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「あー、今日も授業疲れたね」 学校の帰り道。隣を歩く真夏に話しかけた。 つい先週までは、桜で華やかだった帰り道もすでに思い出、桜を見るまでは普通だった道が葉桜のせいで寂れて見えた。 でも、そんな桜の帰り道を真夏とは3年連続で歩いた。1年の時に同じクラス、隣の席になったのをきっかけに、それから3年間同じクラスで、すごい話が合うのと、家の方向が同じだから、ずっと一緒に帰っている。 「ねー。大変だったねー」 真夏は何の感情も込めずに言った。 けど、俺と真夏の日常会話だ
バス停の目の前に広がる水も張られていない、土色の田んぼを見ると余計に寂しさが増した。 今は遠くに見える橋を通って、東京に行くんだな、と上京の直前になって実感した。 2時間に1本のバスなんて、東京に行ったら有り得ない。最終バスが17時なんて、都会の発展に明らかに置いていかれているダイヤだ。時間の流れ方がまるで違う。 ぎこちなく風に吹かれて、身震いした。スマホのロック画面の時刻と、古ぼけたバス停のダイヤの時刻を見比べた。 「そろそろ、バスが来るはずなんだけどなぁ」 一
書店で本をとろうとした時にお互いの手と手が触れ合った瞬間。まるで、電流が走ったように、君に恋をした。 時が止まったように、お互いを見つめたまま、「運命の出会いだ」と脳内の言葉がハモる。 けど現実はそんな甘くない。 そんな出会いなんて、物語の中だけで存在すると思っていた。 そう思っていた。 薄汚れた現代で、こんな妄想をしている人なんて、温室育ちの純粋無垢な人でもいないんじゃないだろうか。 だから、そんな期待は一切せずに、俺は純粋にただ面白い小説を探しに書店に来た
「あ、中田先輩、お疲れ様です」 「あ、新内」 声をかけられて初めて、隣に新内が立っていることに気づいた。 明日のプレゼンの資料を血眼で作っていたら、いつの間にか0時近くになっていた。自分の周り以外は、真っ暗で不気味なオフィスに、今更ゾッとした。。 「あ、よかったら、コーヒーどうですか?」 新内は缶コーヒを差し出してきた。 「気が利くねぇ」と俺は、笑って缶コーヒーを受け取り、椅子にもたれかかった。さっきまで前のめりになっていたせいで、腰がコンクリのように固まっていた。