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出会いは一度だけ
忘れられない香というのは案外厄介なもので、なんとなく恋しいけどどうやっても手に入らない無力感に打ちひしがられます。
先日、奈良に行って参りました。鹿と触れ合ったり文化財を見て回ったりそれはそれは楽しいひと時だったのですが、私は一つ大きな忘れ物をしてしまいました。
土産物屋に入った時、とある練り香水が目に入りました。入れ物に描かれている古風な紋様と「はつこい」の文字に、私の心はくすぐられてしまいました。売り場の方が「少し付けてみるかい」と声をかけてきたので、セールスだとわかりつつも私はそれに乗りました。
「耳たぶの裏に塗るといいよ」と売り場のマダムは教えてくれました。その通りに耳たぶの裏に塗ってみると、ふわりと微かな甘い匂いが香ってきて、私は思わず感嘆の声を上げてしまいました。
その時の香りがどうも忘れられないのです。こういうものは他の土産物屋にもあるだろうとたかを括って、1100円ほどの出会いを無視したのですが、それが間違いでした。家に帰ってからもその香りが忘れられず、近くの香水を取り扱う店を調べ上げる始末です。ネットでも調べてみましたが、記憶が薄れてよくわかりません。
一期一会なんて言葉をよく聞きますが、まさにその通りになってしまいました。あの時買っていれば...と後悔するばかりです。