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「旅芸人の記録」―あるいは、ある家族の物語-@スズナリ ヒトハダ第2回公演 観劇感想
旗揚げ公演「僕は歌う、青空とコーラと君のために」を拝見して以来、第2回公演を御待ちしておりました。今回は、下北沢ザ・スズナリにて上演。ドドーンと劇場が大きくなりましたが、届くヒトハダの温かさは変わらず(^^)
途中、アクシデントにより配役変更や休演があったものの、2回かな、拝見出来て嬉しかったです。またいつか、第3回公演が上演されますように。
あ、その前に、番外編として「杏仁豆腐のココロ」が12月に浅草九劇で上演されるようです(日程等の詳細は後日発表予定とのことです)。こちらも楽しみですね。同じく鄭さんの作・演出作品で、劇団ヒトハダからは浅野さんと尾上さんが御出演予定です。
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(1)公演概要
「東京公演」2024/09/05~2024/09/22 下北沢ザ・スズナリ
「大阪公演」2024/09/26~2024/09/29 扇町ミュージアムキューブCUBE01
脚本・演出:鄭 義信
出演:大鶴佐助(冬生→夏生)、浅野雅博(清治)、尾上寛之(夏生→冬生)、櫻井章喜(草野亀蔵・天野鶴姫)、梅沢昌代(蝶子)、山村京子(秋子)、丸山英彦(山本)
大衆演劇監修:一見好太郎(一見劇団)
※上演中のアクシデントにより夏生役の尾上さんが脚を負傷された為、公演途中から冬生と夏生が配役変更となりました。
(2)あらすじ
太平洋戦争まっただ中、大衆演劇の劇場、映画館は、大勢の観客で賑わっていた。劇場の外は戦火、けれど、中は笑いと涙が渦巻いていた。人々は演芸に興じることで、ひととき、暗い世相を忘れようとしたのだ。
一九四四年(昭和一九年)、関西の地方都市にある小さな大衆演劇の劇場。女剣劇を看板にする二見劇団が、十八番の「ヤクザ忠臣蔵」を上演している。
主役の藏造を演じるのは、座長の二見蝶子(梅沢昌代)。その子分を、蝶子の息子の夏生(尾上寛之)と、中堅の山本(丸山英彦)、亀蔵(櫻井章喜)が演じている。台本を書いたのは、蝶子の再婚相手、清治(浅野雅博)の連れ子である冬生(大鶴佐助)。音響係を、蝶子の娘の秋子(山村涼子)。蝶子の夫、清治は喘息持ちということで、舞台には立たず、炊事を担当している。それぞれが、一座の仕事を分担して、家族で支えていた。
ある日、夏生が役者を辞めて、川西飛行機工場で働きたいと、宣言する。清治の反対にもかかわらず、夏生は一座を離れ、一人暮らしを始める。そして、秋子も婚礼をあげ、山本も徴兵され、一座から、次々、人がいなくなってしまう。
そんな折、冬生の書いた台本が検閲に引っかかり、上演できなくなってしまう…
前回、進駐軍のコーラスグループの友情を描いたヒトハダが、今回は大衆演劇に挑戦します。人情あり・笑いあり・涙あり・歌あり・踊りありの大衆演劇エンターテインメント、乞うご期待下さい。
(3)観劇感想
①いきなり余談
劇中でも御名前が登場する、女剣劇で当時一世を風靡した大江美智子さん。
母方の祖父は観劇や芸事が大好きだった人らしく、当時の旦那衆の嗜みとして謡や三味線も習っていたらしいんですが、その祖父が生まれた一人娘に名付けたのが「美智子」さんw なんでも(大江美智子さんの)幟旗が元気よくはためいていたから、元気に育つに違いない!と肖ってのことらしいです(笑)
その母方の祖父は私が生まれて直ぐに亡くなってしまったので私自身は全く記憶が残っていないんですが、小さな頃から母方の親戚中に「祖父の生まれ変わり」と言われて育ち、学生の時から劇場通いをするようになった姿をみて、「やはり(祖父の)生まれ変わりだ」と親戚一同が納得したらしく。
まぁ、確かに、普通なら「いい加減にしないさい」と言われてもおかしくない頻度で行っておりましたのでね、おじいちゃん(前例を作っておいてくれて)ありがとう、と、亡き祖父に感謝しております(^^)
もし祖父が長生きしてくれていたら、歌舞伎座の桟敷で一緒に観劇したかったなぁ~って、学生の時、時々、想ってました(おじいちゃん持ちでw)。播磨屋好きだったらしいので、きっと話は合ったはず!(笑)
②まだちょっと余談
ここら辺りから公演の内容に触れてきますので、未見の方々はご注意を。
劇団に限らず、昭和の家庭の食事風景ってこういう感じだったような?
