見出し画像

Tricker’s Burford レースアップブーツ

僕が初めてブーツを履いたのは、たぶん自衛隊に入隊してからだった。
それは、小銃や荷物を抱えて野山を走るための靴だった。

陸上自衛隊 旧式 半長靴

自衛隊を辞めてからも、ブーツは身近に感じられた。
それまでは走る靴といえばランニング専用のシューズだったが、ブーツでも走れるということを知ったからだろう。
Timberlandのオイルレザーのブーツを履き、自衛隊で覚えたシューケアを実践しながら、テカテカのブーツで大学に通っていたのを覚えている。

歳をとるにつれ、次第にブーツを履く機会は減っていった。
今では資格職として働く身なので、通勤時のドレスシューズと休日に履く用の外羽根のレザーシューズがあれば十分なのだ。

ある時、スキルアップをしたいと思って認定資格をとった。
何万円もかけて取った資格だが、更新をするためには講習を受けなければならない。
そして、その講習にもカネがかかるのだ。
無料で受けられる講習は、山歩きをしながらガイドを受けるという内容だった。
しかし、気軽に参加してみた結果、それがとても楽しかったのでまた参加したいと思っていた。

山歩き?
…そうだ、ブーツを買わねばなるまい。
そう思った僕は、ブーツを買ってしまった。

Tricker’s Burford

例によって、セールで買った。
定価8.8万円だが、ダイナイトソールで発注したのに何故かレザーソールで納品されてしまい行き場がなくなっていたこの可哀想なブーツは、6.2万円だった。

StowやMaltonのような「いかにもTricker’s」なブーツは選ばなかった。
故・落合正勝氏は「ロゴが入っている服は広告が載っているのと同じなのに、その分客から金を余計に取るからおかしい」という旨の事を書いている。
それらのモデルは、実際にはロゴなど書いていなくても、僕から見ればロゴがあるのと同じだった。
履いている人を見ると、内心ニヤニヤして嬉しそうに履いていやがるな、と穿った見方をしてしまうのだ。

そんな定番とは少しズレたブーツだが、Tricker’s 青山店での購入だった。
その体験は、とてもいい体験だった。

Tricker’sはロンドンのジャーミン・ストリート以外に店舗を持たなかったのだが、2019年に東京の青山に出店をすることになった。
創業者一族が経営をしていた頃は保守的で話を持ちかけても断られていたらしいが、経営者が変わってからスムーズに話が進んだそうだ。
ちなみにここは直営ではなく、国内代理店であるGMTが運営している。

Tricker’s 青山店

店舗はロンドンのそれと瓜二つで、調度品や小物、看板のロイヤルワラントなども英国から持ち込んでいる。
東京の真ん中に居たはずが、一歩店内に入れば最早ロンドンである。

落ち着きのある店内は、ひやかしでも心が満たされる

ほぼ本店と同じレイアウトではあるが、本店と大きく違うのは商品のストック場所だ。
本店では地下室があるためそちらから商品を持ってくるが、ここは地下室がない。
なので、靴棚向かいのオークパネリングを模した棚に商品が隠されているのだ。
これは考えたな、と感心した。

よく見ると蝶番が見える

訪問した日はセール初日だったが生憎の雨で、ほぼ僕以外に客の来店はなかった。
店番は店長とプレスの二人が交代でやっており、僕はプレスの東さんとお話をしたが、とにかくTricker’sが好きらしく靴の話で小一時間お喋りを楽しんでしまった。
他の客のいない時間を見計らって、遊びに行くのも楽しいかもしれない(ご迷惑でなければ、だが)。

肝心のブーツだが、英国靴の履き心地とは異なる。
というのも、出自が狩りなどに使われるブーツなので革が厚く、英国靴よろしくギュウギュウに足をねじ込もうものなら、馴染む頃には自身の寿命を迎えるだろう。
しっかりとフィッティングをしてもらったが、シャフト部分で支えるという特徴もあるため通常よりハーフからワンサイズ程度大きめでよさそうだった。

黒のクリームで磨くと、味が出やすい

シューツリーは純正ではなくDascoのものを使っている。
純正のものはなかなか合わないと言われた為だ。

しかし本来は、シューツリーを装着してクリームを丁寧に塗って、などと甘やかすような靴ではない。
昔、20年間ノーメンテナンスで履き続けたTricker’sのソール交換の持ち込みがあったらしいが、なんと問題なくリペアができたと聞く。
こんなにも堅牢で無骨なブーツは、過保護に履くようなものではないのだ。

脱ぎっぱなしが一番かっこいい

実際、UNION WORKSの代表である中川一康氏は、Tricker’sに対して全くと言っていいほど丁寧なケアをしていない。
本来はタブーとされる連日の着用をし、バイクのギアも甲でグイグイ切り替え、履いたまま海や川に入り、クリームも色なんて見ずに適当に塗りたくっていて、とてもシューリペア界の雄を作り上げた人物とは思えない雑さで履いていたようだ。
それでもUNION WORKSのブログにもチラッと出てくるが、それ故か、とても美しいエイジングをしているのである。

僕もそれに倣って、雑に履いている。
このブーツを履いて子供とサッカーもするし、旅行で連日履くことも多いし、雨の日も特に気にしていない。
それこそが、Tricker’sなのだから。

肝心の山歩きだが、低山とはいえさすがにレザーソールでは沢などに滑落して命を落としかねないので、まだ山には履いて行っていない。
しかしながら、これは堅牢なダブルレザーソールでなかなか削れず、土日に履くといっても子連れのために着脱の機会が多くスニーカーに手が伸びてしまい、思うように履けていない。
よって、まだまだソール貼り替えの時期は遠い。

果たして、僕はこのブーツを山で履ける日が来るのだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?