香港の新興ヒップホップレーベルYack Studio所属のラッパー、Novel Flashの新曲。彼の新作EP《A.I.O.N》の収録曲。別のヒップホップレーベル「摩四青年」所属のラッパーPetPetShawnが客演で参加している。
「それが俺の街だ」というタイトルの通り、香港の実情、特に経済格差の問題が時にユーモアも交えながら歌われる。
ミュージックビデオの冒頭にサンプリングされているのは、香港の経済状態の不公平さを訴える1999年のテレビドラマ『創世記』の名ゼリフだ。
街全体がどれほど豊かであっても、市民の大多数はそれを享受できない。
客演のPetPetShawnの担当するパートではそんな憤りも表現される。
フックでは経済の問題に加えて、治安など別の問題も言及されている。
昨年6月に発生し、2人が亡くなったショッピング・モールPlaza Hollywoodでの刺殺事件を始め、昨今の香港では刃物による通り魔事件が複数発生し、住民の注目を集めている。
「ニュースを見れば あちこちで刺した刺された」(望住啲新聞劈來劈往)というラインは、それに関するものだろう。
広東語では「都」が「刀」が同音なので、ネット上では刃物関連事件の増加する現状を「国際大都会」ならぬ「国際大刀会」だと揶揄する声もある。「刺した刺された」の後に続く「国際大都市」という言葉は、おそらくこうした言葉遊びを踏まえたものだと思う。
香港の現状に対する不満を表現するラップとしては、以前Billy Choiというラッパーによる「悪いな、ここは香港だ」という曲を取り上げたことがある。
全体的なモチーフは、Billyの曲もこの曲も変わらない。どちらも香港の現状に対する不満を言葉にしている。
ただ一つ違いがあるとすれば、Novel Flashのラップには、ほんの少しだけ、前向きな希望のようなものが見出せることかもしれない。
「まだ希望があると思うか?悪いなここは香港だ」とBillyは吐き捨てた。
一方のNovel Flashは、音楽を通じて成り上がることへの希望も口にする。
絶望的な街の現状に不満を抱きつつ、ヒップホップという夢を追いながら、彼らはこれからも「自分の街」香港で生きていくのだ。