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長年愛用していたクロスバイクが壊れた。 大事に使っていたつもりだが、ある日乗ろうと思ったらフレームが割れていた。長年愛用していた物が、ある日急に壊れる感じが、生き物と変わらないなと悲しくなった。とはいえ、自転車は生き物とは違う、修理をすると生前動揺の輝きを取り戻し、復活する。 修理をしようと自転車屋に持っていったら、「2万はかかる」と診断された。2万も修理に出すなら新しいのを買おうかとも思ったが、30分自転車漕いて高校に行くのもそろそろ辛かったので、バス通学に切り替
俺は天にも登る気分を味わっていた。 楽しみを目の前にして、すでに幸福感で満ち溢れている。 抽選が当たってからの、ここ数ヶ月、このときの為に行きていたと言っても過言ではない。 俺は今、握手会に来ている。なんと言っても、推しメンのみなみちゃんの握手会だ。 今までは、ライブくらいしか現場に行ってなかったが、間近で、みなみちゃんと話してみたいという欲求が高ぶり、俺はついにみなみちゃんの個人握手会の抽選に申し込んで、それが見事当たった。 当たった日から今日までの間、どれ
「いらっしゃいませー!」 絶え間なく聞こえてくる入店のベルが聞こえてくると同時に俺は声を飛ばした。客に向かって言ってると言うより、入店のベルに対して、もうこれ以上鳴らないでくれと念を込めて言っていた。 咲に50万を請求され、その時すでにバイトはしていたが、俺は時給がよく長い時間働ける店を探した結果、この居酒屋で働き始めた。 店長も俺の事情を話すと、すぐに時給を上げてくれたり、休憩時間にも給料を出してくれたりしたから、その恩返しのつもりで働いている。 実際に稼げるし、
カフェにハマった。 すごくコーヒーにこだわりがあるわけではないが、カフェでコーヒでも飲みながら小説を読むのが好きになった。 今までは、休みの日は家で、アマゾンプライムでドラマをイッキ見したり、プレステでウイニングイレブンを死ぬほどしていた。 しかし、大学4年になり、就活に追われ、1日で何社も面接をはしごしたりした。その時に、カフェで待機することが自然と増えた。 着慣れていないリクルートスーツを着て、平日の昼間からカフェで時間を潰している時に、窓の外で走っているタ
HRが終わったら、皆一斉に教室から出ていく。 そんなに慌ててどこに行くんだと俺は、教室のドアの混雑が緩和されるまで、自席に座って、その様子を眺めている。他の人よりも余裕がある男を演じているわけではないが、そう思われても仕方がない。 さっきまで教室に響いていた皆が発する声や、足音が全て廊下に流れ始めた。そろそろ行くかと、机の横にかけていたカバンに手を伸ばそうとしたら、スカートから伸びた白い脚が目に入った。 脚が目に入った瞬間、身体をビクつかせてしまったが、俺は一呼吸
「あ、中田先輩、お疲れ様です」 「あ、新内」 声をかけられて初めて、隣に新内が立っていることに気づいた。 明日のプレゼンの資料を血眼で作っていたら、いつの間にか0時近くになっていた。自分の周り以外は、真っ暗で不気味なオフィスに、今更ゾッとした。。 「あ、よかったら、コーヒーどうですか?」 新内は缶コーヒを差し出してきた。 「気が利くねぇ」と俺は、笑って缶コーヒーを受け取り、椅子にもたれかかった。さっきまで前のめりになっていたせいで、腰がコンクリのように固まっていた。
自動ドアが開くと同時に、焼きたてのパンの香りに包まれる。 甘さと香ばしさが混じった香り、ここに来て初めて、自分が空腹であることに気付かされる。 ここのパンはどれも美味しい。毎朝通っているから、ここのパンは全種類一通り食べた。ここまで外れのないパンを売ってるパン屋は他にあるのか? と声を大にして言いたいくらい全部美味しい。 中でも、メロンパンが一番好きで、最近はほぼ毎日買っている。 この店は親子三代でやっているようだが、店主の孫に当たる、文字通りの看板娘のみなみちゃ
立って寝る能力を身に着けた。 コンビニの夜勤を初めて早1年。幹線道路沿いでもないし、近くに24時間のスーパーがあるから、ここのコンビニに深夜に来る客は知れている。 主な業務は掃除や品出しの作業だが、その合間合間に寝ることができるようになった。店長も事務室で爆睡しているから、別に問題ない。 それに、微かな音ですぐに目が覚めることができる。入店の音楽がなった瞬間や、事務室から店長が出てきた瞬間に、寝てた様子を残すことなく起きれる。 ピンポーンと入店の音と同時に起きた。
自由行動。 みんなその時間を一番楽しみにしていた。 友達と遠出の旅行に行ったことのない高校生にとっては、好きな友達とワイワイ騒ぎながら、好きなところへ行ける自由行動は最高なのだろう。 俺にとっては、全部ツアーみたいに、ガイド付きで案内してくれたほうが気楽だった。自分でわざわざ観光スポットを調べる必要もないし、効率がいい。なにより、自分に友達のいないことが露呈しない。 でも、自由行動反対派なんて俺くらいだから、そんなマイノリティな希望は多数派にかき消される。
「あ、樋口さん?」 バスに乗ってきた樋口さんを見つけて、俺は呟いた。 「あ!」 樋口さんも俺を見つけては、飼い主と久しぶりの再会した犬のように、笑顔をはじけさせた。 街外れの海岸線を通る路線バス。 俺はいつもこのバスに乗って、高校に行く。田舎というほど田舎ではないが、この辺りでバスに乗る学生は数人。あとは病院に行くおじいちゃんおばあちゃんくらいしか乗っていない。だから、乗客とは自然と顔見知りくらいの仲になる。 ある日、絶対に落とせない再試のために、俺はいつもより
「卒業おめでとうー」 「おめでとうー」 高校最後の学び舎の教室で、みなみとお互いの卒業を祝いあった。 さっきまで校内を練り歩いて、ひたすら写真を撮りまくっていたが、教室に財布を忘れたことに気づき、1人さびしく教室に取りに来た。 3階の校舎の端の教室。 階段を上がるのが面倒で仕方なかったが、もうそのしんどい思いをしなくなると考えると、寂しい気もする。 窓から校庭を眺めて、もうこの景色を見るのも最後かと思ったら、いつもと変わらない景色でもセンチメンタルになった。 教
「結構高いね」 目の前の彼女との会話が続かず、俺は観覧車のゴンドラから見える光景に、ありきたりな感想を言った。 「そうだね。私、結構高いところダメなんだよね」 そう答えた彼女を見ると、どこかそわそわしている様子だった。 言われてみれば、ゴンドラに乗ってからの梅ちゃんの様子はいつもと比べると変だった。どんな時でも、クールで落ち着いている彼女が、今は動揺を隠せていない。 それに女子にしては身長が高い彼女は、外の景色を見ることもなく体を縮ませている。 だけど、観覧車に乗ろ
冬の足音が聞こえ始めた頃。幼馴染のみなみと、学校の帰りが一緒になった。 みなみは家が近所で、小学校からの幼馴染だ。 高3になった今でも、俺とみなみは同じ高校で同じクラス。とはいえ、中学校に入ってからは2人で遊ぶことはなくなって、学校でも自然と話さなくなっていた 別に喧嘩をしたわけでもないし、どちらかが告白して気まずくなったわけでもない。ただただ、自然に話す機会が減って、話さなくなっただけだし、お互い部活で帰る時間も被ることはなかったからだ。 だが、先週の文化祭で俺は