皆で膝突き合わせて一緒に食卓を囲む、この風景。ちなみに、召し上がってるのは揖保乃糸らしく、裏で茹でているのも賄い担当の清治さん(浅野さん)らしいです(笑) ↓
#ヒトハダ 第2回公演 #旅芸人の記録
— ヒトハダ (@hitohada_jp) September 18, 2024
休演日明けの本日14時/19時の2回公演!
カンフェティでは開演3時間前までチケット購入可能🙆♀️↓↓https://t.co/pzk1wsRo3J
ここから東京千穐楽までノンストップ!
まだまだ沢山のご来場お待ちしてます!! pic.twitter.com/m2HKtd5EYj
そして、劇中、悲喜交々の正に「悲喜」を象徴するかのような男声五重唱の民謡。いやいや、皆様、良き御声で。丸山さんも本当に良い声をなさってるので驚きました。ちなみに、この民謡の振付は一見劇団総座長の一見好太郎さん、曲は久米大作さんのオリジナルだそうです。 ↓
#ヒトハダ 第2回公演 #旅芸人の記録
— ヒトハダ (@hitohada_jp) September 22, 2024
いよいよ本日東京千穐楽!13時開演です!
当日券は12時より販売します🎟️
ザ・スズナリで最後の公演です。
ぜひ沢山の方に、この家族の物語を見届けていただきたいです。
沢山のご来場お待ちしております! pic.twitter.com/ogKyKSz8bK
市井の人々の人生も、小さな劇団の興行記録も、儚い雪のように時が経てば消えてしまうものかもしれないけれど、それでもカメラで撮った写真のように誰かの心の中に残っていくものでもある・・・そう信じたいですよね。
劇中劇「ヤクザ忠臣蔵」の雪の場面(二見劇団らしい興行が行えていた頃)と、最後の雪の美しさと儚さが心に沁みる景色でした。 ↓
#ヒトハダ 第2回公演 #旅芸人の記録
— ヒトハダ (@hitohada_jp) September 21, 2024
本日もありがとうございました!
明日は東京千穐楽。13時開演です!
当日券は開演1時間前より販売🎟️
カンフェティでは明日10時まで引換券買えます!↓↓https://t.co/pzk1wsQQeb
千穐楽でも駆け込み大歓迎!
来てくださった人は帰しません!お待ちしてます! pic.twitter.com/6Z4WltxUEt
劇団ヒトハダの公演は、結構な部分が劇団員の皆様の手作業だったりするようです。普通の興行だったらないことですが、こういう皆で力を合わせて、それでも創りたい芝居がある・・・そういう空気感が舞台上にも現れているように感じます。(降らせるのは一瞬なのに切るのは大変(^^; ) ↓
#ヒトハダ 第2回公演 #旅芸人の記録
— ヒトハダ (@hitohada_jp) September 18, 2024
本日2回公演ありがとうございました👏
明日は19時開演です!
当日券は18時から販売します🎟️
カンフェティでは16時まで引換券買えます!↓↓https://t.co/pzk1wsRo3J
劇中の雪は、稽古中劇団員全員で死に物狂いで切りました。
明日もご来場お待ちしてます! pic.twitter.com/GEYEhTDNCw
最後に、この美術も残しておきたい。
この食器棚(なんて言うんでしたっけ?何かありましたよね・・・水屋?)、おばあちゃんちに在りました! ↓
#ヒトハダ 第2回公演 #旅芸人の記録
— ヒトハダ (@hitohada_jp) September 16, 2024
本日14時開演です⚔️
当日券は13時より販売します🎟️
(上演時間約1時間45分)
駆け込みでもぜひお待ちしてます!
