人生は旅”想いをメロディーにのせて②【ある女性ピアニストの演奏を聴いて】
①の続き。
コンサートホールに入ると彼女は二曲目を弾き始めた。
彼女の指からはメロディが波のように強弱をつけてつむぎ出される。大きな波、さざ波、しんとする瞬間。メロディが私の心にも波打ってくる。
緊張感と弛緩を繰り返す嵐のような曲、夢の中にいるような繊細な曲、がらりと変わってポップで明るい曲、去りゆく季節を惜しむ曲…彼女の織り成すメロディは曲ごとにくるくると表情を変えた。
合間に語られるのは彼女の想い。
コロナの時期にあったもどかしさや葛藤。
大学にピアノの講義を受けに行けず、リモートで講義を受けて画面越しに練習した日々。
ライブでの演奏がコロナでてきなくなり悩んだこと。
その中でも思考錯誤しながらリモートで演奏をしたりして掴んでいった「音楽には人を元気にする力がある」ということ。
一人でも自分のピアノのメロディで元気になってくれる人がいるならピアノを続けようと決めたこと。
彼女の言葉にはまっすぐな決意、メロディには彼女の気持ちが一つひとつ宿っている。
「想いをメロディにのせる」ってこういう事なんだ。。。
私は彼女の曲を聴きながらそれを体感していた。
上手か下手かよりも彼女がこの日まで妥協せずギリギリまで練習を重ねたり構成をチェックしつづけた事、練習や考えぬいた構成の元にある「この演奏を通して前に進む事を伝えたい」という熱い想いが曲のメロディに深みを与えているのだなとおもった。
彼女は言う。
「私はこれからもピアノを続けていきます」
「私も会場の皆さんも旅の途中です。どんな絶望のなかでも一緒に光がある方向に進んでいきましょう」
最後の曲はある作曲家が死ぬ前に書き残した「舟唄」という曲。
彼女はその曲を「終わりの曲」ではなく、これから始まる旅の「船出」の曲として弾いた。
「終わりは始まり」
そんな曲と共にコンサートは終わりを告げた。
私はこのコンサートで彼女自身の「船出」をする「決意」を見せて貰った。
彼女のストレートな優しさや強さ…想いが散りばめられた曲の数々。
それを私自身の体で心で感じられたのは本当にかけがえのない体験だった。
彼女が想いをメロディーにのせた曲…それは私の心にも確かに届いた。