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最近の読書

 こつこつ柔軟体操をしているお陰で、首の痛みが大分軽減しております。柔軟性、大事…!! 油断すると痛重〜くなって首の付け根がポキポキ鳴ります。骨が鳴るのって良くないそうで。気をつけないとなぁ… 
 というわけで、執筆はほどほどにしてしばらく読書に専念していました。
 まず、福井晴敏『終戦のローレライ』。

 アマゾンよりあらすじを拝借↓。
 昭和20年、日本が滅亡に瀕していた夏。崩壊したナチスドイツからもたらされた戦利潜水艦・伊507が、男たちの、国家の運命をねじ曲げてゆく。五島列島沖に沈む特殊兵器・ローレライとはなにか。終戦という歴史の分岐点を駆け抜けた魂の記録が、この国の現在を問い直す。
 
 題名だけは折々耳にしていたこちら、有名だとは知りつつも、架空戦記は守備範囲ではなく未読でした(漫画であれば、かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』などは学生時代にはまりましたけれども。架空戦記の範疇でなかったらすみません)。
 が、フォローしている堀間善憲さまが記事で取り上げておられたのを目にして、これは絶対面白そう…! とビビッと来ましてさっそく注文。読み始めたら止まらない。文句なしに面白い。ただし、面白いと言ってもエンタメとしてというのではなく(もちろん、空前のスケールのエンターテイメント小説であるのは間違いないんだけれど)、突きつけられる問いと疑問の切実さが読者を掴んで放さない、そういう類のものだと感じました。
 殺し合いに大義はあるのか。戦って死ぬことに意味などあるのか。自己欺瞞に過ぎないのではないか。敵味方問わず、生死の瀬戸際で繰り返し己に問う将兵の姿が悲痛で辛い。そして、それに対する作者の答えを追わずにはいられない。
 作中最大の黒幕、浅倉大佐の問いかけも重量級に重い。しんどい。けれども目を逸らすことを許さない、そういう問いかけです。かいつまんでまとめると、こんなところでしょうか。
 人間の本性は、所詮餓鬼なのだ。道徳と規範の箍が外れれば、共食いを始める獣なのだ。惰弱も思考停止も自己保身も駆逐されるべきであり、それらにすがる人間は生きるに値しない。餓鬼の世界を生き抜く真に強靭な人間だけが生きるに値するのではないか。それだけが国を守るのではないか。
 
 …現在の世界情勢を見れば、否定できない。いやできるはず。いや、でも。言葉に詰まります。浅倉が地獄そのものの戦場から得た教訓に、第二次大戦後の平和に馴れた身には返せる言葉もなさそうだ…と背筋が寒くなる。そして、物語の行き着くところを、どうしても知りたくなります。
 最後をどう受け取るのかは、読み手次第かもしれない。けれど、か細くも希望がある結末だと思いました。
 混沌とした現在の世界とどう向き合うのか、それを読み手に考えさせずにはおかない、すさまじい牽引力のある小説でした。リアリスティックに戦争や人の死を描いているので、苦手な方には読むのが辛いかと思いますが、一読をお勧めしたい作品。
 …ちなみに、伊507の絹見艦長が好きです。弱さと葛藤を抱える人でありながら、最後は人間を超えたかのような輝きを放っていたのが印象的でした。好き(涙)。

 堀間さまの記事はとにかく守備範囲がとてつもなく広い上に、テーマへの切り込み方といい、知性とユーモアに裏打ちされた筆力といい圧巻です。まさに縦横無尽。この膨大な知識と思考はどこから…と空恐ろしくなります。noteにはこういう凄い方がひょこっとおられるから油断できない。
 ぜひ訪れてみてください。

 もう一つは、これまたnoteでお世話になっている潮田クロさまにお勧めいただいた、藤沢周平『隠し剣 孤影抄』。

 アマゾンからあらすじを拝借↓
 秘剣術を知るがゆえに藩の陰謀に巻き込まれた男たちが、凄まじいまでの決闘に挑む。
 運命の悲哀に涙し、卓越した剣技描写に酔う「隠し剣」シリーズ8篇!

 …いや、しんどい。面白いけれどしんどい作品。何がしんどいって、初期の藤沢作品特有の陰鬱さはさておいて、規範を外れ欲望や怨念に搦め捕られる人間の性というものをこれでもかと突きつけてくるところ。グサグサ胸が抉られる。
 短編集なんですが、ローレライほど一気呵成には読めません。一話ずつ、一ページずつ、じっくり読まないと進めない。剣客小説だから生死がかかってはいるのだけれど、剣戟シーンは添え物で、そこに至るまでの過程がむしろ読みどころな気がします。自らのっぴきならぬ立場に迷い込み、争いを招き寄せる業の匂いが立ちこめていて、チャンバラよりも恐ろしい。
 どう考えてもダメなパターン、それをしたらおしまいよ、という人生の隘路に見事に迷い込んでしまう男たちの姿(女たちもなんだけど)は、見ちゃいられない。
 ところが、あるよねこういうこと、と心の奥底で思ってしまう。そこがこの作品の上手くて怖いところ。わかっているのに後戻りできない。悪魔の囁きというべきか、はたまた愛ゆえに逃れがたい運命と呼ぶべきか。現代とは違って、道を踏み外せば死あるのみという容赦のない時代が舞台ですが、非常に現代的な人間の姿を嫌というほど見せてくれます(最終話なんて救いがなさすぎてもう…)。藤沢周平の、緻密で趣きのある、品格漂う筆致は嘆息もの。それだけに強烈な余韻を残す作品です。
 ちなみに、こちら『隠し剣 秋風抄』とセットになっておりまして、そちらを読み始めたところ。ああーしんどいーーと身悶えしながら読みたいと思います。
 
 潮田クロさまは小説を書いておられるんですが、私は内心「短編の名手」とお呼びしています(短編以外ももちろん優れていらっしゃるんだけど)。相互フォローの方で、短編がぶっちぎりで上手いなーと思う方は何人かおいでなんですが、そのうちのお一方。
 とりあえず、こちらを読んでいただきたい↓

 …何ですかこの名作。と真顔で詰りたくなる一品。脂が乗りまくっていらっしゃるなと思う。「赤マント」とか「姉ちゃん」なんかもすごいです。どこからアイデアが出てくるのか、謎すぎる。潮田さま、文学全般への造詣も非常に深くていらっしゃるので、随筆もぜひ読んでいただきたいです。

 ではこのあたりで。
 皆様も、よい本との出会いがありますように♪

剣道の稽古に紛れ込んだくまより激励

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