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霧に煙る湖の向こうにナウマンゾウの幻を見た・野尻湖をめぐる静かなトレイル〜フラット登山という提案⑩

長野県の北部、通称「北信」と呼ばれる地域は妙高山や戸隠山、黒姫山、飯縄山など、なんともカッコいい山々が連なっていて魅惑的です。それら山々のあいだに深い森や高原が点在し、人の姿は少ない——そんな印象。分水嶺の向こう、日本海側に位置することもあって森閑として深々と山々が眠っているようなエリアなのです。

ナウマンゾウ推しの観光地だけど歩いても楽しい

この北信を代表する巨大湖が、野尻湖。昭和の発掘調査で、湖畔からナウマンゾウの化石が大量に見つかったことでも有名です。北国街道から湖に入るところには巨大なナウマンゾウの像があり、湖畔にはナウマンゾウ博物館もあり、「ゾウ推し」が強めの観光地です。しかしこの野尻湖の魅力はゾウだけではありません。湖の周囲はひっそりとしていて交通量が少なく、それ以上に人も少なく、そしてあまりり知られていませんが、ぐるりと湖を一周する歩きやすいトレイルがあるのです。

公共交通機関でのアプローチは意外とかんたん。しなの鉄道北しなの線が近くを通っており、黒姫駅から歩いて40分ほどで湖畔に出ることができます。東京からだと北陸新幹線で長野まで出て、そこからしなの鉄道に乗り換えて40分弱で黒姫駅。

この日は少人数だったので、長野駅近くでカーシェアをピックアップしてクルマで向かいました。人口37万人の長野市は大きな街ですが、すぐそばにまで北信の山々が迫ってきています。見上げればそこには急傾斜の山があるという、実に山都らしい光景が広がっているのです。長野駅から北に向かって間もなく山麓のくねくね道に入り、一気に高度を上げていきます。

しばらく走ると北国街道(国道18号)と合流し、飯縄山や黒姫山が視界に入ってきたところでナウマンゾウ像が見えてきます。右に折れて湖畔に入り、無料の町営駐車場にクルマを置きます。降りてみるとうっすらと霧のような雨が降っていますが、遠くには雲が切れて晴れ間も。「雨が降ってるような曇ってるような晴れてるような」という、北陸ではよく出会う天候です。

今日はコースが短く、登山道もわずかしかないので、メレルのローカットのトレッキングシューズを履いてきています。トレッキングシューズにしては白が基調のカラーなので、都市を歩いててもそう違和感がないデザインが気に入っています。靴のサイズはいつものハイカット登山靴よりも少し小さめ。そのかわりに気楽に脱ぎ履きして、そのまま温泉施設に行ったり電車にも乗ったりしやすいのです。

レインジャケットを着用するほどでもないので、パタゴニアの薄く軽く丈夫で防風性能が高く、おまけに撥水性もある定番のフーディニを羽織ります。帽子をかぶり、バックパックを背負って出発。おっとクマ鈴も忘れずに。

今日は足回りも軽めのスタイルで。

湖を一周する道路はひとつしかないので、道間違いしようがありません。ゲストハウスやレストランが立ち並ぶ一帯を抜けると、あっという間にクルマも消えて、誰もいない静かな湖畔を歩くだけに。ただただ無心です。

やがて道路は湖畔から外れて山へとつづら折りに上がっていきます。とはいえ息が切れるほどの急登でもありません。10月の中旬でしたが紅葉は始まっておらず、みっしりと緑が密集し荒々しさも感じる広葉樹林を縫うように道は続いていきます。つねに見え隠れしている野尻湖は灰色の霧雨に閉ざされ、はるか時空の先に生きるナウマンゾウの姿が見え隠れしそう。

やがて道は平坦に戻り、1時間ほど歩くと、ぽっかりと開けた入り江と少しばかりの住宅が建ち並ぶ菅川の集落に出ました。釣りボートの出る桟橋もありますが、今日はだれもいません。

静かに眠る湖畔の集落。

桟橋のそばには小さなレストラン。「たまにはこういうお店でお昼を食べるのもいいかな」とふと思いたち、「フレンドリー」という名前のお店に立ち寄ってみることにしました。地元の野菜を揚げた具材が美味しいカレーを食べながら、灰色に沈む野尻湖を望みます。

さらに1時間ほど歩きます。途中、コンクリートの東屋を二つ通りすぎます。大事なのは二つ目の東屋。しなの鉄道の古間駅から来る道と合流するT字路のところに東屋があるのですが、ここを通りすぎたら道路の右側を注意深くチェックしながら歩きましょう。T字路からわずかに進んだところで右側に「象の小径」という標識があるはずです。道路よりも低いところに設置されていて見えにくいのでご注意を。


落ち葉がふかふかと足に優しい象の小径を歩く。

ここから車道を外れて、歩きやすく気持ちの良い登山道に入っていきます。見え隠れする野尻湖を見ながら歩みを進めると、砂間ケ崎という岬をこえたところの入り江に、突如として不思議な遺物が山側にそびえています。なにかの碑にも見え、あるいは何かの祭壇のようでもあるコンクリートの塔のまわりを、てっぺんから鉄骨がむき出しになったコンクリートの門柱が囲んでいます。まるで神殿です。銘文も表示も何もなく、謎めいています。


この朽ち果てた神殿は何?

遺物をすぎれば、まもなく象の小径は終了し、車道に戻ります。別荘群と湖のあいだにいくつもの桟橋が並び、まるで公園のような美しい景色の中を通り抜けていくと、再び道は森の中へ。左側には、サウナ界で「聖地」としてよく知られているゲストハウス・LAMP野尻湖が見えてきます。ここのサウナは本当に信じられないほど素晴らしいので、機会があればぜひ入りたいところです。なお超人気サウナですので、なるべく早めに予約を。

LAMPを過ぎれば町営駐車場まではあと少し。時間に余裕があるのなら、途中にあるナウマンゾウ博物館もお勧めです。

【歩行タイム】
野尻湖のトレイルは、一周約15キロ。ゆっくり歩いても4時間ほどで気楽に楽しめる良いコースです。
【難易度(レベル1=初心者でも誰でも〜レベル4=そこそこ難易度高し)】
レベル1=誰でも楽しめる初心者向けコースです。
【高低差】
小さな登り下りはありますが、つらく感じるほどではないでしょう。
【足まわり】
運動靴でも大丈夫ですが、象の小径は雨後にはぬかるむ場合もあるので、できればローカットのトレッキングシューズぐらいはほしいところ。
【お勧めの季節】
春から夏、秋の終わりまで。冬は積雪があります。
【官能度】
「変化に富み、足に快感がある」
「霊性を感じさせる」


雑すぎる野尻湖マップ。


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