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「周知技術」とは?

「周知技術」について勉強する機会があったので、その内容を簡単にまとめておきます。


審査基準の記載(第Ⅲ部第2節第2節 進歩性)

「周知技術」とは、その技術分野において一般的に知られている技術であって、例えば、以下のようなものをいう。

  1. その技術に関し、相当多数の刊行物(「第3節 新規性・進歩性の審査の進め方」の3.1.1参照)又はウェブページ等(「第3節 新規性・進歩性の審査の進め方」の3.1.2参照))(以下この章において「刊行物等」という。)が存在しているもの

  2. 業界に知れ渡っているもの

  3. その技術分野において、例示する必要がない程よく知られているもの

なお、周知技術であって、かつ、よく用いられている技術は「慣用技術」をされている。

審査官が認定した周知技術は、本当に「周知技術」なのか?

審査官が周知例として挙げた文献を丁寧に確認して、審査官が認定した周知技術が、これらの文献に本当に記載されているか(上位概念化されていないか)を確認すると、反論の余地があるかもしれない。

例えば、以下のように、審決取消訴訟で周知技術の認定が否定されている裁判例がある。以下のような考え方は、参考になると思われる。

(1)知財高判平成24年1月31日(平成23(行ケ)10121)

引用発明の技術内容は、引用文献の記載を基礎として、客観的かつ具体的に認定されるべきであり、抽象化・一般化・上位概念化することは許されないという原則を示したうえで、当業者の技術常識や周知技術の認定においても同様である旨を判示した。

当該発明が,発明の進歩性を有しないこと(すなわち,容易に発明をすることができたこと)を立証するに当たっては,公平かつ客観的な立証を担保する観点から,次のような論証が求められる。すなわち,当該発明と,これに最も近似する公知発明(主引用発明)とを対比した上,当該発明の引用発明との相違点に係る技術的構成を確定させ,次いで,主たる引用発明から出発して,これに他の公知技術(副引用発明)を組み合わせることによって,当該発明の相違点に係る技術的構成に至ることが容易であるとの立証を尽くしたといえるか否かによって,判断をすることが実務上行われている。
この場合に,主引用発明及び副引用発明の技術内容は,引用文献の記載を基礎として,客観的かつ具体的に認定・確定されるべきであって,引用文献に記載された技術内容を抽象化したり,一般化したり,上位概念化したりすることは,恣意的な判断を容れるおそれが生じるため,許されないものといえる。そのような評価は,当該発明の容易想到性の有無を判断する最終過程において,総合的な価値判断をする際に,はじめて許容される余地があるというべきである。
ところで,当業者の技術常識ないし周知技術についても,主張,立証をすることなく当然の前提とされるものではなく,裁判手続(審査,審判手続も含む。)において,証されることにより,初めて判断の基礎とされる。他方,当業者の技術常識ないし周知技術は,必ずしも,常に特定の引用文献に記載されているわけではないため,立証に困難を伴う場合は,少なくない。しかし,当業者の技術常識ないし周知技術の主張,立証に当たっては,そのような困難な実情が存在するからといって,①当業者の技術常識ないし周知技術の認定,確定に当たって,特定の引用文献の具体的な記載から離れて,抽象化,一般化ないし上位概念化をすることが,当然に許容されるわけではなく,また,②特定の公知文献に記載されている公知技術について,主張,立証を尽くすことなく,当業者の技術常識ないし周知技術であるかのように扱うことが,当然に許容されるわけではなく,さらに,③主引用発明に副引用発明を組み合わせることによって,当該発明の相違点に係る技術的構成に到達することが容易であるか否という上記の判断構造を省略して,容易であるとの結論を導くことが,当然に許容されるわけではないことはいうまでもない。

知財高判平成24年1月31日(平成23(行ケ)10121)

(2)知財高判平成29年7月4日(平成28(行ケ)10220)

審決は、「インターネットを介してアクセス可能なサーバで提供される給与計算システムにおいて、従業員の携帯端末から従業員情報を入力させる構成は、周知例2及び引用発明の背景技術である甲7のほか、乙9や乙10にも開示されている」と認定した。また、引用発明と周知例2は同一の技術分野に属するものであり、本願発明と引用発明とは、給与計算システムにおける自明の課題が共通しておりうなどとして、引用発明に周知技術を適用する阻害要因はないと判断した。

これに対して、裁判所は、周知例2等には、審決が認定した周知技術は開示されていないと判断し、周知例2等を上位概念化した認定であることを指摘している。

以上のとおり,周知例2,甲7,乙9及び乙10には,「従業員の給与支払機能を提供するアプリケーションサーバを有するシステムにおいて,企業の給与締め日や給与支給日等を含む企業情報及び従業員情報を入力可能な利用企業端末のほかに,①従業員の取引金融機関,口座,メールアドレス及び支給日前希望日払いの要求情報(周知例2),②従業員の勤怠データ(甲7),③従業員の出勤時間及び退勤時間の情報(乙9)及び④従業員の勤怠情報(例えば,出社の時間,退社の時間,有給休暇等)(乙10)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」が開示されていることは認められるが,これらを上位概念化した「上記利用企業端末のほかに,およそ従業員に関連する情報(従業員情報)全般の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」や,「上記利用企業端末のほかに,従業員入力情報(扶養者情報)の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えること」が開示されているものではなく,それを示唆するものもない
したがって,周知例2,甲7,乙9及び乙10から,本件審決が認定した周知技術を認めることはできない。また,かかる周知技術の存在を前提として,本件審決が認定判断するように,「従業員にどの従業員情報を従業員端末を用いて入力させるかは,当業者が適宜選択すべき設計的事項である」とも認められない。

知財高判平成29年7月4日(平成28(行ケ)10220)

(3)知財高判令和2年3月19日(令和元(行ケ)10100)

審決は、引用文献4、5、乙6の3、さらに引用文献6により、本件技術(半導体発光素子の技術において、その駆動電圧を低くするという課題を解決するために、AlGaN層のAlの比率を傾斜させた組成傾斜層を採用すること)が周知技術であると判断した。

これに対して、裁判所は、引用文献4から6に記載された発光素子は、いずれもAlGaN層またはAlGaAs層を組成傾斜層とするものであることは認めつつも、それそれの素性傾斜層の技術は、それぞれの素子を構成する特定の半導体積層体構造の一部として、異なる技術的意義のもとに採用されているとして、審決の判断を否定した。

以上のとおり,引用文献4から6に記載された発光素子は,いずれもAlGaN層又はAlGaAs層を組成傾斜層とするものであるが,引用文献4では緩衝層及び活性層における結晶格子歪の緩和を目的として緩衝層に隣接するガイド層を組成傾斜層とし,引用文献5では,隣接する2つの層(コンタクト層及びクラッド層)の間のヘテロギャップの低減を目的として当該2つの層自体を組成傾斜層とし,引用文献6では,隣接する2つの半導体層の間のヘテロギャップの低減を目的として2つの層の間に新たに組成傾斜層を設けるものである。このように,被告が指摘する引用文献4から6において,組成傾斜層の技術は,それぞれの素子を構成する特定の半導体積層体構造の一部として,異なる技術的意義のもとに採用されているといえるから,各引用文献に記載された事項から,半導体積層体構造や技術的意義を捨象し上位概念化して,半導体発光素子の技術分野において,その駆動電圧を低くするという課題を解決するために,AlGaN層のAlの比率を傾斜させた組成傾斜層を採用すること(本件技術)を導くことは,後知恵に基づく議論といわざるを得ず,これを周知の技術的事項であると認めることはできない

知財高判令和2年3月19日(令和元(行ケ)10100)


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