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【第10章】 エイヤ! 〜後編〜 【完結】

第1章『 夢現神社 〜前編〜 』
前話 『 エイヤ! 〜前編〜 』

「ちょ、ちょっと待って!! 待ってよ、真紀子!!」
 真紀子のあとを追いかけながら、
「なんで夢現神社を知ってるの? なんで真紀子も木札を持ってるの?」
 大声で問いかけるも、真紀子は一心不乱に逃げる。

「私、もう恨んでないから話そうよ! ねえ、真紀子!!」
 息切れしながら必死に呼びかける私に、
「アンタなんかと話すこと無い! 追いかけてこないでよ!!」
 強い口調で返してくる、真紀子。

 無性に腹が立ち、走るのにも限界だった私は、
「真紀子のバカ~~~!!」
 持っていたバッグを思い切り、逃げる真紀子へ投げつけた。

 ドガッ!!

 真紀子の背中にバッグが命中し、
「ギャッ」
 不意をつかれた真紀子が激しく路上に倒れる。

「だ、大丈夫!?」
「なにすんのよ!! 後ろからバッグを投げつけるなんて卑怯じゃない!!」
 鬼のような形相で怒る真紀子に、
「ごめんなさい……じゃあ、私も卑怯なことしたから、これで真紀子が私や優子を裏切ったことも帳消しってことにしようよ」
 ゼエゼエ……言いながら笑った。

「なにそれ? 落ちぶれた私への嫌がらせ? 私が本社に返り咲いたらアンタなんて……」
「じゃあ、来週から企画戦略本部室に戻って、私の新規プロジェクトに力を貸してよ!!」
「はあーーー!?」
 口をあんぐり開けたまま固まる真紀子へ、
「これ、新規プロジェクトの企画書。室長の了解はもらってるから、返事は来週までにちょうだい」
『癒しビジネス』の企画書を渡して立ち去る。

 本当は、なんで夢現神社を知っているのか? なんで木札のお守りを持っているのか? 社務所はなんでなくなって崖になったのか?
 などなど、真紀子に訊きたいことがたくさんあったけど、話せるキャパがいっぱいいっぱいで、無理だった。

「誰がアンタの企画なんて手伝うかあ!!」
 真紀子の罵声が、私の背中にぶつけられる。
「死んだってやらないわよーーー!! バカーーーー!!!」

 バーチャル真紀子が私を拒絶していた、最悪なイメージ通りの展開に、
「だよね……」
 振り返らずにつぶやいた。

 でも、後悔はしていない。

 断られたらどうしようとウジウジ悩んでいるよりも、リアル真紀子からの返答を知れたことで、気持ちはスッキリしていた。

 とその時、スマホの呼び出し音が鳴った。
 画面を見ると、すべての直営店をオペレーティングしている統括部長からだった。

「この最悪なタイミングで……」
 電話に出ようか出まいか、ためらってしまう。

 以前にアロマテラピーやエディブルフラワーの企画をさんざん馬鹿にしていた統括部長は、私が成功を収めたことが気に食わず、いまだに現場サイドから色々と嫌がらせをしてきて困っていた。

 私の上司である企画戦略本部の室長へ訴えても、統括部長は現場のトップだけに強く対応できず、なあなあな感じで、悩みの種になっていた。

「お疲れさまです……」
 渋々、電話に出ると、
「おいお前、エビフライ(エディブルフラワー)だけでもショップは大変なのに、アロマとかなんとか、新しいジャンルまで増やそうと考えてるみたいだが、そんなの無理だぞ!!」
 いきなり、怒鳴り声でまくしたててくる。

「いえ、あの、それはまだ企画段階でして……もちろん、ショップの意見も取り入れてですね……」
「お前なあ、たまたま一発当てただけでいい気になんなよ!! ショップの現場を混乱させるような企画は俺が許さん! ボツだ、ボツ!!」
「ちょっと待ってください、本部長! 私たちはもう30店舗すべてを回って、店長さんたちの意見を聞いていて……」
 必死に本部長と話している私の手からスマホがバッと奪われる。

「エッ!?」
 驚いて振り返ると、
「電話、替わりました。来週から企画戦略本部室に出戻る、秋田真紀子です」
 私のスマホを耳にあてた真紀子が、本部長相手に落ち着きはらった口調で話し始める。

