女性犯罪者の特徴からみえる「闇」とは?【データ深掘り】
先日、法務省の研究部が「研究部報告66」を公表。
テーマは「女性犯罪者に関する総合的研究」でした。
筆者と同じ「女性」ということもあるし、女性犯罪者に対して深く考えたことが無かったので、個人的に「見てみたい」という好奇心から報告書を呼んでみましたが・・・結構な、深い闇を見ることになりました。。。
今回も出来る限り分かりやすく、データを深掘りご紹介していきます!
※虐待や実際にあった殺人事件のお話をするので、フラッシュバックの心配がある方や、そういう話は苦手という方はここで止めてくださいね。
▽SASENAI チャンネルで解説しました!
法務省研究部とは?
さて今回深掘るデータに入る前に、
「法務省研究部」という機関を初めて聞く方も多いと思いますので説明すると法務省の研究部は、刑事政策全般に関して調査や研究を行っており、よくニュースでも取り上げられる「犯罪白書」はこの研究部が発表しているデータです。
そして、今日ご紹介する「研究部報告」は、研究部が1つのテーマを深堀して研究した成果をまとめて公表している報告データになります。
過去には
「家庭内の重大犯罪に関する研究」
「非行少年と生育環境に関する研究」
などがあり、多くのエビデンスデータと共に分かりやすくデータを発表をしていますので、ご興味ある方は↓からチェックしてみてください。
研究部報告 https://www.moj.go.jp/housouken/houso_houso08.html
前置きが長くなってしまいましたが、いよいよ今回の深掘りデータ
「女性犯罪者に関する総合的研究」の話に入っていきましょう。
犯罪者の内、女性の割合ってどれくらい?
警察庁の統計では、令和4年の刑法犯の検挙人員は 16 万9,409人(前年比5,632人(3.2%)減)でした。
その内女性の割合は 21.9%(3万7,021人)で、過去20年間ほぼ横ばいで変わらず20 ~22%台で推移しています。
性別でここまで犯罪者の数に開きがあるのですね。
女性犯罪者の特徴理解を深めるため、男性犯罪者との違いをみてみます。
女性受刑者の特徴4つとは
受刑者の平均年齢が高い
窃盗(特に万引き)犯が多い
同じ犯罪を繰り返して受刑に至る傾向がある
事件動機は配偶者や交際相手の影響を受けやすい
上記4つが確認できました。
それでは、1つずつ深掘りしてみていきましょう。
1.受刑者の平均年齢が高い
令和4年に検挙された犯罪者の男女別で年齢層別構成比を比較すると、女性で最も多いのは「65歳以上」のグループで、全体の約33%を占めています。次に「50~64歳」が19.3%と、50歳以上の者が全体の半数を占めているのに対して、男性は若年層の占める割合が高い傾向があります。
2.窃盗(特に万引き)犯が多い
全刑法犯のうち女性は2割程度なので、男女比でみればいずれの犯罪も男性の方が多い傾向になるのは当然ですが、女性の罪名別構成比をみると窃盗の割合が7割近くあり、万引きが窃盗の半数を占めています。
男性も罪名別では窃盗が最も多いですが、4割ほどで、万引きはその内の2割なので、女性犯罪者に万引き犯が多いのが分かります。
3.同じ犯罪を繰り返して受刑に至る傾向がある
女性犯罪者の罪名は、窃盗や覚醒剤取締法違反が全体の8割を占めています。
また、再犯者に関して、前刑罪名が窃盗の人は同じく今回の罪名が窃盗である人、前刑罪名が覚醒剤取締法違反の人で今回罪名が覚醒剤取締法違反の人が、いずれも約9割を占めており、同じ犯罪を繰り返してしまう傾向があります。
4.事件動機は配偶者や交際相手の影響を受けやすい
犯罪の動機については、男女ともに「軽く考えていたから」や「生活費に困っていたから」が多いです。ただ、女性の受刑者の場合、男性に比べて「配偶者や交際相手に誘われたから」という理由が多いことがわかっています。
つまり、女性は配偶者や交際相手の影響を受けやすい傾向があるようです。
女性犯100%の犯罪事件
最後に1つ「罪名別構成比」のデータを見ている時に、個人的に気になったのが「嬰児殺(えいじごろし)」という犯罪です。これは生まれて間もない子どもを殺してしまう犯罪ですが、女性による実行が100%でした。
生まれて間もないという点から、女性の方が犯行に及びやすい状況であることは間違いないのですが、私も子どもを出産したことのある立場からすると理解に苦しむ犯罪の1つです。
この罪名で浮かんできた事件が2つありました・・・