ザ・スズナリでお待ちしてます! pic.twitter.com/lFtHr3JtMj
③はい、やっと観劇感想
公演の半ばくらいに初見、その1週間後に2回目観劇にしてMY楽。
「あるいは、ある家族の物語」という副題が腑に落ちました。
一面では二見劇団という小さな大衆演劇の劇団の話であり、戦時下の社会の話でもあり、同時に「ある家族」の物語でもある・・・正に。
昭和と令和では家族の姿が大きく変わったとはいえ、家族という関係であり柵かもしれないけれど、家族だからこそ互いに思いやっていたり遠慮が無かったり愛情が空回りしてしまう部分って、現在でもあるんじゃないかと。自分が子供の頃だったり、大人になった今でも(あ~、そうなんだよね・・・)と自分の家族じゃないからこそ察せられるところがあって。自分が当事者だったら感情が勝っちゃって気付けないけど芝居だからこそ(あ~、そうなんだよね・・・)と気付けることがあるんですよね。
ここにある、親子の情、夫婦の情、そして姉弟愛、そして共に寝起きしている劇団員との義家族愛。
父・清治。冬夫は血のつながった連れ子。秋子と夏生は再婚相手である妻・蝶子の連れ子。そして妻は女剣劇が売りの大衆劇団の座長。
自分が蝶子と再婚するということは、劇団を下支えしていく責任と同時に、秋子や夏生という生(な)さぬ仲の二人を世間様に後ろ指さされないような(ちゃんとした)大人に育てなければならない責任を背負うことで、その荷の重さに(自分に劇団を守ることが出来るのか・・家族を幸せに出来るのか・・・)そういう不安と怖さがあって、結婚式の当日、自分の決めたことが恐ろしくなったのかな・・・と。
社会の時世が変わり、劇団員は減り、子供達は大きくなって自分の人生を考えるようになる。清治が良かれと思って勧めたことも、秋子や夏生の想いとはすれ違っていき、互いの想いが空回りしてしまう。
傍目には見放したようにみえるかもしれない言動も、大人になった秋子や夏生が自分の意志で決めたことならば、彼らの幸せを本当に願うならば、子供達を信じて自分達の好きなように生きさせてやるしかない・・・その為に、世間の波に負けそうになる子供を強く叱咤した・・・それもまた父親としての愛情だったんですよね。子供にはなかなか理解され難いけど。
それでも、(破綻する)ギリギリのところで、自分が子供達を分け隔てなく心から愛してることは伝えた。あの格闘場面の後のこと。それでも、お父さんに似て頑固な部分がある夏生は父の気持ちに気付きながら、いや、むしろ父の本当の想いに気付いたからこそ、もう一度、自分の人生を歩もうと工場に戻っていったのかも?しれません。
あの後、一度の掛け違いで諦めずに清治から夏生と向かい合っていれば。
その後悔があふれ出したのが、骨壺の場面。
あいつも馬鹿だけれど、自分はもっと馬鹿だと(大意、台詞は違うかと)いう清治の心の痛みが、大人になった今だからこそ私にも解るのかもしれないなと思いました。そうした夫の気持ちの総てを理解し、背中をさすりながら慰める蝶子の姿に夫婦の愛情や温かさを感じながら。
そうした両親の後姿を見ながら、ふと冬夫が歌い出す民謡。
それは、秋子の結婚を祝って、家族みんなが揃っていて一番幸せだった時の記憶そのものを思い浮かべる術のようでもあり。
人生の中の悲喜交々の中で、確かに自分は、家族は、幸せだったと思える大切な記憶・・・それさえあれば、人は未来への一歩をまた歩めるのだろうな、という小さな希望と、傷を背負っても生きていく人の強さだったり、ある種の業のようなものを感じたのでした。
私の脳内メモリーでは覚えられなかったけれど、清治の愛読書の一説である「巡礼」という言葉が、暗喩なのかな。
一番幸せだった時の象徴である民謡が、一番苦しい時かもしれない今を救う、あの民謡が「家族の物語」を繋げてくれる楔にも思えたのでした。
同じ場面を清治側からではなく夏生や冬夫側から見てみると。
冬夫は劇作家という思考があるからかも?しれないけど、一番、客観的に家族のことを見て考えている人なのかも。自分の脚が悪いばかりに舞台に立てない、出来れば兄にも一緒に劇団で演じて欲しい、かと言って、兄にやりたい事があるなら自由に生きて欲しいという想いもあれば、兄が(血がつながらない故に)自分に遠慮して父や劇団から離れようとしているのなら、その誤解を(誰もそんな風に想っていない)なんとか解きたいけど、なかなか解くことが出来ないでいて。
