ASEAN商標統計情報:ブルネイ編
0. はじめに
今回はボルネオ島北部に位置する小さな国のブルネイにおける商標の統計情報のご紹介です。
1. 出願件数
1.1. 全出願件数
この項では2020年~2024年に出願された件数を紹介します。
年間の商標出願は2000件弱と非常に小さな規模です。
同国でもASEAN IP REGISTER(AIR)には、出願を受け付けながらも発行されていない案件も収録されています。このためグラフの2024年のバーが、ほぼ2023年のバーの高さと変わらないレベルまで伸びています。
1.2. 出願ルート
ブルネイも2017年からマドリッドプロトコルに加盟しており、次のいずれかのルートで出願されます。
(1) パリ条約や二国間条約に基づいて各国別に出願する方法(直接出願)
(2) マドリッド協定議定書に基づいて複数国に一括して手続を行う方法(マドプロによる国際出願)
同国の案件の場合には、1件ごとの詳細画面に表示される「Application SubType」フィールドの値により、出願ルートを把握することができます。この方向書では「Application SubType」フィールドの値が「Trademark-Madrid」のものだけをマドリッドルートとして扱いました。
2020年~2024年に出願された案件を出願ルート別に集計すると次のようになります。
同国に出願された商標案件の約2/3がマドリッドルートの出願です。
1.3. 産業分野別
各案件に付与されたニース分類コードを、「特許行政年次報告書2023年版/特許庁」で使用されている規則に則って6つの「産業分野」に分類し、「産業分野」別の出願件数推移をグラフ化しました。
ブルネイでも2020年~2024年の間に、産業分野比率の大きな変化は見られません。
1.4. 内国出願・外国出願
出願人名の住所文字列に含まれる国名記号をもとに「出願人国籍」を判定し、ブルネイ国籍の出願人が含まれる案件を内国出願案件とし、同国以外の国籍の出願人が含まれる案件を外国出願案件として計数しました。ブルネイ国籍出願人と非ブルネイ国籍出願人による共同出願案件は、内国出願・外国出願の双方に集計されています。
通常なら内国人出願比率が高い商標でありながら、外国籍比率が95%と非常に高い数字を示しています。国内企業の経済的な発展が進行していないことが原因となっている可能性があります。
2. 出願人
2.1. 出願人国籍
2020年~2024年の全出願における出願人国籍上位10か国について、2020年~2024年の各年の比率をグラフ化しました。
すべてのASEAN諸国で見られる傾向ですが、ブルネイでもCNの比率が増大しています。日本は2024年に韓国に逆転されてしまいました。
2.2. 出願件数ランキング
2020年~2024年に出願された案件について、出願年ごとの件数上位出願人を名寄せし、一覧表にまとめました。
2.2.1 すべて
AIRに収録された全ての案件を母集団とし、2020年~2022年の各年に出願された件数が多い出願人をリストアップしました。
全分野を合計した一覧に自動車製造企業が4社もランクインしています。KIAグループは2020~2022年の3年間全てでランクインするという結果です。
2.2.2. 産業分野:化学
化学分野に対応するニース分類が付与された案件だけを母集団として、前項同様に2020年~2022年の出願数上位をリストアップしました。
全体規模が小さいため、「化学」分野の第10位は出願数10件以下というレベルです。
2.2.3. 産業分野:食品
食品分野に対応するニース分類が付与された案件を集計しました。
「化学」分野より出願規模が小さく、各年の第10位は僅か4件だけというレベルです。このような中でアラブ首長国連邦のINTERNATIONAL FOODSTUFFSによる2024年の飛びぬけた出願件数が目を引きます。
2.2.4. 産業分野:機械
続いて機械分野の出願数ランキングです。
10件程度の件数ですが、日本のトヨタ自動車が3年間を通してランクインしています。
2.2.5. 産業分野:繊維雑貨
繊維雑貨分野の出願数ランキングです。
ASEANの他国では目にすることのなかったTOYS"R"US (ASIA)が3年間を通じてランクインしている。同社はブルネイを中心に出願しているわけではなく、若干の件数差はあるが、ミャンマー以外の他国にも10から20件を出願している。ブルネイ全体での出願規模が小さいため、ブルネイで目立っただけのようである。長年特許調査をやってきたが、この会社ほど出願人検索が難しかった会社は初めてである。
2.2.6. 産業分野:産業役務
産業役務分野の出願数ランキングを紹介します。
2.2.7. 産業分野:一般役務
産業分野の最後は一般役務分野のランキングです。
2.2.8. 日本国籍出願人
産業分野を離れて、日本国籍出願人を母集団としたランキングです。
3. 審査期間
2020年~2024年に登録された商標案件について、出願日から登録日までの経過期間をバブルグラフで表しました。
2022年以降は、およそ1年程度の審査期間で登録に至っている。2020年には2年を超える期間を要していたが、これはCovid 2019の影響を一時的に受けたための可能性も否定できない。
4. 登録率
4.1. すべて
2020年~2024年に出願されたすべての案件が、現時点でどの程度登録されているかの比率を調べてみました。
2022年に出願された案件の審査はまだ終了していないものと思われる。今後時間経過とともに、登録率は90%程度まで増加することが期待される。
4.2. 日本国籍
続いて日本国籍の出願人による案件だけを母集団として、登録率を調べてみました。
日本国籍案件だけを母集団としたときも、全体集合と同様の傾向である。日本出願案件も90%程度の登録率まで上昇するものと思われる。今後の経過に注目したい。
以上、ブルネイにおける商標の統計情報のご紹介でした。
アジア特許情報研究会/アイ・ピー・ファイン 中西 昌弘