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※ここから具体的な事件を紹介するので、フラッシュバックやそういう話は苦手という方はここで止めてくださいね。
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就活生乳児殺害事件
2019年11月にあった当時大学生の北井小由里が就活の移動で訪れた羽田空港のトイレで赤ちゃんを出産し、出産から43分の間に赤ちゃんを殺害してしまったという事件。
下田市嬰児連続殺害事件
2つ目が、ノンフィクションライターの石井光太氏の「鬼畜の家、わが子を殺す親たち」にも登場する高野愛(いづみ)(逮捕時28歳)が起こした「下田市嬰児連続殺害事件」。
この事件は、高野が高校2年生の時から10年余りの間に8人の子どもを妊娠し、中絶の費用がなかったことを理由に2年続けて自ら生んだ赤ちゃんを自宅で出産し、殺害。その後、自宅に遺棄した事件です。
同時に、筆者がこれらの事件を知った時に感じた「違和感」が今回の研究報告のデータで、「闇」として見えてきたところがあったので、最後にご紹介していきます。
女性犯罪者特有の課題にある「闇」とは
結論からいうと 性的虐待やDV等の「被害者性」が高い という点です。
「研究部報告66」の第5章まとめでも紹介されていた矢野 恵美先生が発表された内容(※日本の女性刑務所が抱える 問題について考える)から引用します。
受刑者の73%・・・信じられないですね。
報告書では受刑者の更生を考える上で被害経験や彼女たちの生きづらさに焦点をあてた支援が必要だと伝えています。
実際、ご紹介した1つ目の北井小由里の事件では裁判では認められなかったものの、弁護側は本人の「境界知能※」と「家庭環境」による影響が事件の背景にあるとし、まさに彼女の「生きづらさ」が原因になったと主張した事件です。
※境界知能:IQ(知能指数)が70~85未満とされ、70未満が目安とされる「知的障害」には当たらないグレーゾーン。北井小由里は74と判断されている。
2つ目の「下田市嬰児連続殺害事件」では、高野愛の実母は未婚のまま3人の子どもを出産したものの、母親は常に子どもたちに高圧的な態度で罵詈雑言を長女であった愛は一身に受けて育つという虐待ともいえる過酷な幼少期を過ごしています。愛の妹は、愛が困難に陥ると「思考停止」してどんな状況でも受け入れ、従うと証言しています。
これが高野愛が過酷な環境を生き抜く、唯一の方法だったのかもしれません。
まとめ
犯罪者と聞くと、「悪い人」と一括りにしてしまいがちです。しかし、今回見てきたように、女性犯罪者の特徴を分析することで、彼女たちが犯罪に手を染めやすい傾向や、それを引き起こす条件や環境が明らかになりました。
もちろん、幼少期に虐待を受けたからといって、必ずしも犯罪者になるわけではありません。しかし、幼少期に受けた身体的・精神的な傷は、一生その人に影響を与え続けるものであり、場合によっては、犯罪の道に進むきっかけになり得ることを私たちは理解しなければなりません。
増え続ける児童虐待相談件数
実際、子ども家庭庁が発表した「令和4年度 自動虐待相談件数」は、過去最多の219,170件(速報値)に達しました。この数字が示すものは、虐待がどれほど深刻で広範な問題であるかを物語っています。
トー横キッズ、立ちんぼの問題
別の話題に、「トー横キッズ」や「立ちんぼ」のニュースを聞いたことがある方も少なくないと思います。
なぜ、彼女たちがそこに来なければならないのか、
なぜ、犯罪に手を染めてしまうのか。
筆者は初めてこのニュースを見た時に、「若者の非行」を取り上げている印象を持ちましたが、皆さんはどうでしょうか。
実際の問題を理解するため、彼女たちの支援活動をされていらっしゃる公益社団法人 日本駆け込み寺の方とお話しをさせていただいたことがあるのですが、あの場所に集まる彼女たちの多くが身体的、精神的虐待を経験しているというお話しを教えていただきました。
「トー横キッズ」のニュースを単なる「若者の非行」、「点」でしかなかったものが、全く異なるトピックの「女性犯罪者データ」を知ったことで、これらが全く別の話なのではなく、点と点がつながり線となって社会の闇に広がる問題であることが見えたように思いました。
なぜ、彼女たちがそこに来なければならないのか、
なぜ、犯罪に手を染めざるを得ないのか。
みなさんの見え方は、何か変わったでしょうか?
最後までお読みいただき、ありがとうございました!