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狂言ござる乃座 65th@国立能楽堂

国立能楽堂で拝見する「狂言ござる乃座」も3回目(かな?)となりました。まだまだ初心者の、狂言の入口の外から覗き込んでいるような状況ではありますが、長年拝見して参りました歌舞伎とも同じ伝統芸能の世界なので感覚的に馴染みやすい部分もあり、楽しめるようにはなってきたかな?どうかな?(笑)という感じです。
拝見したのは、2022年3月31日(木)18:30~の回。
演目は、こちら。↓

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上演時間は、↓ です。
 解説・・・・・・・・・・10分
 小舞(七つ子・暁)・・・10分
 棒縛・・・・・・・・・・25分
 八句連歌・・・・・・・・25分
    <休憩 20分>
 早笛・舞働・・・・・・・5分
 田植・・・・・・・・・・20分

まだ知らぬことの多い狂言の演目なので、一応、早めに入場して、パンフレットの中に記載されている粗筋や用語(古語などの説明)を読むようにはしているのですが、今回は作品が始まる前に野村萬斎さんの解説付でした。
要点だけを話として面白く解説なさるところが、毎度ながら御上手だなと。


さて。
棒縛は歌舞伎の方でも御馴染の演目ですし、狂言でも何度か拝見したことがある、私にとっては一番「見たことのある」演目です。そして今回のラインナップの中で一番好きになった演目は「八句連歌」。今回はこの「八句連歌」について書きたいと思います。

「八句連歌」の登場人物は御二人。
元々、この御二人は連歌という趣味を通した「友」なんです。
これ、大切な大前提。

で、同時に、二人の間にはお金の貸し借りがある。
ダメですね~、お金の貸し借りは友情に亀裂が入りかねないですからね?
でも、何か事情があって、借りちゃったんでしょうね、マンサクさん。
なんと登場人物の御名前が(おふざけで)御二人の芸名なんですよ(笑)

お金を借りちゃった人・・・マンサクさん
お金を貸しちゃった人・・・マンサイさん

借りちゃったものの、なかなかお金を返すあてもなく、連歌の友であるマンサイさんの所へも顔を出しづらいマンサクさん。
でも、マンサイさんは、特に催促などもしてはいない。してはいないけれど、貸したものが返ってきていないので、微妙な蟠りは抱えてる。

ある日、あまり無沙汰をするのも何なので、返すあてはないけれど、せめて詫びをしようとマンサイさんの家を訪ねるマンサクさん。マンサイさんは、また無心に来られたのか?(そりゃかなわん)と勘違いして居留守を使う。

そうとは知らぬマンサクさん。留守ならばしょうがないと思い、「お詫び」の気持ちを連歌の上の句に忍ばせて、マンサイさんへ伝えてねと頼む。
その上の句からマンサクさんの気持ちを察したマンサイさんはマンサクさんを呼び戻し、下の句を返す。
多分、久しぶりの連歌だったんでしょうね。互いに乗ってきて、連歌合戦(笑)以前のような連歌の友としての楽しい時を過ごします。

そして、互いに、相手の(友としての)大切さを再確認したんでしょうかね?マンサイさんは「借用書」をマンサクさんに返そうとする。言わば、借金の棒引き、チャラです。
でも、マンサクさんは友だからこそ、借金は借金として返すと借用書を返そうとする。返す、返さない、返す、返さない、の攻防戦(笑)

でも、マンサクさんにとって何より嬉しかったのは、借金がチャラになるかどうかなんてことより、連歌の友との蟠りが解消したことなんですよね。攻防戦の果てに、マンサイさんの好意を素直に受けることにしたマンサクさん。

友との仲直りが出来た瞬間、マンサクさんの周りの空気感が、まるで満開の桜のようにピンク色の明るい晴れやかさに包まれたように見受けられて
演じるって、こういうことなんじゃないかな~と、思いました。

台詞そのものでもなく、その役柄の、その場面の感情を、空気感として身の回りの纏わせることで、言外に観客に感じさせる。そのことで、観客もまた同じような感情を受け取ることが出来る。その桜色のような華やかな空気を感じさせて頂いた際、私自身もとても嬉しくほのぼのしたものですから。とても素敵な作品であり、万作さんの芸にほれぼれとした回でした。


歌舞伎もそうですが、伝統芸能の世界はどうしても「芸」という技術を伴う面がありますよね。特に御若い内は、そのハードルの高さに、内心、緊張されたり、心がこわばったり、色々なことがあるのもしょうがないと思うんですよ。伝芸の御客様はそういう面も含めて、その家の芸の継承を見守っている面もありますから。
でも、上手い・下手、という技術の面以前に、そうした内心が表に出て客席に伝わってしまうことで、軽妙で楽しい作品のはずが、妙に重く息苦しい気配を言外に感じてしまう事があったりして、そうすると作品そのものの面白さや楽しさが消えてしまうんですよね。それは、上手い下手以前に、観客としては悲しいことなんです。
言うは易し、の世界かもしれませんが、作品が持つべき「空気感」は、是非、大切にして頂きたいなと、初心者は思いました。