秋の空時計 #毎週ショートショートnote
「こら! 窓の外ばっかり見てないで、授業に集中!」
出席簿でバシッと頭を叩かれた俺は、「すみません」と頭を下げて、前を向き直した。もう一度、ちらりと窓の外に目をやると、宙に浮かぶ半透明の巨大な砂時計が時を刻み続けていた。
三年前の夏。ある日突然、その砂時計は姿を現した。当時は空前絶後の大騒動となり、付近に住む住民の避難や自衛隊の出動など、非日常の光景が繰り広げられた。
その後、砂時計の謎は、全ては解明されなかったものの、直ちに害はないとされて街には日常が戻った。今では、空時計と呼ばれるようになり、すっかり街に溶け込んでしまった。
授業が終わると、前の席に座る友人の葉子が話しかけてきた。
「まーた空時計見てたんでしょ。飽きないねぇ」
「見てるとさ、わかるんだよ」
「何が?」
「季節の変わり目」
いつもよりも透き通って見えるそれが、次の季節がやってきたことを告げていた。
「今年の夏は長かったねぇ」
「そうだな」
「冬が来たのもわかるの?」
「ああ、多分な」
「そのときは私にも教えてよ」
「覚えてたらな」
窓の外を見上げると、空時計は今も、ゆっくりと時を刻んでいた。
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たらはかにさんの以下の企画に参加しております。
なんとも素敵なお題でしたね! 空時計ってなんだろうとうーんと悩んだ結果、空に時計をそのまま浮かべちゃいました。空に巨大な何かが浮かんでいるというシチュエーションにはちょっと燃えるものがあります。
大きな事件は起きませんが、この世界の雰囲気を楽しんでいただけたら嬉しいです。
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