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Jalan Sriwijaya 98789 ドレスシューズ

「とりあえず」で買って、結局気に入っているものが、誰しもあると思う。

僕の場合、服や靴を買うときは比較的吟味しつつ、直感で買うことが多い。
例えばセールの靴を買うにしても、選択肢が限られているだけで結局は気に入ったものしか手に取らないし、シャツやジャケット・トラウザースのオーダーの際に生地をバンチから選ぶときも時間はさほどかからず見つけ出していると思う。
そのように、ある程度限られた選択肢の中で吟味はするものの、決め手となるのは直感だ。
そしてそれは大抵の場合、手持ちのものと似通ったものとなり、自身のスタイルとなってゆく。

僕にとって吟味もせず直感でもなく、「とりあえず」買ったのはこの靴だった。

Jalan Sriwijaya 98789

UA Green Label Relaxing別注で、当時はローファー専用の木型で珍しいものだった。
しかも僕としては珍しく、プロパー価格で買った(といっても3万円だが)。

なぜ買ったのかといえば、ただ本当に「なんとなく」だった。
別にかっこいいとは思わなかったし、むしろ「オジサン臭い」とすら思っていた。
革靴の魅力に取り憑かれ始めた頃で、数を揃えたかったことと、シューツリーがプレゼントされるキャンペーンが購入を後押しした。
本当に今となっては理由がわからない。

しかし、これが大成功だったのだ。

「革靴の魅力に取り憑かれ始めた」とは言っても、本当の魅力を教えてくれたのはこの靴だった。
磨くたびに増す艶や、足に沿って波打つ履き皺。
モカシン縫いが割れ、小指付近にクラックができ、色褪せやシミなどの変化も僕を魅了した。
そして何より、結果的にだが、何に合わせても何故か合ってしまう、絶妙なデザインも魅力だった。

エプロンフロントは波打つシワがあってこそだと思う

別注という性格上、GMT直営店舗(Jalan Sriwijayaの輸入や企画をしている会社だ)に履いていくと、大抵「初めて見ました」と言われる程度には珍しい靴だ。
というのも、Jalan Sriwijayaの多くはいわゆる上位ブランドのコピー品のようなモデルなのだ。
J.M.Westonの180ローファーもそうだし、同ゴルフ、Edward GreenのChelsea、Aldenの990など、プアマンズ・○○の異名をほしいままにしている。
しかしこの靴は、唯一無二だ。
作りの雑さもあり、雰囲気がムンムンに出てきてJalan Sriwijayaにしかない魅力が詰まっている靴だと思う。

そしてこの靴のその魅力を、最大限に引き出すカスタムがある。
通称「チャールズ・パッチ」である。

あえてグレインレザーを貼ってもらった

クラックが広がってきたので貼ってもらったのであり、当たり前だが決してそれ自体が目的ではない。
初めはRifareでオーダーをしたが「革の状態が悪いからすぐ破れる」と半笑いで一蹴され、RESH.で相談して施行してもらった。
上部にのみ縫いをかけて破れにくくしたため左右と下部は接着のみだが、今のところ剥がれる気配はない。

Jalan Sriwijayaの特徴は、ハンドソーン・ウェルテッド製法で作られている事、練りコルクを詰めている事、ウェルトが厚めである事、インソールが薄めである事、インソックにスポンジが厚めに入っている事などがある。

GMTの販売員は「ハンドソーンだからよく沈みますよ」と適当なセールストークを語る事があるが、本来ハンドソーンであればリブテープがない分コルクの量が減り沈みは小さくなる。
Jalan Sriwijayaの靴がよく沈むのは、ウェルトが厚いためにコルクの入る体積が大きい事と、コルクの練りが甘く空積率が高い事、そしてインソールが薄い事により沈みがダイレクトに伝わるのが理由だ。
個体によっては沈みすぎてインソールが破れたり、コルクがバラバラになってウェルトとアッパーの縫い目から粉状になって漏れる事があるが、幸い6年以上履いているこの靴ではその症状は起こっていない。

ハンドソーンなのでソールの返りがよく比較的履き始めから履きやすいが、インソックにスポンジがあるため履き心地は独特だ。
これは好き嫌いが分かれるかもしれないが、僕にとってはクッションの少ないラバーソールで歩く分にはちょうど良い具合に感じる。

皺の入り方から分かる通り、普段より若干大きめで履いている。
これはドレスシューズのフィッティングをよく知らない頃に買ったのが理由なのと、Jalan Sriwijaya独特の沈み込みの大きさが理由なのだが、しかしそれが結果としてリラックスして履く休日の気分によく合う。
さっと履いて出かけられるのも魅力だ。

磨き屋さんに預けてしっかり磨いてもらった

手持ちの靴で一番安い。
が、一番気に入って、一番長く履いている。
「とりあえず」で買ったものだが、偶然にも全てが完璧だ。

数十年後、三途の川はこれを履いて渡りたいと思う。
対岸に馴染みの磨き屋さんがあればだが。

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