最後のマスカラ #毎週ショートショートnote
「ウチもここまで、か……」
亜美はビルの屋上へ逃げ込んできていた。閉めた扉も内側からガンガンと殴られていて、長くはもちそうにない。
街中がゾンビで溢れた、あの最悪のパンデミックから命からがら生き残ってきた彼女も、もう限界が来ていた。ここが自分の死に場所だと悟った。
体中傷だらけの彼女は、残った体力をふり絞り、肩にかけた小さな鞄から、鏡と、探索中唯一手に入れられた化粧品のマスカラを取り出した。
「ギャルが、すっぴんで死ぬわけには、いかないっしょ」
彼女は、月明かりを鏡に反射させ顔を照らした。仲間たちとクラブで遊んでいたあの頃の自分とは、似ても似つかぬ姿に涙が零れ落ちそうになるが、ぐっとこらえて、マスカラをまつ毛に塗った。
「つけまもねーから、全然盛れねーじゃん……」
自虐交じりの笑いを上げながら、亜美は最後まで自分らしくいることを貫いた。
ドアの破られる音は、頭の中で流れるクラブミュージックでかき消されていた。
=======================
たらはかにさんの以下の企画に参加しております。
マスカラ=ギャルという短絡的発想から書いてみましたが、意外と気に入っています。頑張って生き残らせてあげたいとも思いましたが、410字くらいですぱっと終わらせるため、今回はあきらめました。無念!
自分なりのギャル偏見で書いているので、実際のギャルとは違うと思いますが、その辺はご容赦くださいw
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?