【耳鼻科医解説】気道の修羅場を乗り越える切り札 気管切開と輪状甲状靭帯アプローチのイイトコドリ術式
気道の修羅場を越える新しい切り札 ~気管切開・輪状甲状靭帯切開のイイトコドリ~ - Dr.'s Prime Academia(ドクターズプライムアカデミア)
上記の講義を文章化し、解説を深めていきます。
今後も更新していく予定です。更新時は購入された方に通知が届くはずです。
リクエストに応えて、シンプルな気管切開の準備から実際のコツまで、2講義を合わせて、一気に書き上げた記事が下記リンクです。是非ご覧ください。
【耳鼻科医解説】気道の修羅場を乗り越える基本のキ 気管切開を安全、スマートにこなすための準備と実践|笹目倫太郎
もう一つは、気道確保後から抜去まで見据えたカニューレ選択から管理の記事です。リクエストに応えて行った2つの講義の記事です。是非、ご覧ください。
【耳鼻科医解説】気道の合併症を減らすための気管切開孔管理 カニューレ選択・交換から閉鎖まで|笹目倫太郎
それではまいりましょう。
外科的気道確保の王道、気管切開。
習熟すれば、迅速に、安全に気道を確保できる手技です。
しかし、この気管切開を難しくする状況に、たまに遭遇します。
気管切開の邪魔モノたち
・大きい甲状腺:バセドウ病や甲状腺腫瘍(特に未分化癌)では気管への到達が難しい。傷をつければ止め難い出血が起きます。そして左右差によって気管が小さいほうに偏倚します。どんな方でも、常に気管の位置を確認し続けることが大事ですが、術前から偏倚していることがわかっている方、予想される方は特に注意が必要です。気管の横に入ってしまうと、頸動脈、経静脈、迷走神経がいます。
・高齢:気管軟骨が硬化します。CTで見ると、吸収値が上がっているのがわかります。メスの刃が立たないこともあり、メッツェンバウムを使用しますが、それでもダメな場合、止む無くクーパーを使用することもあります。今のところクーパーで断てなかったことはありませんが、ダメだったときは丸ノミ鉗子・スタンツェなどを使うことになると思います。軟骨間膜は切れるので、めちゃくちゃ焦るという状況ではありませんので、心を落ち着けて、必要であれば止血をして、必要な道具を集めてください。ただし、高濃度酸素が流れている状態でエナジーデバイスを使うと下気道が燃えますので、挿管したり、マスクで揉んだりしている場合は何を流しているか気を付けてください。
・肥満:皮下脂肪が厚いから気管に到達しづらいというだけではありません。それより、脂肪によって気管が後方に押されていることが問題です。それによって頸部皮膚との成す角度がついてしまいます。下位になればなるほど気管が深くなり、理想の気管切開位置を確保するのが難しいことが少なくありません。また、気管切開ができても、カニューレのカーブと合わず、致死率の高い術後の気管腕頭動脈瘻につながる可能性が高くなります。極端な肥満の場合、そもそもカニューレが届かない可能性もあります。そういう場合は、アジャスタブルチューブを用いることになります。通常のカニューレでは角度が作りづらく、カニューレの誤挿入が起きやすいですが、挿管チューブにフランジがついていて、フランジの位置を動かすことによって、長さを調整できるカニューレです。ただし、単管しかないので、痰詰まりには注意が必要です。
・喉頭低位/短頸:こちらは解剖的に喉頭が低い場合です。胸骨や鎖骨が邪魔になって、理想的な位置に気管切開をおけない場合があります。今までは高位気管切開を置くことになっていましたが、肉芽のせいで抜管困難になることも少なくありません。
・腕頭動脈高位:読んで字のごとく、腕頭動脈が高い位置にあり、理想的な位置に気管切開をおけないだけならまだしも、術中の大出血につながります。今までは高位気管切開を置くことになっていましたが、肉芽のせいで抜管困難になることも少なくありませんし、前述の致死率の高い術後の気管腕頭動脈瘻につながる可能性が高くなります。
前述の高位気管切開すらできない場合、輪状甲状靭帯穿刺/切開を行います。肉芽ができる確率は上がりますが、緊急時はとりあえずそこを乗り切るのが大事です。
輪状甲状靭帯アプローチの邪魔モノたち
さて、輪状甲状靭帯アプローチにおいては以下が問題になります。
・皮下/食道への誤挿入:ここ、とにかく狭いんです。図をみると、そこそこのスペースがありそうですが、角度がついており、その角度に個人差が大きいのです。しかも触診でこの角度は図り切れず、直接見ないとわかりません。そして狭いところに突っ込むので行きすぎます。
・甲状腺錐体葉/輪状甲状枝:さらにこの2つが気道への到達を邪魔します。輪状甲状靭帯の前方を通る構造物です。傷つけると両方出血します。術野が狭いので、すぐに真っ赤になります。
・高齢:前述と同様ですが、軟骨の柔軟性が失われていきます。余計に入りづらいのです。
そんなわけで、皮膚を切開するのが個人的にはおすすめですが、切開キットの手順から外れてしまうため、自己責任になります。
新術式
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