「真紀子……」
 驚く私に構うことなく、
「『癒し』をテーマにした新プロジェクトの現場対応は私が担当しますので、これからは私の携帯へ直接ご連絡いただけますか? ええ、そうですね、前みたいにバッチバチでやり合いましょう。近いうちにご挨拶させていただきますので。では、失礼します」
 不気味な笑みを浮かべながら電話を切る、真紀子。

「真紀子……ありがとう……」
「別にアンタを助けたわけじゃないから。敵の敵は味方ってだけ」
 スマホを私へ返しながら、
「アイツが邪魔したせいで、私が手掛けていた関西圏プロジェクトが頓挫したのよ。そのせいで、私の評価はダダ下がり。挽回しようと焦っていた時に、エディブルフラワーの企画書が手に入って……」
「そうだったんだ……」
「ゆかり、ごめ……」
「もういいよ」
 私は、真紀子へ思い切り抱きついた。

 だいぶあとで、真紀子から聞いた話だと、私が一番最初にエディブルフラワーの企画書を見せた時から気になっていたらしく、リベンジを誓ったエディブルフラワー試食フェアーを大成功させた時、真紀子もお忍びで訪れていて、私が優子へ、
「試食フェアーがうまくいったのは、この木札ちゃんを授けてくれた『夢現神社』のおかげだから、帰りにお礼を伝えてくるね」
 と話していたのを聞いて、私の後をこっそり尾けていたらしい。

 そして、私が神主さんに『恐』おみくじを引いたことで木札ちゃんを授けてもらった思い出を感謝しながら話しているのも盗み聞きしていたらしい。

 その後、物流倉庫へ左遷になった真紀子は『夢現神社』を訪れ、なんと一万円以上もお金を払い、100個以上のおみくじを引きまくるという強引かつバチ当たり的な方法で『恐』おみくじを手に入れ、神主さんから木札のお守りを授けてもらったらしい。

 それから一年間、木札のアドバイスとぶつかりながらも、物流倉庫の物流革命に成功。しかし、本社復帰の話がまったく出てこないことに腹を立て、木札と大喧嘩したのを境にうんともすんとも反応しなくなったため、神主さんに直してもらおうと神社を訪れた時に、ばったり、私と鉢合わせになったのだった。

 おそらく、私が真紀子を恨んだ言霊の呪いを解くためにパソコンを破壊し黒焦げになった時、木札ちゃんの魂(的なもの?)が神社へ戻り、その後、真紀子の木札へ宿って、真紀子が私と協力し合えるように一年間サポートしてくれたのだと思う。

 私の黒焦げ木札ちゃんも、真紀子の木札も再び動き出すことはなくなったけれど、木札ちゃんから教えてもらったアドバイスを忘れずに、多くの人たちを幸せハッピーにする仕事をいっぱい生み出して……

「ゆかり、ゆかり起きて! 次の駅で降りるわよ!」
 隣に座っている真紀子に揺り起こされて、目が覚める。
「うわわ……ごめん、ごめん」
「アロマの大型商談を前に寝れるなんて、すごい神経してるわね」
「えへへ……。真紀子、成功させようね!」
「は? 木札のアドバイス忘れたの? 成功させる、じゃなくて、『もう成功してる』でしょ!」
「え? なにそのアドバイス? 私、知らないんだけど……」
「あ、そ……」
 目的の駅で電車が停車し、真紀子がさっさとドアの外へ歩き出す。

 慌てて、
「ちょっと待ってよ~~」
 真紀子の後を追いながら、
「さっきの木札ちゃんのアドバイス、私にも教えてよ~~!!」

「ゆかりさ~~ん! 真紀子さ~~ん! こっちですよ~~!!」
 先に到着していた優子が、改札の外で手を振っている。

「かなり難しい商談になると思うけど、突破するよ!」
 真紀子が一番最初に手を前に差し出す。

「よっしゃあ!!」
 気合の入った優子の手が、真紀子の手の上に重なる。

「みんな! いつものやつ、いくよ〜〜!!」
 私も二人の手の上に、自分の手を重ねながら、
「せ~~の~~!!」

「エイヤ! で一歩~~~~!!」

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神楽坂ささら
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