)の法人の英語表記法人名を調べられないことも多く、十分に名寄せが出来ていないだけでなく、ラオス文字が残ったままの出願人名もあります。ラオス語が堪能な方以外には申し訳ありません。

2.2.1 すべて

下表はAIRに収録された全ての案件を母集団とした集計結果です。

2020年~2024年を通して出願件数が最も多かったのは、ブルガリアの
ゲームカジノ機器製造業のEURO GAMES TECHNOLOGY社でした。

2020年の第10位にはラオス国内企業と思われる "ບໍ​ລິ​ສັດ ໂອ​ເຄ ການ​ຄ້າ ຂາ​ເຂົ້າ-ຂາ​ອອກ ຈຳ​ກັດ​ຜູ້​ດຽວ" がランクインしています。Google翻訳では "OK Trading Import-Exit Company Limited" と英訳されます。おそらくラオスの貿易関連企業だと思われますが、このラオス語文字列をGoogleで検索しても、何もヒットしませんでした。

2.2.2. 産業分野:化学

化学分野に対応するニース分類が付与された案件を母集団として、前項同様に2020年~2022年の出願数上位をリストアップしました。

2.2.3. 産業分野:食品

食品分野に対応するニース分類が付与された案件を集計しました。

2.2.4. 産業分野:機械

続いて機械分野の出願数ランキングです。

2020年第5位および2021年第7位の "ບໍລິສັດ ເພິງຕ໋າ ການຄ້າ ຂາອອກ-ຂາເຂົ້າ ຈຳກັດຜູ້ດຽວ" はGoogle翻訳では "Peng Ta Trading Export-Import Company Limited" と英訳されます。ラオスの貿易関連企業だと思われますが、このラオス語文字列をGoogleで検索しても、何もヒットせず正しい英語企業名は判別しませんでした。

2.2.5. 産業分野:繊維雑貨

繊維雑貨分野の出願数ランキングです。

2.2.6. 産業分野:産業役務

産業役務分野の出願数ランキングを紹介します。

2020年3位の "ບໍ​ລິ​ສັດ ໂອ​ເຄ ການ​ຄ້າ ຂາ​ເຂົ້າ-ຂາ​ອອກ ຈຳ​ກັດ​ຜູ້​ດຽວ" は2.2.1項で記した詳細不明の "OK Trading Import-Exit Company Limited" です。

2.2.7. 産業分野:一般役務

産業分野の最後は一般役務分野です。

2.2.8. 日本国籍出願人

産業分野を離れて、最後に日本国籍出願人を母集団としたランキングをご紹介します。

3. 審査期間

2020年~2024年に登録された商標案件について、出願日から登録日までの経過期間をグラフ化しました。

4. 登録率

4.1. すべて

2020年~2024年に出願されたすべての案件が、現時点でどの程度登録されているかの比率を調べました。

2022年に出願された案件は、ほぼ全数が決着が付いたようです。2023年以降にマドリッドルートで出願された案件が審査未決状態で残っているものと思われます。

4.2. 日本国籍

国籍を問わず全件を対象としが登録率グラフ化と、ほぼ同様の傾向です。
2022年以前に出願された案件は、ほぼ全件が決着済み。2023年以降は出願がラオスに届くまでに期間がかかってしまうマドリッド案件ゆえのタイムラグが感じられるという結果です。


以上、今回は日本ではあまり情報公開されていないラオス商標の統計情報でした。残りのASEAN諸国についても、同様の分析を徐々に進めてご紹介する予定です。お待ちください。

審査期間グラフ平均期間修正 2024/10/09
初版投稿 2024/09/24

アジア特許情報研究会/アイ・ピー・ファイン 中西 昌弘