AI関連発明を出願する際の注意事項
AI関連発明を出願する際の注意事項について、AI発明の種類ごとにまとめておきます。
1.AIコア発明
ニューラルネットワーク、深層学習、サポートベクタマシン、強化学習等を含む各種機械学習技術のほか、知識ベースモデルやファジィ論理など、AIの基礎となる数学的または統計的な情報処理技術に特徴を有する発明
基本的には、ソフトウェア発明と同じと考えてよい。
詳細は、ソフトウェア発明に関する審査基準を参照する。
2.学習データ生成に関する発明
生データを加工して多数の学習データを生成する技術や、アノテーションに関する技術に特徴を有する発明
①教師データの内容と②機械学習の内容となるAIを特定し、発明の課題を解決するための手段をクレームに反映させて、サポート要件を満たす記載にする。
クレームを広げようとして教師データや機械学習の内容となるAIをぼやかすと、課題を解決するための手段が反映されていないとして、サポート要件を満たさないと判断される恐れがある。
学習データ(教師データ)そのものは、発明該当性が認められない。
教師データそのものは、単なる情報の提示であるため(29条1項柱書)。
3.AI適用発明
画像処理、音声処理、自然言語処理、機器制御・ロボティクス、診断・検知・予測・最適化システム等の各種技術にAIを適用した発明
記載要件
AIによって実現できることを示す裏付けとして、教師データに含まれる複数種類のデータの間に相関関係があることを説明する必要がある。相関関係の説明がない場合には、記載要件(サポート要件・実施可能要件)を満たさないと判断される可能性がある。
出願時の技術常識からデータ間の相関関係が推認できる場合には、相関関係を明細書で説明しなくても記載要件は満たすと判断される可能性がある。ただしこの場合は、進歩性が認められない可能性が高い。
データ間に相関関係があることが技術常識でない場合には、相関関係の説明がなくても、明細書内の説明や統計情報、本発明を用いることで精度よく予測・推定できるという実験例(AIの性能評価結果)によって相関関係を裏付けできれば、記載要件を満たすと判断される。
進歩性
人間が行なっていた業務を、単純にAIを用いたシステムとするだけでは、進歩性が否定される。
学習データに用いる教師データの変更が既知のデータの組み合わせであり、顕著な効果が認められない場合には、進歩性が否定される。
学習に用いる教師データを追加することで、顕著な効果が認められる場合には、進歩性が肯定される場合がある。
学習データに対する前処理によって、進歩性が肯定される場合がある。
侵害立証性
侵害を立証しやすいように、第三者からは確認できない処理(例えば機械学習処理)を構成要素に入れない。
例えば、学習フェーズと推認フェーズは別発明(異なるクレーム)とする。
4.マテリアルズ・インフォマティクス(MI)
AIによりある機能を持つ(特定の効果がある)と推定された物の発明
AIによりある機能を持つと推定されていることだけでは、記載要件を満たしていないとは判断されない。
①実際に製造した物の評価が明細書等に記載されている、②AIの示す予測値の予測精度が明細書等で検証されている、③AIによる予測結果が実際に製造した物の評価に代わり得るとの技術常識が出願時にあった、のいずれかの事情が認められれば、記載要件を満たすと判断される余地はある。
実際に製造・検証できた物であれば、MIを用いて予測したことまでを明細書に記載する必要性は低いと考えられる。権利化できる範囲の見極めが必要。
5.学習済みモデルの発明
コンピュータに対し、所定の入力に基づいて所定の出力をさせる学習済みモデルの発明。
学習済みモデルが、コンピュータに対する指令(プログラム)である場合には、発明に該当する。
単なるデータである場合には、発明該当性が認められない。