他者特許との抵触判断の場面において、均等侵害を検討する必要が生じることがあります。均等論に関する考え方をまとめておきます。
なお、侵害判断に関する基本編については、こちらをご参照ください。
均等侵害の概要
均等侵害とは
特許発明の技術的範囲を、特許請求の範囲との文言的意味での同一ではなく、法的観点から同一とみることができる範囲まで拡張する概念。
趣旨
特許発明の実施に該当するためには、対象製品が特許発明の構成要件すべてを充足する必要があるところ、対象製品等と特許発明の構成要件に相違点がある場合には、技術的範囲に属さない(特許法70条)。
しかし、特許出願の際に、将来のあらゆる侵害態様を予想して特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、特許発明の一部を置き換えることで権利行使を免れることができるとすれば、発明の保護・奨励を通じて産業の発達に寄与するという法目的(1条)に反し、衡平の理念にもとる結果となる。
そこで、法的観点から同一とみることができる範囲(均等物)についても、技術的範囲に属すると扱う。
判断基準
特許請求の範囲に記載された構成中に、対象製品等と異なる部分があっても、以下の1~5の要件を満たすときは、対象製品等は特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解される。
異なる部分が、特許発明の本質的部分でないこと(非本質的部分)
異なる部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、かつ、同一の作用効果を奏するものであること(置換可能性)
異なる部分を対象製品におけるものと置き換えることに、当業者が対象製品等の製造時点において、容易に想到することができたものであること(置換容易性)
対象製品等が、特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が出願時に容易に推考できたものでないこと(公知技術からの非容易推考性)
特許製品等が、特許発明の出願手続きにおいて特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がないこと(意識的除外等の不存在)
第1要件(非本質的要素)
異なる部分が、特許発明の本質的部分でないこと
「本質的部分」とは
置換された対象製品が特許発明の技術的思想の範囲内にあるかを問い、それが肯定される(=技術的思想の範囲内)のであれば、置換された部分は非本質的部分であったことになり、否定される(=技術的思想の範囲外)のであれば、置換された部分は本質的部分であったとされる。(技術的思想説)
「本質的部分」の判断
特許発明における課題の解決原理を認定する。
ここでの認定資料は、まずは①明細書の記載(特に、従来技術との比較)、明細書の記載が出願時の従来技術の記載に照らして客観的に見て不十分なときは②公知技術となる(明細書に記載されていない従来技術が参酌される)。
特許発明の構成と対象製品等との相違点を明らかにする。
当該相違点が、1で認定した課題の解決原理と抵触するか否かを判断する。抵触しなければ第1要件を充足し(=相違点は、発明の技術的思想の範囲外であり、本質的部分ではない)、抵触すれば第1要件を充足しない(=相違点は、特許発明の技術的思想の範囲内であり、本質的部分である)と判断する。
第2要件(置換可能性)
異なる部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、かつ、同一の作用効果を奏するものであること
作用効果の同一性
特許発明が従来技術の問題点を解決すべき課題として解決したものを、対象製品等も解決して特許発明の目的を達することができ同一の作用効果を奏すること
第3要件(置換容易性)
異なる部分を対象製品におけるものと置き換えることに、当業者が対象製品等の製造時点において、容易に想到することができたものであること
判断基準時
侵害時点(対象製品等の製造時点)
特許出願の際に、将来のあらゆる侵害態様を予測して特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方がその一部を特許出願後明らかになった物質等に置き換えることによって特許権者の権利行使を免れることは衡平に反する。
第4要件(公知技術からの非容易推考性)
対象製品等が、特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が出願時に容易に推考できたものでないこと
第4要件の趣旨
特許発明の出願時において新規性・進歩性がない技術については、何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから、特許発明の技術的範囲に属するということはできない。
第5要件(意識的除外等の不存在)
特許製品等が、特許発明の出願手続きにおいて特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がないこと
包袋禁反言と意識的除外の違い
意識的除外等に該当する場合
特許請求の範囲を補正・訂正して減縮された発明(クレーム外となった発明)
出願過程や審判手続きで提出した書面において、技術的範囲に属しないことを認めた発明
出願時にその存在が知られていた他の材料を含むように当初から上位概念でクレームを記載することが容易にできたにもかかわらず、出願時にそうしなかった場合は、原則として意識的除外等に当たらない。
ただし、出願人が、出願時に、クレーム外の他の構成を代替するものとして認識していたものと客観的・外形的にみて認められる場合(例:明細書内や、出願人が出願当時に公表した論文等に、他の構成等による発明を記載している場合)には、意識的除外等に当たるとされる。
主張・立証責任