昆虫図鑑がすきだったあの子_vol.4
こちらはvol.1,2,3の続編となります。
是非、以下も併せて読んでください!
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その日、私は"すき"って言葉には2種類あるのだと実感した。
これまで"すき"という言葉は、
・出来立てのたこ焼きがすき
・ばいきんまんをやっつけるアンパンマンがすき
・○○ちゃん/くんの優しいところがすき
といったように、ある特定のモノ・人に対して、ピンポイントで好印象をもったときに使っていた。
対して、今回の"すき"はどうだろうか。
ある特定の人なのは前者と同じ。
異なるのは「ピンポイント」ではなく「全体的」に好意をもつ点。
もちろん、気になるきっかけはピンポイントで、私の場合は話していると知らない世界を教えてくれるところだった。
ところが、だんだんその点と点が線になり、線が面になり…と繋がっていき、最終的には、「とにかく存在がすき」に広がっていったのだ。
これが、7才の私が気づいた”恋”という新しい感情だった。
いざ、すきな気持ちがわかると、自分自身がおかしくなっていることに気づく。その頃には教室に来るとワタルくん自ら声をかけてくれるようになったのだが、如何せんドキドキする。
例えるなら、学芸会演劇で自分のセリフが近づいてきた時、周りの声がだんだんと小さくなって、その代わりに自分の心臓の音がドクドクと聞こえるような感じだ。いつも以上に「あぁ、生きてるな私。」と実感するあの瞬間。
恋に気付いてしまうとその瞬間がずっと続く。こんなにも私は変わってしまうのか。以前と比べると明らかに彼に目を合わせる秒数は短くなり、彼の話をする際に真っ直ぐ見つめる目に応えることができない。
そんな私の変化に機敏なのが友達。「さしみちゃん、ワタルくんのことすきなのぉ?」とこっそりと耳打ちされることが増えていく。こりゃ困った。まぁ友達のことはすきだけど、すきなんだけど、こればっかりは誰にも言いたくない。ワタルくんがすきという気持ちはワタルくんに初めて伝えてこそ意味があると意固地になっていたからだ。
そう思うものの、学校では伝えづらいじゃあないか…と考えた私は、2人で話せる時間をいつもより増やせば、前みたいに話せるようになるのでは!?と考えた。が、そのアイデアは1日で儚く消え去った。なぜならワタルくんのおうちは私の家から非常に離れたところにあり、学校の規則で、小学校1年生はひとりでお友達と遊びに行けるのは居住区域内までのみ。つまり、私かワタルくんが何らかの形で親公認のもと集合しなくては一生学校止まりなのである。
とはいえ、「ワタルくんと遊びたいから送ってほしい」なんて私には口が裂けても、引きちぎれても言いたくなかった。今まで、男の子と2人で遊びに行ったことなんてなかったし、恋をしている自分の姿をお母さんに見せるのが恥ずかしかった。そんなことをしようものなら無駄に勘がよく、かつ無駄にお節介の母がワタルくんに余計なことを言いかねない。
私が母へのバレを恐れている間にも彼はだんだんクラスの中でも「頭がいい子、物知り王」ポジションで男女から人気者へと変貌していた。
私が教室に遊びにきても、昆虫図鑑は机の上に置かれたまま、クラスの男の子と校庭で網と虫かごを持って遊びに行く姿、授業で分からないところを女の子に教えてあげる姿を見る機会がグッと増えた。
幼いながらにも、今は私が話にいくときじゃないか…と声をかけずに自分の教室に戻ることも比例して増えていった。
全く関わりが無くなったわけではない。たまに、図鑑を読みふけるタイミングでワタルくんと話す機会はあったし、そのたびにワタルくんはいつもと変わらずに接してくれる。勉強や互いの習い事、昆虫生態の話など。でも、私が伝えたいことや彼の核心には触れられないまま1学期の修了式を迎えた。(続く)
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続きのvol.5は以下からご覧ください!