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野球ヒーローストーリー 『剛腕の 左のアンダースロー』 第3話

※このストーリーは全てフィクションです。

■第3話 5回をパーフェクト
2回の橘投手のピッチング
4番右打者。初球ストレート。4番打者は見送る。
2球目。緩い球。これはタイミングが合わず見送りしか無かった。
「115。チェンジアップですかね。シンカーでは無いですよね」
「分かりにくいけど、チェンジアップだろうな」
3球目。高めストレート。空振り三振。
「142。アマチュアで初見で当てるのは不可能ですね」

5番右打者。初球ツーシーム。ここで初めてのことが起こる。バットの先端の方に当たりボテボテのゴロ。橘は素早くマウンドから前方左に駆け寄り取ると、反転してアンダースローで一塁に送球し、アウト。
「初めて当たったな。しかし橘のフィールディング見事!」
「守備も聞いてた通りセンスありますね。足も速いし、
身体の使い方が、うまいショートやセカンドみたいでしたね」
「しかしさっき言った通り、ストレートの軌道を見せていないとツーシームは当てられるということだな」

6番右打者。
初球。外側のボールゾーンからストライクゾーンに曲がって入るスライダーでストライク。
「125。初めてバックドア見せましたね」
「左のアンダースローで右打者を抑え続けるのは、ストレートの威力、落ちるボール、バックドアの3つが必要と思ったが、全部できるな」
「しかもいとも簡単にストライク」
2球目。打者の近くで鋭く落ちた。空振り。
「130。今のがシンカーですね。えげつない!」
「ようやく出してきたな。完璧じゃないか!」
3球目。外角低めストレート。打者はシンカーの余韻を引きずってか
棒立ちで見送り、三振。
「シンカーのレベルが予想以上だから、ドラフト4位でもいいかもな」
「6人目の打者でようやく決め球シンカーを出してくる余裕もなんか憎いっすね」

その後の3回は、シンカー祭り。2球ボールをコールされたものの、11球でまたも三者三振。そして4回は、初めてパワーカーブを使った。打者は驚くか苦笑いばかりで、もはや橘のショータイム。11球で三者三振。
「カッターとスライダーとスローカーブがある上に真横にギュッと曲がるパワーカーブ。めちゃくちゃ引き出しが多いですね」
「右打者のインコースにも決まっていたし、完成度が高い」
「アンダースローにする前にピッチャー歴10年あって、ありとあらゆる球種を投げていたらしいです。スプリットやナックル、パームボールまで。身体能力、野球センス、手先の器用さ、メンタル、ここまで揃ってて、今まで何を遠回りしてたんだか」

5回。この回が今日の橘の最後になる。
初球。高めストレート。空振り。
「おっと147。最後の回ギア上げてきましたね」
この回は、ストレート中心にシンカー2球、ツーシームとパワーカーブを1球ずつ。少し力がはいったものの、12球で三者三振。
「最後は148キロだから自己最速ですかね?」
「無名の化け物。もう俺としてはドラフト2位でいいな」
「光る原石見つけたんではなく、完成品をいきなり見つけた感じですね。しかしこれ今日を堺に有名になりますよ」
「SNSなんかでな。とにかく挨拶は1番目しとかんとな」

5回まで投げて打者15人をパーフェクト。三振14に、当たり損ねのピッチャーゴロが1つ。投球数49球でストライク率88%。バットに当たったのはわずか3球。相手チームが強く無い草野球チームとはいえ、完璧な投球でデビュー戦を終えた。高めのストレートと真下に沈むシンカーはいずれもスイングしたバットとボールが大きく離れていて、当たる気配すら無かった。

試合は7回8対1でコールド勝ち。明日の準決勝に進める。

その日、写真や動画がネットに上がった。夜までには野球好きの間で話題になり始めていた。そして夜中の12時過ぎた頃には、その写真と動画がバズリ始めていた。

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