お菓子とカフェとピアニスト
出合いや再会は思いも寄らないタイミングでやってくる…。
【お菓子のイベントでの出合い】
私の地元にあるカフェ。週末から週明にかけて毎週4日間営業されている。
私がここのカフェに入ったのは本当に偶然。たまたま通りかかったら営業中だったから。
その日はお昼をまだ食べてなかったし、なんとなく
「ランチを食べようかな…」
そう思って、お邪魔したこのカフェ。
かわいい雰囲気の女性店主が、注文したタコライスを用意してくれた。
タコライスの横には、辛さが調整出来るようにソースが別の器で添えられていた。
「辛さ調節できるのって、辛いのが苦手な人にとっては凄く優しい気遣いだな…」
そんな事を思いながら、遅めのランチを終えて会計を済ませて出ようとしたとき、
ふと目に止まった
あるお菓子専門カフェで開催されるイベントのポストカード。
そのイベントに惹かれた私はポストカードを手にとって持ち帰えることにした。
そして後日。
これもたまたま…、話の流れで知り合いにポストカードを見せる機会があった。
話をきいた知り合いは
「このイベントに行ってみたい」
と言い、「一緒に行こう」と誘ってくれた。
そのイベント会場は私の家から3分位歩いたところにある、お菓子専門カフェ。
そこの店主さんの友達が服飾デザイナーで、彼女の作る服の即売会イベントも兼ねているらしかった。
問い合わせてみると予約が必要だったので、さっそく予約していってみることにした。
そしてイベント当日。
知り合いとイベント会場のカフェに到着。
そこにはお菓子専門カフェの女性店主、彼女の友人の服飾デザイナー、そして私達の後に入ってきた女性だけだった。
後から入ってきた女性は、店の女性店主や服飾デザイナーと友人らしく、お喋りしたり、デザイナーの女性が作成した服を試着したりして楽しそうにしている。
私と知り合いは、案内されたお店の席に座ると、さっそく予約していたお菓子を注文。
運ばれてきたお菓子はとても可愛くてボリュームがある。
ウキウキとお菓子を食べている私に、
店の女性店主は
「どこでこのイベントを知られたんですか?」
と、声をかけてきた。
私はチラシカードが置いてあったカフェの名前を伝える。
…と、そこにいた女性が
「それ…わたしのお店です」
とびっくりしたように答えた。
そう。後から入ってきた女性は実は私がこのイベントのポストカードをもらって帰ったカフェの店主だったのだ。
その女性も私も、この話がでるまでお互いに全く気が付かなかったのだ。
私と彼女は偶然、同じイベント時間に居合わせたのだった。
【コーヒーとマフィンと日常雑貨】
そんな事があってから、
ポストカードがおいてあったカフェには、
たまにランチに行くようになった。
ある日はテイクアウト用にマフィンを買ったり、ある時はカフェに販売していた雑貨が気に入っていくつか買ったりした。
マフィンはきちんと作ってあって美味しかったし、買った雑貨はどれも使い心地がとても良かった。
そのお店で出されているコーヒーが、わたしが習い事をしている場所の近くにあるコーヒーショップの名前に似ていたので、そのコーヒーの取り扱い店を聞いてみると私の思っていたコーヒショップと同じところだとわかったこともあった。
何回かカフェにお邪魔するうちに、気がついたことがある。
落ち着ける店内の雰囲気、使い心地の良い雑貨、テイクアウトしたマフィンの美味しさやランチに出てくる料理のシンプルでキレイな盛付…、女性店主の優しいこだわりや小さな心遣い、素敵なセンスが随所に散りばめられている場所なんだな…。
そんな印象を持つようになった。
【ピアニストとの再会】
ある日、久しぶりにこのカフェに行くと、いつも見かけない女の子が一人店内で接客をしていた。
その女の子は私を席まで案内したあと、注文をきいてくれて、食事を運んで…と、その日の私の接客を全てしてくれた。
私は
「新しい人がアルバイトさんが入らはったのかな…」
くらいに軽く考えて、特にその女の子のことは気にしなかった。
そして帰り際はカフェの女性店主と少し話をして、カフェ後にした。
驚いたのは数日後。
私はそのカフェをInstagramでフォローしていて、たまに更新されてる記事をみる。
その日もカフェのストーリーズを何気なく見ているとふと目に飛び込んできたコメント。
「ピアノの決勝、頑張ってね。
応援してるよ」
カフェの店主のコメントと共に、ピアニストとして紹介されていたのは、この間接客をしてくれた女の子。
その子は3月上旬でカフェを卒業するとかかれている。
そのコメントを見て私が思い出したのは
今から1年前のある光景。
私はこのピアニストを知っている。
1年前に公共施設にあるホールでなんとなく惹かれて入った、その年に音大を卒業する女性ピアニストのリサイタル。
それは卒業リサイタルという名の
彼女の決意表明。
1曲1曲、その日のリサイタルのために選ばれた曲。
ホールに響くピアノのメロディー。
最初の曲から最後の曲まで彼女の想いが
沢山、たくさん込められていた。
この時期に思うように講演が出来なかったり、ピアノの講義が受けられなかったりした。
そんな状況の中迷い戸惑う中で
出来ることをすべてした。
そんな中で掴んだ想い。
「私はピアニストとして生きていく」
それは凛とした揺るぎない姿勢。
その姿は私の心に強く印象に残っていた。
全く気づけなかったけれど、
あの日、私を接客してくれた女の子は
そのピアニストの彼女だった。
1年前に強い意志を観客に伝えていた彼女。
1年後に思いがけず、ピアニストとして活動している姿を見ることになるなんて…。
あのときの決意表明通りに
ピアノにまっすぐ向き合って生きている。
彼女がとてもとても眩しかった。
迷いなくまっすぐ凛とした姿勢。
そしてきっとこれからも。
いつか、あのカフェに行ったとき、彼女のピアノ演奏曲が流れてる…
そんな日がくるのかもしれない。