【号外#4】 マイナビ × note コンテスト 「あの選択をしたから」 受賞によせて
本日、今年夏に行われた、マイナビ × note コンテスト「あの選択をしたから」の結果発表があった。グランプリから入賞まで合計十作品が受賞したが、応募総数は 7,482作品もあったそうだ。そんなにたくさんの作品の中から選んでいただいて、本当に幸せだ。今日は受賞によせて、コンテストに応募した作品の「続編」を書いてみたい。
受賞作紹介
少し本音を
コンテスト「あの選択をしたから」には、自分の最初の仕事である教職から、その次の仕事である音楽業界の海外営業へ転職した頃を回想したエッセイを投稿した。約15年前の出来事を振り返って書いたが、一つ確かな感覚があった。今回は号外なので、遠慮せずに書いてしまおう。
それは、「必ず入賞できる」という自信だった。note 事務局から入賞のお知らせを頂いて、最初に口にしたのは、「なにっ、グランプリじゃないのか!」だった。入賞することは、なぜか分かっていた。
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夏目漱石先生のエピソード
今日は、受賞作の続編を記したい。ゲストとして、夏目漱石先生に出てきてもらおう。多くの人にとって、夏目漱石は作家だと思うが、我々英語教育関係者にとっては、英語教師である。夏目漱石が、「坊ちゃん」の舞台となる愛媛県松山で英語の教壇に立っていた頃、生徒がこんな質問をしたという逸話が残っている。
さて、この説明で possible と probable という、二つの形容詞の意味の違いが分かるだろうか?僕も英語教師なので、追加説明をしてみよう。この二つの形容詞は一度名詞形にするとより分かりやすくなる。
Possible の名詞形は possibility、訳せば「可能性」である。そしてここで説明を終えてはいけない。「可能性」はどちらかというと、「あり」「なし」の二分法で語られることが多い概念だ。英語より数学の方が得意な人向けに説明するなら、discrete variable(=離散変数)だ。
対して、probable の名詞形は probability、訳せば「確率」で、高低の度合いを数字で表現する概念だ。数学で p = 0.05 などと書く場合の p は、probability の頭文字で、確率値は continuous variable(=連続変数)だ。そしてこの二つは、数学のみならず人生を語る上で、とても大切な概念の対をなす。
Probability で語ると夢はなくなる
欧州へきてさまざまな国の人と一緒にいると、彼らの思考が possibility(=可能性)ベースなのに対し、多くの日本人の思考が probabilistic(=確率論ベース)であることに気づく。どういう意味かかみくだいてみる。
「50歳からドイツへ留学する」と言うと、ほとんどの人は「エキサイティングな人生ですね、でもうちには子どもがいるから無理ですよ」と言う。確かに、子どもがいる状態で会社をやめ、海外留学するなんて思いもよらない人がほとんどだろう。つまりこれは、50歳で留学するという行動を、low probability(=確率が低い、多くの人はしない)な事象と見る思考だ。
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対して、よく考えてみると「50歳で会社を辞めて海外留学してはいけない」という法律はどこにもなく、僕の場合は会社勤めの時より今の方が給料も高い(ドイツでは研究職の州公務員)。周囲を見ると、今住んでいる大学のゲストハウスにも、子どもを二人連れて留学に来ている研究者が数組いる(実は日本人家族も!)。これは、子ども連れの留学は、possible(可能性はある)と見る思考である。
Possibility(可能性:あり得るか、あり得ないか)という尺度で見れば、ほとんどのことが、あり得る。しかし、一旦 probability(確率:よくあることか、あまりないことか)という尺度に切り替えた瞬間に、多くのことが「あまりないことだから、やめておこう」となってしまう。100人に1人しか達成できないことでも、達成しうることなら、それは possible だ。
友の夢は、きっと全部叶う
note を始めてから、大切な友達が3人できた。3人と、彼らの夢を紹介しよう。
残念ながら、3人の夢が実現する probability はどれも低い。まあ、高く見積もっても実現可能性は 5%以下、やめておいた方がいいというのが日本的なアドバイスだろう。しかし一旦 possibility の観点へ移すと、どれも十分にあり得るし、似た成果を上げた人は過去にいる。つまり possible だ。今回の僕のエッセイが入賞する probability = 確率は 10 ÷ 7,482 = 0.13% だったが、実際には入賞した(= possible)。3人の夢は、その思想で進めば全部ちゃんと叶う。
情けないトム・クルーズ
トム・クルーズ主演の映画シリーズのタイトルは、Mission Impossible だ。Mission Improbable ではない。トム・クルーズが飛行機につかまって空へ舞い上がった印象的なあのシーン、もし映画タイトルが Mission Improbable なら、トムは飛行機に飛び乗る代わりに、地上で電卓片手に成功確率を計算していたはずだ。そんな映画は、観たくない。
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今日は、note ではじめて頂いた賞によせて、受賞作の「続編」を、大先輩である夏目漱石先生のエピソードを引いて語ってみました。もし英語の先生がこの記事を読んでいたら、ぜひ生徒に possible と probable の話をしてみてください。possibility のバトンをつなぐ一助になると信じます。
今日もお読みくださって、ありがとうございました🥇
(2023年11月8日:コンテスト「あの選択をしたから」受賞者発表日)