ムジⅦの映画日記『ケイコ 目を澄ませて』
ストーリー
目を澄ませるということ
手話でのやり取りを観客に伝えるために様々な手法が取られる。冒頭、弟とのやり取りは手話の後に黒い背景に文字が配されさながらサイレント映画のように示される。これが続くのかと思いきや、字幕で映し出されるときもあればケイコが口の動きを読んでいるので文字で出す必要がないシーンも有る。ケイコが同じハンデを持つ友人たちと会話を楽しむシーンは手話のみで語られ内容が観客に示されることはない。
あとはもちろん絶対的な芝居を披露する岸井ゆきのさん――『愛がなんだ』『犬も食わねどチャーリーは笑う』とも違う――の表情を変化からも目は離せない。
16mmフィルム
ラストシーンで、河川敷で橋の上を電車が行き交う視点からぐっとカメラがパンして土手の上に駆け上がったケイコを追う。逆光になってケイコの姿は陰になるのだが、ケイコのように夢を追って迷って進む私たちという視点が込められているようだった。
静寂
劇伴音楽は一切なく、音楽が流れるのは同居している弟とその恋人が奏でる音色だけである。エンドロールにも主題歌はなく、街の喧騒の中静かにキャスト・スタッフの名前が映し出される。変わりゆく下町のどこかに、ケイコのように決して強いだけでなく迷いながら懸命に生きている人がいるんだと、そう感じさせる素朴だが美しいエンドロールだった。