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他社製品・サービスに関連する特許の調査を依頼されたら?

開発部門や事業部門から、「ある会社が保有している特許を調べてほしい」とか「○○という製品に関連する特許を調査してほしい」という依頼を受けることがあります。このような依頼を受けたときの調査方法や気をつけていることについて、まとめておきます。


0.はじめに

まずは、依頼者(依頼部門)が把握している情報を確認して、調査内容と目的を把握します。そのうえで、スケジュール(納期)を確認します。

(1)対象企業・対象製品を把握する

最初にすべきことは、調査対象となる企業や製品をしっかり把握することです。まずは、依頼部門で把握している、調査の参考になりそうな情報を共有してもらいます。例えば、会社ホームページ、製品の概要(パンフレット)などです。
後で自分で調べることもできますが、すでに依頼部門で把握しているのであれば、それを共有してもらえれば手間を軽減できますし、同名の会社を勘違いしてしまうことなどを防げます。

私は、些細な情報でもいいので、できるだけ最初に情報を集めておくようにしています。使わないこともありますが、後で何らかのヒントになって、調査が楽になることがあるためです。もちろん、調査の途中で依頼部門に確認したり、追加情報を送ってもらうこともできますが、最初の相談時にはお互いに手探り状態だったりするので、遠慮せずに聞きやすいことが多いです。

(2)調査の目的を確認する

なぜその会社・製品の特許情報を知りたいのかを、あわせて確認しておきます。例えば、以下のような状況では、探すべき内容や粒度が変わってくるためです。

  • 展示会でたまたま見つけて製品の紹介を受けたが、詳細までは教えてもらえなかった。ブースやパンフレットに「特許出願中」という記載があったので、何かヒントになればと思った。

  • 商談に行った際に、顧客から競合情報として紹介を受けた。この製品の詳細を把握して、当社製品との差別化を図る必要がある。

ざっくり把握できれば十分という段階なら、パンフレットに公開番号が記載されていることを見つければ、単なる番号検索だけの数秒の調査で済むかもしれません。

(3)スケジュール(納期)を確認する

あとは、スケジュール(納期)を確認します。例えば、1週間後に先方と商談があるので、それまでにざっくりでもいいので情報を頭に入れておきたいなどです。この場合には、1週間後に100%の調査結果を出すよりも、なるべく早いタイミングで50%の調査結果を出すほうが喜ばれるかもしれません。
そのスケジュールにあわせるように、対応できる範囲で、調査していくことになります。

1.会社に着目する

会社が特定できているのであれば、まず、その会社の出願状況を確認してみるのが手っ取り早いと思います。調査データベースの「出願人・権利者」というコマンドを使えば、その会社が出願人または権利者となっている出願を抽出できます。

例えば、出願件数が数十件程度の企業であれば、検索式を作るのに悩んだり時間をかけるよりも、すべての出願をチェックするほうが早いかもしれません。また、出願件数がそれなりにある場合でも、調査対象とは異なる分野の出願を除外するように、IPCなどでざっくり限定するだけでもいいかもしれません。

(1)関連度の高い出願を特定できればOKと割り切る

社名による調査だけで、関連する出願をすべて抽出するのは難しいと思います。ここでは、「関連度の高い出願をいくつか特定して、この後の調査のヒントを得る」と考えて、いくつかの方法を組み合わせて考えるほうがよいと思います。
例えば、「出願人・権利者」のコマンドでは、当該公報が発行された後に、権利移転によって取得した出願は抽出できないなどの事情があるためです。

(2)関連会社があるか?

関連会社の有無(親会社、子会社)にも注意が必要です。
その会社名で出願せずに、親会社名で出願していたり、子会社名で出願していたりするケースがあります。対象企業のホームページを見れば、関連会社の有無を確認できるので、あわせて確認しておくとよいと思います。

(3)過去に社名変更があるか?

