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Maker's Shirt 鎌倉 MTM Thomas Mason シャツ
鎌倉シャツが好きな人は多いだろう。
僕は嫌いだった。
正確に書けば、鎌倉シャツの作るシャツは嫌いだった。
オリジナルのネクタイやハリソンのホーズは安く上質で、よく買っていた。
しかし、吊るしのシャツの身頃があまりに大きい。
そのため「これが身体に合うために、あと何kg太らないと駄目なんだろう?」と皮肉を言ったことすらある。
僕の中のイメージでは、昭和のサラリーマンの着るダボダボの「ワイシャツ」だった。
ある時「オーダーでぴったりにできないか」と相談をしたことがある。
ヒトヨシのシャツを持ち込み「これと同じようなサイズがいい」と伝えたが「随分小さな襟ですね」と嘲笑を込めて言われつつ、サイズを見てもらった。
しかしながら、身頃に対してネックサイズを5,6サイズ程度上げなければならず、パターンがそれに追いつかないため対応不可と言われたのを覚えている。
そんな鎌倉シャツだが、確か2017年だったと思うが、突然「マンハッタンモデル」というシャツを展開し始めた。
おそらく当時、ディレクターがイタリアに傾倒していたのだと思う。
取り扱っていたイタリア製シャツにパターンを寄せた、イタリア風の日本製シャツを展開し始めたのだ。
パターンも洗練され、設計がうまいためかネックサイズにも制限がなくなった。
それは今までの身頃の太さとは比較できないような細さで、僕の感覚からすればきちんとしたシャツだった。
そして襟の大きさは、あの笑われたヒトヨシのそれとほぼ同じだった。
この頃はヒトヨシのシャツを公私共に愛用していたが、阪急メンズに行かなければ買えず、折角行っても欠品していたりする上、生地のバリエーションもあまり選べなかった。
修理しようにも公式での対応はなく、一般的なお直し屋さんを使わねばならない。
そうなると、当然同じ布がないのでクレリックになるかカフを折り込んで仕上げるかしかなくなる。
更に、襟はシャツの命であるが、お直し屋さんの腕にそれが左右されてしまうのだ。
当時、鎌倉シャツにはカラーとカフを安価に修理対応してくれる「クレリックリフォーム」という公式サービスがあった。
そして一時修理対応が中断されていたが、今はマンハッタンモデルに限定して修理を受け付けている。
リペアをしながら長く愛用できるなら、多少値は張ってもオーダーが良いと僕は考えた。
吊るしのマンハッタンモデルが出た年の秋頃、遂に同モデルのオーダーが始まった。
いや、オーダーではなく、敬意を払ってMade To Measure(MTM)と呼ぼう。
断られた時と異なりネックサイズも無制限に変更できる上、調整できる箇所も多い。
早速、英国ブランドの雄、Thomas Masonで作ってもらった。
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そうなると僕も調子に乗ってしまう。
英国生地で作るなら前立てが必要だろう、とTurnbull & Asserをイメージして前立てを注文した。
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しかし忘れていたのだが、鎌倉シャツはアメリカントラッドを基本とするブランドだ。
仕上がってきたシャツの前立ては、さも無残なアメリカ風だった。
いや、アメリカ風の前立てはそれはそれで素敵なのだが、気分ではなかったと書いておこう。
ここに関しては、今から思えば失敗だった。
とはいえ、嫌いだった鎌倉シャツだが、それはサイズ感だけだったということに気付く。
合うサイズのものを着てみると、良い点がどんどん見つかってくるのだ。
まず襟だが、美しいロールを描く。
芯はヒトヨシより固めのフラシ芯で、これくらいの固さだとピシッとして見える。
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カフはコーンカフを選んだ。
サックスブルーのシャツはコンバーチブルで作ったが、カフリンクスは殆ど使う事がなかったためリペアの際に替えてもらった。
いずれもしっかり立体的に作られている。
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袖は後付けではない。
鎌倉シャツの場合、袖の付け方ではなくパターンの工夫で前振りになるよう設計されているので、それでも着心地がいい。
そして後付けにしないことで生産効率が上がり、価格が抑えられる。
正直、後付けか否かで変わる着心地は微差なので、ここは良い思い切りだと思う。
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裾のガゼットは無い。
着てしまえば見える部分ではないし、これが無いことでほつれることもないので実際は不要な意匠である。
価格も抑えられるし合理的だ。
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シャツの本質的な部分は手を抜かず、大きな効果が見込めないものは切り捨ててしまう姿勢には好感が持てる。
正直、初回のMTMだったのでサイズは多少失敗している。
しかし、ここまで良いものができれば満足で、結果的に気に入って3着作った。
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満足すると同時に、次回はもっとフィットしたシャツを作りたいと思った。
そんな想いから、かつて嫌いだったはずの鎌倉シャツのMTMの沼に、どんどんはまってゆくのであった。