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#61 地下通路と彼女の犯罪歴 ②

前回の投稿ではタイトルのうち、「地下通路」を紹介しました。今日はいよいよ「彼女の犯罪歴」です。気になりますね ^^ でも、ミステリーではありませんよ。むしろ、読み終わる時には気持ちが暖かくなることをお約束します。



The Happiness Museum

ストランゲーゼ30番地の半地下に入れて幸せいっぱいの気持ちになった後に向かったのが、先のコンテスト投稿「#58 未来のためにできること 〜幸せの意味を99%まで考えること〜」で取り上げた The Happiness Museum でした。世界で唯一「幸せとは何か」を追求した博物館です。

先日、note を始めてから最初のサポートをChatGPT要約@文系出身のSEですが、何かさんに頂いたのですが、そのお金はこの博物館の入場料の一部として使わせていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

デンマークはフィンランドと共に国連の「世界幸福度ランキング」で1・2位を独占する国。「なぜ自国は幸福度が高いのか」を学問的に問い直す視点も忘れて
いません。この博物館を取り上げた note 記事をいくつかご紹介しておきます。


謎の7つの箱?

この博物館の全体的な紹介は上の各記事にお任せするとして、ここでは一つの展示に注目します。下の写真の展示は何を表していると思いますか?

7つ並んだ、同じ大きさの箱〜重さはかなり異なる

これは、各種調査から明らかになった、様々な要素が「幸福感に与える影響」を箱の重さで表現した展示です。箱の大きさは全く同じで、重さだけが違っています。こう書かれています。

どれが一番重くてどれが一番軽いか考えてから、持ってみてください

内容は左から、「身体的健康」「失業状態」「犯罪歴」「収入」「精神的健康」「教育」「人間関係」の7つです。この7つの重さは、次のように分けられます。

圧倒的に重いもの   1つ
そこそこ重いもの   2つ
中間的な重さのもの  1つ
そこそこ軽いもの   2つ
圧倒的に軽いもの   1つ

展示者の思いつきではなく、きちんとした調査に基づいている

さて、みなさんはどれがどれにあてはまると思いますか?この結果はかなり広範囲に調べたデータをもとにしているので、そこそこの信頼性があると考えていいと思います。

この展示を見ている時に、同じく手に持つ前に熱心に考えている女性に出会いました。話しかけると向こうも話好きで、いろいろと話しました。彼女はポーランド、ワルシャワ出身で現在はロンドン在住のグラフィック・デザイナーだそうです。二人で話してその後箱を持ち比べて、その感想を話し合いました。

実は、上で「2つ」とペアになっているものには、関連性があります。そろそろ答え合わせをしてもいいでしょうか?

*    *    *

さて、答え合わせ

真ん中から行きます。「中間的な重さのもの」は「身体的健康」でした。全体の中間に物理的なものが来るのは、なんとなく納得が行きました。

次に、「そこそこ軽いもの」は「収入」と「失業状態」でした。この2つがほぼ同じ重さだったことは印象的で、彼女とは「もっと重いと思ってたけどね〜」と意気投合しました。

次に、「そこそこ重いもの」は「教育」と「人間関係」でした。身体的健康が害されていても、良好な人間関係に恵まれていれば人間は幸せでいられるのか、と想いを新たにしました。

次に(そして先に)、「圧倒的に重いもの」は「精神的健康」でした。精神的健康を損なうと、人間は自ら死を選んでしまう場合もあります。納得の結果でした。「教育」「人間関係」に比べて、2倍以上の重さでした。

最後に、「圧倒的に軽いもの」は「犯罪歴」でした。何が「犯罪」かは、実は人間が決めたこと。一番重い罪とされる殺人も、なぜか戦争中には正当化されてしまうなど、罪に対する価値観は非常に相対的です。ここで、タイトルに戻ります。彼女がぽつんとこう言ったのです……

私、実は犯罪歴あるんだよね……
こんなに軽いんだ、ほっとした。

安堵の声を出した彼女の目に涙が浮かんだかどうか、あえて見ませんでした。

*    *    *

その後、お互い「仕事何してるの?」という話になり、こんな話をしました。

彼女:グラフィックデザイナーは、生成系 AI に仕事を奪われつつある。音楽家のライブパフォーマンスは AI には奪われないけど、デザイナーが人前で絵を描いて見せて、お金を取るイベントはないから。

僕:人間が論理的に考えて文章を書く行動を生成系 AI に渡し過ぎてしまうと、「AI が文明の舵取りをする」時代を招きかねない。AI で効率化を図りつつ、人間と AI が協働する最適バランスを見つける研究をしている。

彼女:そうだよ。スマホが出た時も、「こんなものにかじりついたら、人間はだめになる」っていう人はたくさんいたけど、そんなことはなかった。だから、人間と AI の最適バランス、ちゃんと見つけてね!

彼女とは一緒に写真を撮って別れました。連絡先を交換したわけではないので、二度と会うことはないと思います。でも、大切なことを教えてくれた出会いであり、また、自分が従事する研究の価値を再認識した出会いでもありました。

この展示の前で一緒に写真を撮った。上に行くほど「微笑んでいない人が知的と思われる国」、下に行くほど「微笑んでいる人が知的と思われる国」。日本は一番上、つまり「難しい顔をしている人が知的に見える」国ということだ。本当にそれでいいのか、考えてみたい。中国が「微笑みの側」に、韓国は日本と同じく「微笑まない側」にいるのも興味深い。今住んでいるドイツは一番下、いわば「微笑んでいないと知的に見えない国」だ。これは日々大学で実感している。両端の国で暮らす機会を得たことは幸せだ。

*    *    *

もし彼女の「犯罪歴」が殺人や傷害だったら、国外で仕事をしていることもないでしょう。完全なる偏見ですが、彼女の雰囲気と風貌から、彼女の犯罪歴は麻薬関係なような気がします。誰も傷つけていないなら、「犯罪歴」の箱が軽いことを知って、これからのデザイナー人生を存分に楽しめるはずです。彼女もきっとロンドンの友人に、The Happiness Museum の話をしたに違いありません。

今日もお読みくださって、ありがとうございました🎨
(2023年9月25日)

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ささきとおる🇳🇱50歳からの海外博士挑戦
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