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拒絶理由通知で進歩性が否定された場合の考え方|容易の容易

拒絶理由通知で最も多いのは、進歩性欠如(特許法29条2項違反)だと思います。実務では時々耳にする「容易の容易」を知っておくと、万能とまでは言えませんが、反論する際の一つのヒント(考え方の指針)にはなるかと思います。
ここでは、「容易の容易」に関する考え方と、意見書での反論方法などをまとめておきます。


「容易の容易」とは

主引用発明Aに対して副引用発明Bを適用し、さらに他の副引用発明Cや周知技術などを適用して副引用発明Bの構成を変更する場合には、「容易の容易」と呼ばれます。
「容易の容易は、容易ではない」などと言われ、このような場合には、動機付けを否定できる(=進歩性が認められる)傾向にあると言われます。

「容易の容易」の考え方

「容易の容易」が進歩性ありとされるのは、あくまで実務上でそのように判断される傾向があるに過ぎず、審査基準などで進歩性を肯定する事情と明記されているものではありません。そのため、容易の容易を主張したからといって、必ず進歩性が認められるわけではない点に留意しましょう。
つまり、単に「容易の容易にあたるから進歩性がある」と考えるのではなく、主引用発明に対して、副引用発明Bや周知技術等を適用することが2段階の創作を経るものと考えたうえで、そのように引用文献や周知技術を適用する動機付けがないことや、このような創作過程において阻害要因があることなど、できるだけ審査基準に沿った主張となるように整理すべきだと思います。

「容易の容易」が認められた裁判例を、参考として3つご紹介します。

シェルの上部に空気抜き孔を形成するという周知技術3は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,そのような状態においてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり,この課題を解決するための手段である。引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示されておらず,よって,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識することは考え難い。当業者は,前記のとおり引用発明1に周知例2に開示された構成を適用して「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」という構成を想到し,同構成について上記課題を認識し,周知技術3の適用を考えるものということができるが,これはいわゆる「容易の容易」に当たるから,周知技術3の適用をもって相違点2に係る本件発明の構成のうち,「前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成」する構成の容易想到性を認めることはできない

知財高判平成28年8月10日(平底幅広浚渫用グラブバケット事件)

引用発明Aに引用例3事項を適用しても,相違点2に係る本件訂正発明8の構成に至らないところ,さらに周知技術を考慮して引用例3事項を変更することには格別の努力が必要であるし,後記(ウ)のとおり,引用例3事項を適用するに当たり,これを変更する動機付けも認められない。主引用発明に副引用発明を適用するに当たり,当該副引用発明の構成を変更することは,通常容易なものではなく,仮にそのように容易想到性を判断する際には,副引用発明の構成を変更することの動機付けについて慎重に検討すべきであるから,本件審決の上記判断は,直ちに採用できるものではない。

知財高判平成29年10月3日(盗難防止タグ事件)

仮に,当業者において,摩擦具9を筆記具の後部ないしキャップに装着す
ることを想到し得たとしても,前記エのとおり引用発明1に引用発明2を組み合わせて「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ,摩擦熱により筆記時の有色のインキの筆跡を消色させる摩擦体」を筆記具と共に提供することを想到した上で,これを基準に摩擦体(摩擦具9)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又はキャップに装着することを想到し,相違点5に係る本件発明1の構成に至ることとなる。このように,引用発明1に基づき,2つの段階を経て相違点5に係る本件発明1の構成に至ることは,格別な努力を要するものといえ,当業者にとって容易であったということはできない。

知財高判平成29年3月21日(摩擦熱変色性筆記具事件)

なお、副引用発明Bの構成を変更して主引用発明Aに適用するすべての場合が「容易の容易」にあたるとは限りません。審査基準においては、主引用発明に副引用発明を適用する際に設計変更を行いつつ適用する場合には、動機付けが認められる(=進歩性が否定される)点に留意すべきです。

(注1)当業者の通常の創作能力の発揮である設計変更等(3.1.2(1)参照)は、副引用発明を主引用発明に適用する際にも考慮される。よって、主引用発明に副引用発明を適用する際に、設計変更等を行いつつ、その適用をしたとすれば、請求項に係る発明に到達する場合も含まれる。

『特許・実用新案 審査基準』第III部第2章第2節 進歩性 3.1.1

これらをまとめると、設計変更に過ぎないのか/容易の容易に当たるのかは、下記のように区別するとよいのかもしれません。

  • 主引用発明に対して、副引用発明を適用するための改良(=設計変更)

  • 主引用発明に副引用発明を適用した後に生じた課題(新たな課題)を解決するための改良(=容易の容易)

実務での対応

「容易の容易」は容易ではない(=進歩性あり)と判断される傾向にあることから、進歩性を主張する立場/否定する立場では、それぞれ以下のように主張することが考えられます。

(1)発明発掘の場面

発明者から、従来技術Aに対して、同じ技術分野における他の従来技術Bを適用したというアイデアが提案されることがあります。この場合には、単に同じ技術分野における従来技術の組み合わせと考えてしまうのではなく、適用の際に何らかの工夫があったのではないかと考えて深掘りすることが重要です。
このときに、従来技術を組み合わせたことによって生じた新たな課題を解決するものと言えないかという観点を持っていれば、その工夫が、単なる設計変更ではなく、発明の特徴につながる可能性があると考えます。

(2)中間対応の場面

「容易の容易」にあたることを主張することで、審査官に進歩性を認めてもらう(動機付けを否定する)ことが考えられます。
私は、中間対応における意見書では、上述した裁判例を参考に、以下のような主張を展開することが多いです。

本願発明における「…」という構成に至るためには、まず引用発明1と引用発明2を組み合わせて「…」という構成を想到し、この構成について「…」という課題を認識したうえで、この新たな課題を解決するための構成を備えた引用発明3の適用を考えることになります。これは、引用発明1に基づいて2つの段階を経て本願発明の構成に至るものですから、本願発明の構成を想到するためには格別な努力を要するものであり、たとえ当業者といえども、容易に想到することはできないと思料いたします。
特に、引用発明2では、引用発明2の課題である「…」を解決するための手段として「…」を備えています。そのため、この構成に対して引用発明3を適用する動機付けがなく、さらに引用発明2の目的に反することから阻害要因にあたると思料いたします。

(3)進歩性を否定する場面

無効審判請求人などの立場で進歩性を否定する場合には、「容易の容易」について進歩性を争うのではなく、「容易の容易」には該当しないことを主張し、争うのがよいと思われます。
具体的には、上述した審査基準を念頭におき、「主引用発明に副引用発明を適用する際に、設計変更等を行いつつ、その適用をしたに過ぎない」との主張が考えられます。

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