ASEAN商標統計情報:フィリピン編
0. はじめに
先のレポートの「カンボジア編」をアップしたあと、知財協のASEAN特許調査セミナーのテキスト作成に追われ、1か月半ほどが経過してしまいました。渾身の300ページのテキストを書き終えましたので、久々にASEAN商標統計情報のジョブに戻ってきました。今回はフィリピン編をお届けします。
1. 出願件数
1.1. 全出願件数
この項では2020年~2024年に出願された件数を紹介します。
ASEAN IP REGISTERにおけるフィリピン商標レコードは、出願が受け付けられると、ほとんど遅滞なく情報が公開されるようです。下図は2024年9月18日に表示させた画面です。8月31日に出願した案件が、公報の発行を待つことなく、すでに情報公開されています。このため2024年の出願件数も、過去の年度とさほど変わらないレベルにまで伸びています。
1.2. 出願ルート
フィリピンもマドリッドプロトコルに加盟しており、次のいずれかのルートで出願されます。
(1) パリ条約や二国間条約に基づいて各国別に出願する方法(直接出願)
(2) マドリッド協定議定書に基づいて複数国に一括して手続を行う方法(マドプロによる国際出願)
フィリピン案件の場合には、1件ごとの詳細画面に表示される「Application
SubType」フィールドの値により、出願ルートを把握することができるようです。
2020年~2024年に出願された案件を出願ルート別に集計してみました。
フィリピンでも2024年のマドプロ比率が低下気味ですが、これも各国からの出願情報が同国に届くまでの時間差が原因になっている可能性があると思われます。
1.3. 産業分野別
各案件に付与されたニース分類コードを、「特許行政年次報告書2023年版/特許庁」で使用されている規則に則って6つの「産業分野」に分類し、「産業分野」別の出願件数推移をグラフ化しました。
産業分野比率は2020年~2024年の間に、大きな変化は見られません。
1.4. 内国出願・外国出願
出願人名の住所文字列に含まれる国名記号をもとに「出願人国籍」を判定し、フィリピン国籍の出願人が含まれる案件を内国出願案件とし、フィリピン以外の国籍の出願人が含まれる案件を外国出願案件として計数しました。フィリピン国籍出願人と非フィリピン国籍出願人による共同出願案件は、内国出願・外国出願の双方に集計されています。
カンボジアの集計とは異なり、2020年以降の内国・外国比率に変動は見られません。
2. 出願人
2.1. 出願人国籍
2020年~2024年の全出願における出願人国籍上位10か国について、2020年~2024年の各年の比率をグラフ化しました。
特許とは異なり、本国籍出願人の商標出願件数が多いのは、どこの国でも同じです。この5年間、フィリピン国籍出願人案件の比率には大きな変化がありません。その中で中国のオレンジの扇がどんどん拡大していることがわかります。
2.2. 出願件数ランキング
2020年~2024年に出願された案件について、出願年ごとの件数上位出願人を名寄せし、一覧表にまとめました。
2.2.1 すべて
AIRに収録された全ての案件を母集団とし、2020年~2022年の各年に出願された件数が多い出願人をリストアップしました。フィリピンでは公報の発行を待つことなく、出願後ただちに情報が収録されているようですが、他国に合わせて集計期間を2022年までに制限しました。
3年を通してランクインしている「AGLOBAL CARE」・「SAN MIGUEL グループ」はフィリピン国籍の企業体です。先の出願人国籍ランキングでは、中国籍出願人が比率を伸ばしていましたが、3年間を通してランキングした企業は存在しませんでした。
2.2.2. 産業分野:化学
化学分野に対応するニース分類が付与された案件だけを母集団として、前項同様に2020年~2022年の出願数上位をリストアップしました。
2.2.3. 産業分野:食品
食品分野に対応するニース分類が付与された案件を集計しました。
2.2.4. 産業分野:機械
続いて機械分野の出願数ランキングです。
2.2.5. 産業分野:繊維雑貨
繊維雑貨分野の出願数ランキングです。
2.2.6. 産業分野:産業役務
産業役務分野の出願数ランキングを紹介します。
2.2.7. 産業分野:一般役務
6つの産業分野の最後です。一般役務分野のランキングです。
2.2.8. 日本国籍出願人
最後はニース分類から離れて、日本国籍出願人を母集団としたランキングをご紹介します。
3. 審査期間
2020年~2024年に登録された商標案件について、出願日から登録日までの経過期間をグラフ化しました。
平均8~11か月程度で登録されています。案件ごとの審査期間のばらつきも小さく非常に安定しています。
4. 登録率
4.1. すべて
020年~2024年に出願されたすべての案件が、現時点でどの程度登録されているかの比率を調べました。
2020年~2021年に出願された案件は、ほぼ審査が終了したものと思われます。この2年間は75%程度の登録率です。2022年以降に出願されたものは、まだ審査中の案件も多く、登録率は徐々に上昇していくものと想定されます。
4.2. 日本国籍
続いて日本国籍の出願人による案件だけを母集団として、登録率を調べてみました。
登録された全件を対象としたときの登録率より、遥かに高い数字で推移しています。95%ほどの登録率です。
以上、フィリピンにおける商標の統計情報をご紹介しました。残り8か国についても、同様の分析を徐々に進め、このnoteで報告していく予定です。
アジア特許情報研究会/アイ・ピー・ファイン 中西 昌弘