過去に社名変更がある場合には、新社名で検索したときに、旧社名時代の出願・登録がヒットするとは限りません。別途、旧社名についても確認しておくほうがよいと思います。

2.人(発明者)に着目する

会社だけでの調査に加えて、人(発明者)に着目することで、関連出願を特定できる場合があります。

(1)代表者

スタートアップ企業などの場合には、会社設立前などに、代表者が個人で出願している場合があります。こういう場合には、代表者についても「出願人・権利者」や「発明者」で確認してみるとよいでしょう。

ただし、発明者名だけでの検索では、同姓同名などのノイズを含むことに気をつけておきましょう。ホームページなどで詳細な経歴が開示されていれば、技術分野や企業(出願人)を絞り込めることもありますが、同姓同名なのか、前職時代の出願なのかを区別するのは、なかなか難しいように思います。

(2)役員

代表者が技術を有しているとか限りませんので、役員、特にCTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)などのコアメンバーについても確認してみるとよいと思います。この場合には、「出願人・権利者」よりも「発明者」のほうがいいかもしれません。
役員についての調査は、調査目的に応じて優先順位を決めて対応すれば十分だと思います。例えば、銀行出身の財務担当役員が、対象製品に関する特許出願に関わっていたり、個人で権利を保有している可能性は低いと思います。

3.技術に着目する

目的によっては1・2で十分な場合もありますが、ここまでに見つけた出願を参考にして、その他の出願を探します。
調査観点の考え方については、私は、以下のように考えることが多いです。

(1)その製品・サービスの売りは何か?

まず「その製品・サービスの売りになる部分はどこか?」を中心に考えます。売りになる部分は、絶対に他社には真似されたくないはずで、特許でカバーしておく必要性が高いからです。中小規模の会社が調査対象であれば、出願費用の関係で無駄な出願はできるだけ避けて、本当に必要な出願だけに絞っているかもしれません。

具体的には、製品パンフレットやWebサイトなどから、その製品の売りや技術的に優れている部分を確認します。自社ホームページだけでなく、製品名などでもWeb検索して、紹介記事や広告記事などがあれば目を通します。
そして、自分がその会社の知財担当者になったつもりで、「この売りを保護するためにどんな出願をするか?」を考えます。この出願に向けた先行技術調査をするつもりで調査すれば、この会社の出願がヒットすることになると思います。

(2)どこまで調査するか?

売りが分かりにくかったり(あるいは複数あったり)、漠然とした説明しか見つけられなかったりすると、調査範囲を絞れないことがあります。この場合には、調査目的(依頼部門がどのような情報を求めているのか)やスケジュール(納期)によって、調査方針を設定します
どうせ何らかの調査はしないといけないのですが、どの順番でどこまでやるかを、対応できる時間との関係で決めてしまい、優先度の低い部分は見送ります(必要であれば、納期を延長したり、追加調査で対応すればよいのです)。

例えば、事業部門としては、「対象製品に対応する特許は、これとこれである可能性が高い」と特定してほしいケースもあれば、「このあたりが関連するかもしれない」とざっくりな内容でも十分な場合もあります。最初に目的を確認しておけば、どのレベルで報告すればよいのかも想像がつきます。
そうすれば、優先順位の高い母集団だけをまずチェックして先行報告したり、母集団を渡してスクリーニングは依頼部門に任せたり、など、柔軟に対応することもできると思います。

こういった調査の場合には、実際に手を動かしてみないとわからないことがあるので、依頼部門とコミュニケーションをとりながら、お互いにとっての「いい調査」を探っていくのがよいと思います。

4.注意点

上記のいずれでも見つからなかった場合には、①そもそも出願されていなかった、②まだ出願が公開されていない、③調査力不足のせいで見つけられなかった、3つの可能性があることに留意しておきます。

このうち、②・③のパターンでうっかりしてしまうことのないように、念のため下記を確認しておくことをお勧めします。

(1)公開前でも、登録公報が発行されているケースがある

みなさんご存知の通り、特許出願が公開されるまでには、1年半という期間があります。そのため、この期間中の出願を見つけることはできません。
しかし、出願から1年半経たない期間であっても、早期審査によって登録になれば、公開公報が発行される前に特許公報が発行されます。調査の際に、公開公報のみを対象にしていないか、念のため確認しておきましょう。特許公報・公開公報の両方を対象に調査していれば、心配する必要はありません。

(2)PCT出願を行なっているケースに要注意

国内出願の後に、その出願を基礎として日本国を含むPCT出願とした場合(いわゆる「自己指定あり」の場合)には、国内の調査だけではヒットしないことがあります。先の出願は取り下げ擬制となるため公開されず、後の出願は国際公開によって公開されるため、日本の公開公報とは異なる取り扱いとなるためです。
PCT出願の可能性が考えられる場合には、国際公開についても、調査範囲を広げるようにしましょう。

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