夏生は清治が大好きな本心がある故に(清治の自分を本当に想っての)厳しさを受け入れられない面があったのかなぁ・・・。それも大喧嘩の後に和解しかけたけれど、今度は逆に今までの清治の想いが解ったが故に、その想いに報いようと工場に戻る道を選んだのかも。どっちが悪いとかいうものでもなくて、本当に、ただ空回りしちゃった・・・そういう悲しさかと。
当時が戦時下でなければ。仕事先が飛行機工場でなければ。そうした禍が重なったが故の、最悪の結末だったんですよね。そうでなければ、時間がかかっても、清治と夏生は向き合えたに違いないと、そう信じたい、という想いが心に溢れました。
秋子。秋子ちゃん。少し天然で自由奔放な面もあるけれど、しっかり者のお姉さんで、子供の頃から兄弟だったり家族のムードメーカーだったんじゃないかと想像出来る強さと明るさがあって。いいお姉ちゃんなんですよね。
演じられてらっしゃったのは演出助手としても参加されていた山村涼子さん。その達者ぶりに、初見の時、本当に驚きました。凄い。
同じく劇団員の山本を演じられていたのは舞台監督の丸山英彦さん。民謡の場面や、ヤクザ忠臣蔵の場面や、出征前の場面・・・声が素晴らしいのもあるけれど、そもそも御二人とも演者が本業じゃないとは思えないほど芝居心をお持ちでいらっしゃいますよね。拝見していて、ちょっと羨ましくもあり(笑)
草亀さんって書いたら絶対怒られる(笑)
芸名・天野鶴姫。旗揚げ公演のファッティーさんと親戚かと思うw
劇団ヒトハダの愛されキャラ♪
山本と同様、家族(身内)とはちょっと違う距離感でありながら、でも劇団ファミリーとしての一体感はある存在。
今回の第2回公演と旗揚げだった第1回公演を比べて感じるのは、どちらの戯曲も鄭さんらしい感情の起伏が起こるけれど、今回の「旅芸人の記録」は心の痛みや苦しさと同時に、どこか笑いだったり明るさが両立している場面が多いように感じて、観てる側が最後近くまで(心が)苦しくなり過ぎないようになってるんじゃないか?と。そういう意味でも、秋子や鶴姫の存在が必要だったように感じました。
最後に、二見劇団の座長であり、清治の妻であり、秋子・夏生・冬夫の母である蝶子。場面場面ごとにその重心は変わっていくんですが、それがとても自然に感じると同時に、特に清治との場面は夫婦の深い愛情もあれば、子供を想う故に狼狽えてしまう母の弱さも感じられて、観客と一番近い距離で人の温かみとか愛しさとかを感じられる女性だったのかな・・・と。
昭和も遠い昔になりにけり。って感じもあるのかな?
私は幸い(笑)リアルに昭和という時代を知っていますし、戦中・戦後を生きた祖父母を記憶してるので当時の人達とか社会の感覚が解りますけれど、「昭和」「平成」「令和」と家族のありようや社会そのものも大きく変わってきたので、昭和の時代感覚を知らずに見る世代(若い子)だと感じるものが変わってくる部分があるかもしれません。
でも、いくら時代が変わっても、忘れちゃいけない、知らなきゃいけない、ことがありますよね。それが戦争であり、人種差別でもあり、日本が過去に犯してきたことの数々で。同じ過ちを繰り返さない為に、こうした演劇という形で、身近な市井の人々の歩みの中で、その痛みを体感することが、とても必要だし、続けていかなきゃいけないことだと私は思います。
この記事を書いてるのは9月23日なので、昨日、東京公演の幕が下りました。が、関西方面の皆様、これから大阪公演があります!東京公演を経て、かなりいい感じに舞台が熟成されてきています!
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劇団ヒトハダとしての特色は、その温かさと、演劇愛かな~と。
御自分達の自主公演ですので、色々と普段の仕事とは違う大変さもあるのかもしれませんけれど、それでも、観ていて(最後に私が号泣しても)カーテンコールの皆様からは(全力疾走した後の疲れに中に居ても)なんだか楽しそうな気配も感じられて。それがヒトハダかも。
ご覧になられた方々はご記憶かもしれませんが、夏生が働きたい!と言い出した時に父・清治が止める台詞の中だったかなぁ・・・
「嘘の中に真(まこと)を見せる(?)のが芝居」というニュアンスの言葉がありましたよね。この「旅芸人の記録」も、正に、そうなんじゃないかと思うし、それこそ演劇の面白さ楽しさ素晴らしさの一つだよねって想いながら帰りました。目を赤くしながら。